プラセボ効果は期待できる?
プラセボ効果と呼ばれる物
「プラセボ効果が期待できるからインチキ“治療”法も容認すべき」とする意見がある。 しかし、一般に、プラセボ効果と呼ばれる物は、全て、真の治療効果を意味しているわけではない。 プラセボ効果による治療効果”には次の2通りの可能性がある。
- 思い込みによって生じる見かけ上の治療効果
- 本当に生じている真の治療効果
見かけ上の治療効果は、実際には治療効果がないのだから、インチキ“治療”法を正当化する理由にならない。
systematic review
130の研究の系統的レビューでは次のとおり評価されている。
We identified 130 trials that met our inclusion criteria. After the exclusion of 16 trials without relevant data on outcomes, there were 32 with binary outcomes (involving 3795 patients, with a median of 51 patients per trial) and 82 with continuous outcomes (involving 4730 patients, with a median of 27 patients per trial). As compared with no treatment, placebo had no significant effect on binary outcomes, regardless of whether these outcomes were subjective or objective. For the trials with continuous outcomes, placebo had a beneficial effect, but the effect decreased with increasing sample size, indicating a possible bias related to the effects of small trials. The pooled standardized mean difference was significant for the trials with subjective outcomes but not for those with objective outcomes.
N Engl J Med 2001; 344 : 1594 - 602. (DOI: 10.1056/NEJM200105243442106)
組み入れ基準に合致した試験を130試験同定した. このうち転帰に関連したデータがなかった16試験を除外すると,二つの値で転帰を評価した試験が32試験(これらの試験には合計で3,795例の患者が含まれ,各試験の患者数の中央値は51例),連続した値で転帰を評価した試験が82試験(これらの試験には合計で4,730例の患者が含まれ,各試験の患者数の中央値は27例)であった. 2値変数の転帰の場合には,これらの転帰が自覚的あるいは他覚的なものかどうかには関係なく,プラセボには,無治療と比較して有意な効果は認められなかった. これに対して連続値の転帰の場合には,プラセボに有益な効果が認められたものの,その効果は標本数が大きくなるにつれて小さくなったことから,小規模試験の効果に関連したバイアスの可能性が示された. 併合した全体の標準化平均差は,自覚的転帰の試験では有意であったが,他覚的転帰の試験では有意ではなかった.
- 効果あり、なしの2値では、自覚症状も他覚症状も有意な効果なし
- 連続値(あり、なしの2値ではない)の場合は有意であるが、規模が大きくなるほど小さくなるので、バイアスの可能性がある
- 全体として、自覚症状では有意であるが、他覚症状では有意ではない
真の治療効果があるなら客観的診断が可能な他覚症状でも有意となるはずである。 しかし、結果は、客観的診断ができない自覚症状でのみ有意である。 よって、これは見かけ上の治療効果である可能性が高い。 「何となく楽になった気がする」という気休め以上の効果は期待できない。
百歩譲って、プラセボに真の治療効果があったしても、生理食塩水等で十分であろう。 怪しげな代物、高価な代物、安全性が担保されていない代物を正当化する理由にはならない。
盲検法を採用する理由
プラセボ効果は、例え、それが見かけ上の効果であろうとも、比較臨床試験の結果を歪めてしまう。 だから、主観的な判定方法を採用する比較臨床試験では盲検条件が欠かせない。
生死等の客観的に明確に白黒のつく判定基準があれば良いが、そうでない場合は見かけ上の治療効果が生じる可能性がある。 言うまでもなく、見かけ上の治療効果には実際の治療効果はない。
特に、患者の自覚症状については、見かけ上の治療効果が現れやすい。 患者に思い込みがない場合は、自己申告による誤差は方向にバラツキがあるために、多数のデータの平均を取ることで誤差が相殺されると期待される。 しかし、患者に思い込みがある場合は、自己申告による誤差が同一方向(良くなるという思い込みならば症状改善方向)に固定されるために、多数のデータの平均をとっても誤差が相殺されることはなくなる。 そうした誤差の偏りが発生すれば、実際の患者の自覚症状が改善していないにもかかわらず、思い込みにより改善をされたかのようなデータになってしまう。 よって、プラセボ効果が生じたとしても、それは、真の治療効果を示す根拠とはならない。
また、診断する側の主観が影響するような診断基準であれば、同様に診断する側の主観による見かけ上の治療効果が現れる。 だから、他覚症状の診断基準が主観的である場合は、治療にあたる医師も含めた盲検条件(二重盲検)を採用する必要がある。
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