通常医療と闘う偽医療

はじめに 

偽医療を推奨する人たちは、通常医療を誹謗中傷して、それに対立する偽医療を持ち上げる。 しかし、何かを比較対象として貶さないと正当化できない代物が真っ当なわけがない。 本当に素晴らしいものなら、その治療効果を示せば良いだけで、通常医療を誹謗中傷する必要は全くない。

百歩譲って、通常医療がどうしようもないものだったとしよう。 しかし、そのことは、それに対立する偽医療が素晴らしいことを全く示さない。 何故なら、通常医療も偽医療もどちらも同じくらいどうしようもない可能性があるからだ。 例えば、近藤誠医師は、その主張内容は非科学的なものの、通常医療も偽医療も滅多斬りにして批判している。 だから、どれだけ通常医療を誹謗中傷しても、偽医療が素晴らしいことにはならない。

ようするに、偽医療の素晴らしさを示せないから、通常医療を誹謗中傷することを印象操作に利用しているのである。 そして、偽医療を推奨する人たちは、印象操作に利用できるものは何でも利用する。 先ほど示した近藤誠医師の言説については、偽医療批判を採り上げずに、通常医療批判だけを採り上げる。 そして、あたかも、近藤誠医師が偽医療を擁護しているかのように偽装するのである。 近藤誠医師本人は、この事実を知ったらどう想うであろうか。

医療の現況 

死亡率年次推移 

OECDが公表しているWHOデータベースを情報源としたG7のがんの死亡率推移は次のとおりである。

がんの年齢調整死亡率

This indicator presents data on deaths from cancer. There are more than 100 different types of cancers. For a large number of cancer types, the risk of developing the disease rises with age. Mortality rates are based on numbers of deaths registered in a country in a year divided by the size of the corresponding population. The rates have been directly age-standardised to the 2010 OECD population to remove variations arising from differences in age structures across countries and over time. The original source of the data is the WHO Mortality Database. This indicator is presented as a total and by gender. Cancer mortality is measured per 100 000 inhabitants (total), per 100 000 men and per 100 000 women.

この指標は、がんによる死亡に関するデータを表しています。 100種類以上のがんがあります。 多くの種類のがんでは、年齢とともに病気が発症するリスクが高くなります。 死亡率は、1年間に1人の国で登録された死亡数を、対応する人口の大きさで割ったものに基づいています。 国毎および経時的な年齢構成の差から生じる変動を取り除くために、レートは2010年のOECD人口に対して年齢調整されています。 データの情報源はWHO死亡率データベースです。 この指標は性別の合計によって示されています。 がんの死亡率は、人口10万人あたり(合計)、男性10万人あたり、および女性10万人あたりで測定されている。

Deaths from cancer - OECD Data

このデータを見ると、米国と比べて死亡率の下降開始時期が5年程遅いものの、日本も1995年以降は順調にがんの死亡率が下がり続けている。

それなのに、なぜか、偽医療を推奨する人たちは、日本(だけ)のがんの治療成績が悪化していると主張する。 実は、偽医療を推奨する人たちは、粗死亡率を持ち出して日本のがんの治療成績を語っているのである。 一方で、米国は、SEER - National Cancer Institute (米国国立がん研究所)でも、Cancer Facts and Statistics - American Cancer Society (米国対がん協会)でも、年齢調整死亡率を示すのが一般的なようで、粗死亡率のデータは見当たらない。 Deaths from cancer - OECD Dataでも粗死亡率のデータは示されておらず、世界的には年齢調整死亡率で示すのが一般的なようである。 では、偽医療を推奨する人たちは、どこから、米国の粗死亡率のデータを見つけてきたのか。 もしも、米国の年齢調整死亡率と日本の粗死亡率を比較しているなら、全く性質の違うデータを比較したことにより誤った結論を導いていることになる。

2000年までのがんの粗死亡率の国際比較データを以下に示す。

がんの粗死亡率国際比較

がんの予防(日本老年医学会雑誌2006年43巻1号 62-64) - J-STAGE

確かに、がん粗死亡率では、1990頃からイギリスは明確な減少、米国は緩やかな減少、フランスは現状維持であるのに対して、日本は明確に上昇を続けている。 一方で、年齢調整死亡率では、日本は世界的にも死亡率が低く、かつ、明確な減少傾向が見て取れる。 しかし、粗死亡率では明確な逆転現象があるのに、年齢調整死亡率ではそうした傾向が見られないのは、よく考えれば妙な話である。 どこの国も1990頃までは粗死亡率が上昇しているのに対して、年齢調整死亡率ではほぼ横ばいになっている。 そして、1990頃以降、粗死亡率では、米国は緩やかな減少、フランスは現状維持であるのに、年齢調整死亡率では明確な減少がみられる。 どうしてこのような傾向が生じるのか。 実は、特定の疾病の粗死亡率は、他の疾病の治療成績の影響を受けてしまうのである。

  • 寿命が伸びることによる年齢構成の変化の影響
  • 他の疾病を併発した人の他の疾病での死亡率の影響

詳細な説明はがんの死亡率年次推移(治療の進歩)に記載するが、粗死亡率と年齢調整死亡率の乖離は、世界的に突出して日本の高齢化が進行していることを示している。 そして、年齢構成の変化の影響を補正するだけで日本のがんの治療成績の向上が読み取れる。 後者の影響を完全に取り除くことはできないので、実際にはグラフ以上にがんの治療成績が向上していると予想される。

米国の実態 

偽医療を推奨する人たちは、欧米では通常医療を捨てて代替医療が主流になっているかのように言う。 しかし、欧米で代替医療が通常医療に取って代わった事実は存在しない。 これは、日本人の多くが英語に不慣れで欧米事情に詳しくないことを逆手に取り、かつ、検証に必要な情報を隠すことによって、偽の欧米像を信じさせようとするものである。 元々、このような嘘の欧米事情を流布する手法は今村光一氏(書籍販売と並行して薬事法違反の高額な健康食品を販売しており、バイブル本商法であることが疑われる)が1990年頃に始めたやり方である。 その頃、米国では商用インターネットが始まって数年で、日本ではインターネットが一般には普及していなかった。 だから、今のように、個人が世界中から情報を集めることは容易ではなかった。 また、欧米の医療現場で代替医療が使われていなくても、まだ研究中だからこれから通常医療と順次入れ替わっていくという言い訳ができた。 しかし、それから30年近く経った今でも効果のある代替医療は見つからず、欧米の医療現場では進歩した通常医療が使われている。 インターネットの普及でそうした実態も個人が容易に知ることができるようになった。 そんな時代になっても、未だ、今村光一氏の時代遅れの手法が、何ら新ネタも導入しないまま、そのまま使い古されているのはある意味驚きである。 30年以上前の議会証言と30年近く前の議会のレポートだけを今時の欧米事情の根拠とするのでは、その後の医学の進歩や社会事情の変化等を無視しすぎていて荒唐無稽としか言い様がない。

まず、偽医療を推奨する人たちは、米国国立がん研究所の所長だったVincent Theodore DeVita, Jr. (ヴィンセント・デヴィータ)氏が抗がん剤は無力だと1985年に議会で証言したとする(尚、Vincent Theodore DeVita, Jr.氏ではなくDavid Sidransky氏だとする人もいるが、後で説明する通り、これは完全な人物の取り違えである)。 しかし、アメリカ国立癌研究所所長は抗がん剤の効果を高く評価した - NATROMのブログでは、議会で証言したとしながら議事録が提示されないことの不自然さを指摘されている。

ネットでは真偽不明の医学情報がたくさん流れています。 その中の一つに「1985年に、アメリカ国立癌研究所のデヴィタ所長が、抗がん剤は無力だと議会で証言した」というものがあります。 議会で証言したのが事実であるなら議事録がありそうですが、きちんとソースが提示されたものは見つかりません。 現在はもちろん、1985年の時点でも、抗がん剤治療は癌治療の柱の一つです。 「アメリカ国立癌研究所所長が抗がん剤を否定した」という話は捏造されたものだと私は思います。

アメリカ国立癌研究所所長は抗がん剤の効果を高く評価した - NATROMのブログ

DeVita氏は米国がん学会誌のCancer Researchに掲載された論文のPassage of the Cancer Act of 1971 and Beyond (1971年以降のがん法の成立)の項で次のように言っている。

Finally, in 1990, the national incidence and mortality of cancer began to decline. Mortality has continued to decline each year since 1990, and in 2005, overall deaths from cancer have declined despite the larger and older U.S. population. In 2007, the rate of decline actually doubled. Whereas half of this decline is due to prevention and early diagnosis, the other half is largely due to advances in cancer treatment, much of it due to the inclusion of chemotherapy in most treatment programs.

最後に、1990年に、癌の全国的な発生率と死亡率は減少し始めました。 死亡率は1990年以降毎年減少し続けており、2005年には、米国の人口が増え、高齢化しているにもかかわらず、癌による全体的な死亡数は減少しています。 2007年には、減少率は実に2倍になりました。 この減少の半分は予防と早期診断によるものであり、残りの半分は主に化学療法を含むがん治療の進歩によるものです。

A History of Cancer Chemotherapy - Cancer Research

DeVita氏は、米国でのがんの死亡率の低下を次の原因が半々だと言っているのである。

  • 予防と早期診断
  • 主に化学療法を含むがん治療の進歩

少なくとも、DeVita氏は、通常医療が代替医療に転換したことが米国でのがんの死亡率の低下の原因だとは認めていない。 偽医療を推奨する人たちの情報源は今村光一氏であろうが、圧倒的に大量の嘘にほんの少しだけ真実を混ぜるのが彼の典型的な手口である。 だとすれば、恐らく、DeVita氏はがん治療には一定の限界があることを指摘したのだろう。 これらの発言が歪められて「抗がん剤は無力」という話にすり替えられたのだ。 発言の真意が明らかになっては困るから、議事録を示せないのだろう。

尚、この話は“米国国立がん研究所の所長”のDavid Sidransky (デビッド・シドランスキー)氏のこととして語られることがある。 彼が米国国立がん研究所早期発見研究ネットワーク代表になったのは事実であるが、1985年の議会証言の時点で米国国立がん研究所の所長であることは時系列的にあり得ない。 David氏の経歴では、1984年にヒューストンのベイラー医科大学で医学博士号を取得しているらしい。

しかし、医学博士号を取得してからわずか1年で米国国立がん研究所の所長になるのは、あまりに出世が速すぎる。 そもそも、David Sidransky氏の写真として使われているものは、明らかにVincent Theodore DeVita, Jr.氏のものである。 David Sidransky氏は、Vincent Theodore DeVita, Jr.氏よりも遥かに見た目が若く、眼鏡も掛けていない。 というか、医学博士号を取得して1年であの外見なら、どれだけ老けてるのかとビックリである。 ようするに、完全な人違いである。 自分たちの主張の裏付けすらまともに取れないのでは話にもならない。 尚、David氏も、がんの早期発見と早期治療の研究をしており、通常医療を推進している人物である。

腫瘍学の長年におよぶ過酷な現実とは、癌の治療が最も容易である最も初期のステージにおいて、癌の発見が最も困難であるという点にある。 癌の大半の種類は、早期で症状がほとんどなく、診断時にはすでに全身に転移していることも多い。

Dr. デビッド・シドランスキー(David Sidransky)氏は、癌の症状が現れる前に早期検出するための新たな改善策を模索することに着目し専門としてきた。

癌研究者プロファイル「Dr. デビッド・シドランスキー」 - 海外がん医療情報リファレンス

また、偽医療を推奨する人たちは、OTAレポートなどを紹介して、米国政府が通常医療が無力で代替医療が命を救うと認めたと言う。 しかし、米国議会の付属機関である米国連邦議会技術評価局(Office of Technology Assessment)がまとめたレポートは膨大な数があり、同じ年だけでもかなりの数がある。 偽医療を推奨する人たちは、そのうちのどのレポートなのかを明示しないため、内容の検証が妨げられている。 どうやら、彼らの言うレポートとは1990年の代替医療に関する報告書「Unconventional Cancer Treatments/OTA-H-405(非実証主義がん治療)」のことのようである。 しかし、その報告書には、偽医療を推奨する人たちが言うようなことは書いていない。 Front Matter (前付け)のForeword (序文)とEvaluating Unconventional Cancer Treatments (非実証主義がん治療の評価)のConclusions (結論)を訳せば、この報告書の概要がわかる。 そこには、主流医学が十分ではないことが指摘されているが、主流医学の治療効果は一切否定していない。 また、代替医療に対しては、有効性や安全性の客観的評価が適切になされていないことが指摘されている。 この報告書に書いてあることをまとめると次のようになる。

  1. 主流医学だけでは患者のニーズを十分に満たせない現状がある
  2. そこで、John Dingellは、代替医療について米国連邦議会技術評価局(Office of Technology Assessment)に調査させた
  3. 調査した結果、代替医療の安全性と有効性の客観的評価が全くできていないことが分かった
  4. 今後、無作為化比較試験等で代替医療の客観的評価を行う必要がある

確かに、このレポートが元になって、国立衛生研究所代替医療局(National Institute of Health, Office of Alternative Medicine)が設立され、米国が国を挙げて代替医療の研究に取り組んだのは事実である。 しかし、国立補完代替医療センター(National Center for Complementary and Alternative Medicine)に組織改変され、より本格的な研究体制に移行しても、がんに効果のある代替医療はひとつも見つからなかった。 そして、通常医療の代替的役割が期待できないことが明らかになったため、「代替(alternative)」という言葉のつかない国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health)に改称されている。

通常医療のがんの治療効果の科学的根拠は、日本の医学専門誌にも欧米の医学専門誌にもしっかりと掲載されている。 しかし、代替医療のがんの治療効果の科学的根拠は、日本の医学専門誌だけでなく、欧米の医学専門誌にも一切掲載されていない。 本当に欧米で通常医療が代替医療に転換したなら、どうして、欧米の専門誌にも科学的根拠が掲載されていないのか。

一方で、現在でも、欧米では従来の効果判定基準に基づいた新規の抗がん剤が次々に開発されている。 2000年に公表されたRECISTガイドラインでは、1979年のWHOハンドブックと同じく、がんの治療効果が腫瘍縮小効果で効果判定されることが明記されている。 WHOハンドブックより判定基準がより厳格になり、かつ、腫瘍縮小効果のない治療法の効果判定基準を追加されているが、腫瘍縮小効果で効果判定されることには変わりがない。 このガイドラインは2010年に改定されたが、やはり、腫瘍縮小効果を主たる判定基準としている。 つまり、欧米では、1990年のレポート以後も、少なくとも、2010年までは腫瘍縮小効果のあるものが有効ながん治療薬であるという方針には何ら変化はない。 むしろ、日本では、それら判定基準で作られた新薬の上市までの期間が欧米に比べて長いこと(ドラッグ・ラグ)の問題になっている。 「アメリカで抗がん剤は使われていない」という嘘について - がん治療で悩むあなたに贈る言葉では米国食品医薬品局(FDA)で承認されている抗がん剤のリストが出典へのリンク付きで紹介されている。 つまり、日本が欧米に比べて遅れているのは、通常医療から代替医療への転換ではなく、新しい通常医療の導入である。

通常医療 

手術 

医学で言うところのエビデンスとは、「ランダム化比較試験」(第III相試験)という臨床研究の結果を指します。 日常会話における「証拠」よりも厳しい基準がそこにはある。 そして、これに基づいて「放置vs手術」を比較した臨床試験はこれまでに存在しません。 というのも、それは倫理的に不可能だからです。 「放置が有効かどうか調べたいから手術しません」などという患者の意思を無視した「比較実験」がこれまでも、そしてこれからも許されるわけがない。

しかし、エビデンスはなくても、手術にメリットがあるとする「根拠」はいくつも存在しています。

その代表例として、日本の優れた胃がん手術レベルを示すデータがあり、それを対談で紹介しました。 1993年当時、国立がんセンター中央病院での早期胃がん患者1400例以上の手術成績について、他病死を除いた生存率は、5年生存率98・1%、10年生存率95・6%と報告されています。 すなわち、早期胃がんが発見されて手術を受けると95%以上は治癒するというものです。 実際の臨床現場でもこれらのデータはしっかりと再現されています。


そこで、ひとつの裏付けとなる論文データを紹介しました。 56人の早期胃がん患者が何らかの理由で放置されたケースにおいて、36人(64%)が進行がんへと変化し、早期がんのまま維持できた平均期間は3・7年だったというものです。

この論文は、がんを放置するとどうなるかの流れ(自然史)をよく示しています。 言い換えれば、早期がんの状態を一定期間キープできたとしても、高い確率で遅かれ早かれ進行がんへと移っていくということです。 また、早期胃がん手術の成績は、前項でも示した通り95%以上は治癒するわけですが、進行した状態で見つかった胃がんへの手術のみの治療成績は5年生存率で61%ほどに落ちてしまいます。

がん放置療法「近藤誠」医師の7つの嘘 - デイリー新潮P1,2

手術成績についてランダム化比較試験の結果はない。 しかし、それなりの推論を可能とする科学的根拠はある。

  • 早期胃がんの手術後10年生存率95.6%
  • 早期胃がんを放置した36人(64%)が進行がんへと変化、早期がんのまま維持できた平均期間は3.7年
  • 進行した状態で見つかった胃がんへ手術後5年生存率で61%

正確性を欠くが単純計算すると、早期胃がんを放置した36人(64%)が進行がんになってから手術する場合の8.7年生存率は約61%となる。 さらに、残りの36%の8.7年生存率が100%と仮定して加重平均をとると、早期胃がんを放置した全体の8.7年生存率は約75%となる。

  • 早期胃がんの手術後10年生存率95.6%
  • 早期胃がんを放置して進行がんになってから手術した場合の8.7年生存率は約75%

このように、倫理的に許される範囲の科学的根拠から、がんを早期発見して手術することには一定の効果があると推論される。 もちろん、今後も、倫理的に許される範囲で可能な限りデータが収集され続ける。 その結果として、手術の治療効果に疑義が生じればさらに詳細に検証される。 検証して治療効果がないという結論になれば、当然、治療法から外されることは言うまでもない。 今まで使い続けられているということは、そうした検証に耐えてきたことを示している。

抗がん剤 

最初に断っておくが、抗がん剤は「使用すれば立ち所にがんを治す薬」ではない。 現実には、そんな万能薬も万能療法も存在しない。 遥か先の未来には可能になるかもしれないが、少なくとも当面の科学技術では到底無理である。 通常医療とは、万能薬でも万能療法でもなく、使い方次第で効果を発揮する道具に過ぎない。 適切に使えば有益な効果をもたらす道具が通常医療なのである。

通常医療では、客観的な効果判定基準に沿って、治療法が承認されている。 ただし、客観的な効果判定基準が定められる前の古い治療法はこの限りではない。 しかし、新しい治療法も古い治療法も、常に効果の有無は検証され続けており、効果が疑わしいものは治療法から外されている。 通常医療は、そうした検証過程を経て効果が認められたものである。 それに対して、偽医療は、そうした検証を経ていない。

偽医療を推奨する人たちは、厚生労働省の役人が「抗がん剤はいくら使っても効果がない」と認めたと主張する。 しかし、それは発言の内容が歪められている。

麦谷課長は、まず「青天井をやめて保険給付の範囲を決めようといった議論をしようではないか」と問題提起した上で、「たとえば200万円かかった医療費のうち公的医療保険では100万円まで、残りは患者に自分で払ってもらうといったことにする。 当然、医療は伸ばすべきだと思うが、公的保険による支払いは限定させていただきたいというのが私の気持ちである」と発言し、さらに、「私的意見としては、抗がん剤は保険で払う必要がないと考えている。なぜかというと3つくらいを除いては、いくら使っても効果がないからだ。抗がん剤使用の現状を見ると、たとえば延命3カ月といわれた人の命が1年に延びるなど、ほとんどの場合それは延命効果で投与されているにすぎない」とまで発言しました。

『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻18号)』(転載) -非営利・協同総合研究所

元の発言から「3つくらいを除いて」と延命効果に関する部分が意図的に削除されている。 確かに、従来型の抗がん剤で完治できるがんは限られている。 そして、薬剤耐性もあるから、同じ抗がん剤を継続して使い続けることはできない。 しかし、それは、抗がん剤が万能ではないことを示しているだけであって、無能であることを示しているわけではない。 有限の生存期間延長に意味がないと言うならば、治癒させる治療にも意味はない。 何故なら、どんな治療法をもってしても人間を不老不死にすることはできないからである。 不老不死が実現しない以上、あらゆる治療法は有限の生存期間延長にすぎないのである。 そもそも、延命効果すらない偽医療とは比較するまでもなかろう。

偽医療を推奨する人たちは、最初の抗がん剤は毒ガスだったことを事更に強調して、抗がん剤は危険だと言う。 しかし、出自が毒ガスであるエピソードは、単に、道具は使いようであることを示しているに過ぎない。 治療効果や副作用の度合いは、臨床試験で客観的効果判定基準によって判定されるものである。 臨床試験において客観的基準で副作用を大きく凌ぐ治療効果を示せているなら、例え、それの出自が毒ガスであろうとも、その出自は有効性を否定する根拠にはなり得ない。

偽医療を推奨する人たちは、抗がん剤の発がん作用も事更に強調する。 確かに、従来型抗がん剤には少しばかりの発がん作用がある。 しかし、がん細胞の発生からがんの発症までには10年はかかるとされるので、5年生存率の極めて低い患者にとっては僅かな発がん率は大した問題とはなり得ない。 5年以内に死ぬ可能性が高いのに、10年以上後のリスクを理由に治療をしないのは馬鹿げている。

偽医療を推奨する人たちは、抗がん剤による免疫力の低下も事更に強調する。 確かに、従来型の抗がん剤には免疫細胞を減少させる副作用がある。 しかし、それは全ての患者に発現する副作用ではない。 そして、抗がん剤を投与する以上、免疫細胞の数も検査しており、人体への悪影響が生じないように管理される。 尚、発症したがんは自然免疫では退治できないので、免疫力の低下はがんの進行とは無関係である。 免疫細胞の数を検査するのは、がんの進行をコントロールするためではなく、感染症等による衰弱を防ぐためである。

何よりも問題なのは、偽医療を推奨する人たちが抗がん剤等を代わるものとして紹介するものには何ら効果がなく、場合によっては危険であることであろう。

代替医療の実態 

権威あるJournal of the National Cancer Instituteに代替医療の効果を評価した論文が掲載されている。

全患者 乳がん 精巣がん 肺がん 大腸がん

JNCI: Journal of the National Cancer Institute, Volume 110, Issue 1, 10 August 2017, Pages 121–124

標準療法との比較では、精巣がんを除いて、代替医療の方が有意に劣っている。 精巣がんも、代替医療の方が優れていることを示してはいない。 残念ながら、無治療との比較はできていないので、代替医療に何らかの治療効果があるかどうかは不明である。 しかし、通常医療と比較して代替医療の方が確実に劣ることは示されている。 以上のことから、通常医療を代替医療に転換すると、がんの治療成績が大幅に低下することは確実である。

陰謀の実現可能性 

偽医療を推奨する人たちは、陰謀論を主張するが、その実現可能性は一切検証しない。 陰謀論の大多数は、陰謀を実現する方法を少し考えれば、実現不可能であったり、致命的な矛盾が生じることが分かる。

  • 絶大な権力があるのに自分たちに不利になることを阻止しない、または、できない(丸山ワクチン陰謀論等はこの類)
  • 口封じの対象者が多すぎるのに、何故か、全員の口封じに成功している
  • 情報統制がしっかりしているのに、何故か、外部に情報が漏れている
    • 議会証言や報告書等の公開された情報なのに、一般人には情報にアクセスできない
    • 誰もアクセスできない情報なのに、何故か、一握りの健康食品評論家は情報にアクセスできる(陰謀論の情報源をたどると一握りの人に行き着く)
  • 金の亡者が儲け話に手を出さずに潰そうとする

例えば、今村光一氏は、(日本人には)隠された情報があり、それが陰謀の存在を裏付けていると主張する。 しかし、今村光一氏は、どうやって、(日本人の)誰にもアクセスできないはずの情報を手に入れたのか。 CIAのエージェントならば、ともかく、今村光一氏は一介の健康食品評論家(というか、本業は健康食品業者)に過ぎない。 それなのに、どうして、そのような機密情報を今村光一氏は手に入れることができたのか。 逆に言えば、どうして、一介の健康食品評論家に手に入れられる情報が、他の人には手に入れられないのか。 普通に考えればおかしいと気づくだろう。

タネを明かせば、今村光一氏が陰謀論の根拠にしている情報は、一般公開されているので情報の在りかさえ知っていれば誰でもアクセスできる。 だから、情報の在りかを知っている人は、そこに陰謀論の根拠となることが何も書かれていないことを知っている。 しかし、その情報の在りかを知らない人が圧倒的に多い。 今村光一氏は、多数の人の無知を悪用して、その情報の内容を改変して(日本人には)隠された情報があると大ボラを吹いているのである。 そして、その改変は今村光一氏独自のものである。 さらに、第二の今村光一氏が登場しないので、嘘の欧米情報を流布するには、何十年も前のカビの生えた今村光一氏の著書等から情報を得るしかない。 結果として、世間に溢れる同様の情報は、全て、今村光一氏独自の嘘の劣化コピーばかりになる。 つまり、今村光一氏しか政府の極秘情報にアクセスできないのではなく、今村光一氏が嘘の発信元だから、同様の陰謀論の情報源をたどると全て今村光一氏に行き着くのである。

偽医療の検証 

鵜呑みにする前に科学的根拠をきちんと調べた方が良い。

これらに記載されていないようなものは、最近出てきたものや全く無名なものであろうから、当然、まともな実績などあろうはずもない。

体験談の検証 

偽医療でがんを治したと主張する人は珍しくない。 しかし、検証可能な情報が提示されているケースでは次のような事例が多い。

  • 手術等でがんを治した
  • がんではなかった
  • 全く改善していないか、むしろ、悪化している

体験談に記載しているとおり、検証可能な情報が提示されていないケースを除くと、偽医療に治療効果があったとしか考えられないケースは皆無である。

例えば、星野仁彦氏は、手術とエタノール局所注入法でがんを治癒させたことが明らかである。 その後、ゲルソン療法を実施しているようだが、それが効いたと考えるべき理由がまるでない。 それなのに、星野仁彦氏は通常医療を批判して偽医療を推奨する。 通常医療でがんを治しておきながら、通常医療を批判して偽医療を推奨するのは全く不合理である。

例えば、いずみの会式玄米菜食を推奨していた中山氏は、偽医療を信じてがんを悪化させ、あやうく偽医療に殺されかけた後、手術で一命を取り止めたにも関わらず、通常医療を批判して偽医療を推奨する。

科学的根拠と原理解明の取り違え 

偽医療を推奨する人たちは、原理を解明することを科学的根拠だと誤解している。 真の科学的根拠とは、実験等で実証することである。 科学的根拠があって原理のわからないものも多数ある。 原理らしきものは解明されているのに科学的根拠がないものも多数ある。

医学分野においては、公的機関に事前に治験計画(プロトコール)を提出し、後から条件等を変えられないようにして、厳格な評価基準に基づいて効いているかどうかを判定する。 当然、偽医療が主張する“実績”のような、効いているとも、効いていないとも、解釈次第でどちらとも取れるような“実績”では科学的根拠とはならない。 効いていないと仮定すると辻褄が合わない客観的データを取ってこそ、科学的根拠となる。 丸山ワクチンも、効いているとも、効いていないとも、解釈次第でどちらとも取れるようなデータしかなかったから承認されなかったのである。

それっぽい理屈 

先ほども言った通り、偽医療を推奨する人たちは、原理を解明することを科学的根拠だと誤解している 故に、偽医療は、素人を納得させるためのそれっぽい理屈だけは多い。 がんが発生するメカニズムの説明だとか、原理(作用機序)説明には余念がない。 しかし、偽医療の理屈は量が多いだけで全く質が伴っていない。

培養細胞実験動物実験に基づいていればまだマシな方である。 しかし、偽医療の多くの理論は、提唱者の想像だけで構築されている。 現在でも、人体の機能が殆ど解明されていないから、培養細胞実験等では正確な効果を予測することはできない。 また、人と動物では体の仕組みに違う所があったり、実験の条件が非現実だったりすることにより、動物実験からも正確な効果を予測することはできない。 だから、新しい理論を提唱しても、それを実際に人に試さない限り、本当に正しい理論かどうかは分からないのである。 また、いくら人に試しても、効いたかどうかを検証せずに、効いたことにしているだけでは何の意味もない(詳細は後述)。 人間で効果を検証していない想像だけで構築された理論は、いくら素人目にはそれっぽく見えても、ただのフィクションに過ぎない。

真偽不明の仮説を唱えるならまだマシな方である。 偽医療の中でも特に酷いものになると、明らかに臨床結果と矛盾する理論が散見される。 自律神経免疫療法などは、臨床結果と致命的に矛盾する仮説の塊である。 千島学説なども、臨床結果と致命的に矛盾する仮説の塊として有名であるが、偽医療では良く引用される。

本当に効果があったのか? 

何度も言う通り、偽医療の最大の問題は、根拠なき理論構築には余念がない一方で、科学的根拠が全くないことである。 科学的根拠が全くないにも関わらず、何故か、偽医療では、治療の実績を強調する。 しかし、その実績は、客観的に治療効果を実証した実績ではなく、コジツケに基づいて治療効果があったことにした実績に過ぎない。 尚、科学的根拠とは、それが正しいと仮定すれば辻褄の合うことではなく、それが間違っていると仮定すれば辻褄の合わないことである。 効いたと仮定すれば辻褄が合っても、効いていないと仮定しても辻褄が合うなら、それは効いた証拠にはならない。

本当に治療効果があったかどうかを検証するなら、明確な効果判定基準が必要である。 その効果判定基準は科学的に妥当な基準でなければならない。 そして、それは主観の入り込む余地がない客観的な基準でなければならない。 もしも、主観的な効果判定基準を採用するなら、盲検化によってバイアスを排除する必要がある。 また、他の治療を併用する場合は、併用療法の効果と区別することも必要である。 そうした科学的に妥当かつ客観的な効果判定基準に基づいた検証が為されて、初めて、効いた実績となるのである。 そして、本当に効いた実績があり、かつ、それが画期的な結果であれば、その実績をまとめて専門誌等に論文として寄稿すれば間違いなく掲載されるだろう。 偽医療では、本当に効いた実績がないから、素人向けの媒体を利用して、コジツケだらけのインチキ実績をアピールするしかないのである。

例えば、丸山氏の報告では、平均生存期間との比較で「有効」を計っているが、その判定基準では何の治療効果がなくても「有効」率50%を達成できてしまう。 これが科学的に妥当な基準でないことは言うまでもない。 丸山ワクチンのように厚生労働省に医薬申請手続きしたものですら、そんな有様である。 真性の偽医療では、施術者や患者が効いたと言っているだけの実績に過ぎない。 「新免疫療法」を標榜して逮捕された元教授に至っては、独自に効果判定基準を作り、手術で摘出した事例を「新免疫療法」で消失したことにしたり、腫瘍が増大した事例でも縮小したことにしていたようだ。

有害性 

偽医療では、有害性についても隠蔽がよく見られる。 だから、次のような情報をよく確認した方が良い。

これらに記載されていないようなものは、最近出てきたものや全く無名なものであろうから、当然、まともな実績などあろうはずもない。

自然治癒力・免疫信仰 

偽医療を推奨する人たちは自然治癒力万能説免疫万能説を信じる人が多い。 しかし、もしも自然治癒力が万能なら、人をどれだけ切り刻んでも即座に治癒するはずである。 また、抗がん剤や放射線療法の副作用全く問題にならないはずである。 もしも、免疫が万能なら、いかなる感染症にも罹患しないはずであるし、がんに罹患するはずもない。 しかし、現実はそうはならない。 それは、自然治癒力・免疫が万能ではないことを示している。

免疫万能説では、人体で毎日数百万個のがん細胞が出来ており、免疫が弱るからがんに罹患することとなっている。 さらに、免疫万能説では、弱っていた免疫力が回復することによって自然退縮・自然治癒が生じるとされる。 それが確かなら、がん患者には夥しい数の併発(併発は原発巣の違うがんであり、原発巣の同じ転移とは全く違う)が起きなければ辻褄が合わない。 しかし、2つのがんの併発すら極めて珍しい症例であり、有史以来、夥しい数の併発が起きた症例は一件も報告がない。 また、がん細胞の発生からがんの発症までには10年はかかるとされるので、免疫が弱ることが原因なら、その人は10年以上免疫が低下し続けていたことになる。 それならば、がんに罹患した人は感染症の罹患率も有意に高いはずであるが、そのような研究報告は一件もない。

そのような矛盾に溢れた解釈よりは、免疫を逃れる機能を獲得できた場合だけが、がんとして発症すると考えた方が無理がない。 そして、自然退縮・自然治癒事例は、特殊な性質を持つがんであるか、特殊な遺伝的特性を持った人であると考えられる。 例えば、カポジ肉腫は特殊な性質を持つがんの具体例である。 カポジ肉腫は、免疫不全の場合に高確率で発症するが、免疫不全以外でも発症する。 免疫不全以外で発症するカポジ肉腫は、ごく稀な症例であり、かつ、高確率で自然退縮・自然治癒する。 だから、自然退縮・自然治癒が一部事例だけに留まり、殆どのがんは自然退縮・自然治癒しないのである。

免疫療法で成功しているものは、免疫の仕組みを利用したモノクローナル抗体等の外部から抗がん作用を与えるものばかりである。 人間の持つ自然治癒力・免疫を高めて治療するものは未だに成功していない。 インターフェロンやインターロイキン等のサイトカイン療法も、外部から免疫調節因子を投入する療法であり、がんの種類によってはそこそこ成功している部類だろう。 一方で、一時期大ヒットしたクレスチン等のBRM製剤は副作用こそ乏しかったものの効果も全く見られず、効能限定となっている。 丸山ワクチンなどは臨床試験を行っても治療効果を実証できなかった。

効かなかった時の言い訳 

偽医療では、効かなかった時、あなたには偶々効かなかっただけとか、もう少し続ければ効く等で真偽を確認できない言い訳をする。 では、一体、何割の人に効くのか? どれだけ続ければ効くのか? それらを誤魔化すのが偽医療の特徴である。

それに対して、通常医療では、どのような条件でどれだけの人に効くのか、臨床試験でデータを採る。 だから、通常医療では、曖昧にボカした言い訳はしない。 インフォームドコンセントが適切に行われれば、治療前に臨床成績の説明をしている。

偽医療では、酷い場合は、副作用も「好転反応」だと言い張る。 その治療効果の科学的根拠も、副作用との因果関係の科学的根拠もないのに、何を根拠に「好転反応」と言っているのか。

検証妨害行為 

偽医療は、ほぼ全て、徹底的にその検証を妨害する傾向がある。 “画期的”な新療法を開発したにも関わらず、一般向けにメディアで発表しておいて、その実績をまとめて専門誌等に論文として寄稿しようとしないなど、まさに、検証を回避する姿勢そのものである。 とくに、田舎大学とは言え、国立大学医学部の教授職にありながら、“画期的”な新療法を一般向けの書籍等でだけ発表して専門誌等に寄稿しないことは、まともな医学関係者なら絶対にしないことである。 「日本の医学界が閉鎖的だから寄稿しても掲載されない」という言い訳が良く使われるが、それならば、欧米の専門誌等に寄稿すれば良いだけである。 というか、本当に画期的な発見ならば、世界中の専門家の目に止まるよう英語の専門誌等に寄稿するのが常識である。 それなのに、どうして、彼らは欧米の専門誌等にすら寄稿しないのか。

偽医療は、素人向けの啓蒙においても、検証妨害は顕著である。 偽医療を推奨する人たちが具体的に名前を挙げる人のほとんどは科学的根拠も示さずに妄想論を展開するトンデモ論者ばかりである。

  • 安保徹
  • 福田稔
  • 船瀬俊介
  • 星野仁彦(先ほどの紹介した通り、通常療法でがんを完治させながら、偽医療を推奨している)

これらトンデモ論者が何ら科学的根拠も示さずに妄想を論じていることが何の根拠にもならないことは言うまでもない。

偽医療を推奨する人たちが、トンデモ論者以外の名前を挙げる場合は、その人が正確に何と言ったのかは示さない。 議会での証言であっても議事録すら示さない。 公的機関の報告書であっても、具体的にどの報告書かを明確にせず、特定するための情報を必死に隠蔽する。 そして、発言や記述等の内容を都合よくつまみ食いし、持論に都合の良いように作り変えて、全く趣旨の違う結論を作り出す。 さすがに、近藤誠医師(違う意味でトンデモ論者の1人だが)のような偽医療否定者の発言を偽医療肯定発言に作り変えるのはやりすぎである。

その他は「多くの専門家」というように、具体的に誰が言っているのか明確にしない。

さらに、偽医療を推奨する人たちは、その偽医療に対する決定的な反論は絶対に紹介しない。 ただし、再反論しやすい稚拙な反論だけは紹介することがある。 しかし、再反論できない決定的な反論は絶対に紹介しない。 そして、再反論できない決定的な反論が布教対象の目に触れてはまずいので、「感情論しか言えない」「どこがどう間違っているのか、具体的なことが書けない」等のレッテルを貼って無価値な情報であるかのように先入観を植え付ける。 以下にその具体例を挙げる。

2017年8月24日発売の「週刊新潮」にて、プレジデント社発行の『がんが自然に治る生き方』(ケリー・ターナー著)について触れた記事が掲載されました。 本件記事は、事実確認さえ怠った根拠のない指摘で、いわれのない批判により、著者と弊社に損害を与え、読者の不安を煽るものです。 当社では8月25日付で、週刊新潮編集部に抗議文を送付しました。 読者の皆様のご不安に応えるため、その内容をこちらに掲載いたします。

※2017年9月18日付で新潮社より本記事に対する回答がありました。 内容は弊社の指摘に対する有効な反論となっていないと判断し、掲載しません。(2018年1月24日追記)

週刊新潮2017年8月31日号の記事について - PRESIDENT Online

新潮社からの本記事に対する回答を紹介したうえで「内容は弊社の指摘に対する有効な反論となっていない」と記載するなら分かる。 しかし、「掲載しません」は全く意味不明である。 本当に「内容は弊社の指摘に対する有効な反論となっていない」なら、掲載するデメリットはないはずだし、自分たちの正当性を示すためにも掲載した方が都合が良いはずである。 そもそも、自分たちから「新潮編集部に抗議文を送付」し「その内容をこちらに掲載」したのではないのか。 それなのに、何故、新潮社からの回答があった途端に、唐突に「掲載しません」と方針を変更するのか。 それは、新潮社からの回答が「弊社の指摘に対する有効な反論となって」いて、かつ、それに対する再反論が困難だからではないのか。 とくに、(4)(5)で第三者に書籍を悪用されただけで出版社の責任のように言うのは名誉毀損だと息巻いていた部分に「いやいや、その悪用した奴もお前ん所の関係者じゃねえか」と突っ込まれたことに対して、どうして、事実関係の否定すらしないのだろうか。 事実無根であるなら、名指しされた人はそんなことしていないとか、その人は自社とは無関係だとか、いくらでも言えるはずである。 「読者の皆様のご不安に応える」ことを口実にするなら、当然、事実関係を明らかにして然るべきだろう。 それなのに、「内容は弊社の指摘に対する有効な反論となっていない」と、事実関係を暈した言い方は不自然極まりない。 もっとそもそも論を言えば、本当に名誉毀損を受けていて、それに対して「読者の皆様のご不安に応える」必要があるなら、どうして訴訟に訴えないのか。 言い訳しようもなかったから、「掲載しません」として闇に葬り去るしか選択肢がなかったのではないか。 というか、そういうツッコミが入ることは当然予想できるはずで、何故、負けが確定してる喧嘩をわざわざ売るのか。 4ヶ月も経ってから「新潮社より本記事に対する回答がありました」と追記したのも、再反論の余地が全くないから、新潮社からの回答がなかったことにして誤魔化そうとしていた所、新潮社から次のように指摘され、読者からの問い合わせもあり、仕方なく、言い逃れとして追記したのだろう。

これを受け、週刊新潮編集部は同年9月18日付でプレジデント社へ回答書を送付しましたが、以降、プレジデント社からの応答はなく、上記プレジデントオンライン記事には〈新潮社からの回答はありません〉と表示されたままでした。

本記事に対する回答

他社からの回答が1ヶ月弱来ないだけで「回答はありません」と記載しておいて、自社の対応は4ヶ月待ちって、ダブルスタンダードが酷すぎる。 多分、読者からの問い合わせがなければ永久に「回答はありません」のまま放置していたのだろう。 このように、偽医療を推奨する人たちは、批判されたら反発する一方で、都合の悪い情報が出て来た途端に隠蔽工作に走るのである。

尚、この負け犬の遠吠えはネットでも話題になっているようなので紹介しておく。

利権 

通常医療の利権 

偽医療の推奨者たちは、偽医療が医療利権によって潰されると言う。 しかし、それは利権者の立場で考えれば明らかに矛盾している。 常識で考えれば、より効果のある医薬品・治療法ほど儲かる。 何故なら、死んだ患者からは金を取れないからである。 治療が長引けば、その間は継続して治療費を取れる。 完治しても、不老不死になるわけではないので、また別の疾患に罹患した時に治療費を取れる。 言うまでもなく、死んだ患者からは、これらの治療費を取れない。 だから、利権者にとっては治療効果の高い医薬品・治療法ほど儲かるのである。 それなのに、利権者が有望な医薬品・治療法の候補に触手を伸ばすことなく、潰しにかかるなどあり得ない。 金の亡者であれば、儲け話をみすみすふいにすることなど考えられないことだろう。

例えば、丸山ワクチン陰謀論では大手製薬会社の誘いを断ったというシナリオで利権との対立に説得力を持たせようとする。 (実際は、丸山氏が組んだ相手は旧山之内製薬の常務や旧科研薬工業の社長も務めた伊部氏が創業した企業であって大手と無関係ではなかった。) しかし、大手製薬会社の誘いを断る理由は不可解としか言い様がない。 患者の利益を最優先に考えるなら、効果のある治療法を早く、かつ、確実に世に出すことが重要である。 その点では、陰謀論を信じるにしろ、信じないにしろ、大手製薬会社と組んだ方が圧倒的に都合が良い。 ノウハウの豊富な企業の方が有利なことは言うまでもないし、大手なら陰謀で潰される危険性も低い。 それなのに、何故、大手の誘いを断るのか。 患者の利益より発見者個人の利権を優先したのでなければ、全く説明がつかない。 大手相手では発見者個人の権利を主張しにくいから大手の誘いを断ったのではないか。

偽医療の利権 

偽医療を推奨する人たちは、医療利権を事更に強調する。 しかし、彼らは、偽医療利権を完全に無視する。

偽医療利権は規模としてはそれほど大きくない。 しかし、偽医療利権で儲けている人は、まともな医療関係者に比べれば圧倒的に少ない。 結果、偽医療による個人収益は非常に大きい。 偽医療で逮捕される人が時々報道されるが、彼らが偽医療から得た利益は何千万とか億の単位である。

偽医療では、科学的根拠のないインチキなもので患者から多額の金を巻き上げている。 その点で、偽医療利権は医療利権よりも遥かに看過できない問題である。 しかし、偽医療を推奨する人たちは、偽医療利権を完全に無視する。


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