週刊誌記事「丸山ワクチンはなぜ『認可』されなかったのか。」
これは丸山ワクチンの真相の一部である。
TV番組とネット上の噂話は以下に移動した。
週刊誌記事
ここで紹介する週刊新潮記事を何の先入観もなしに読んで、何の疑問も持たずに「医学界の不条理な権威主義や官民の癒着」のせいで「患者を置き去りにした不可解な認可審議」が行われた結果として丸山ワクチンが「認可されなかった」という話を鵜呑みにする人は、詐欺に騙されやすい人なので注意した方が良い。 客観的な検証能力のある人であれば、「クレスチンやピシバニールの疑惑は否定できないけど、丸山ワクチンも眉唾物」と読むだろう。 何故なら、丸山ワクチンに関する記事なのに、肝心の丸山ワクチンに関する決定的証拠が何も示されておらず、他を貶すことで相対的に丸山ワクチンを信用させようとする粗雑な陰謀論だからである。 しかし、他をいくら貶そうとも、それは丸山ワクチンを肯定する根拠にはならない。 丸山ワクチンを肯定させたいなら、丸山ワクチンを肯定すべき根拠を示すべきであろう。 丸山ワクチンを肯定すべき根拠があるなら、それを意図的に隠す理由はない。 にも関わらず、丸山ワクチンを肯定すべき根拠を示さないのは、示せる根拠が何もないからである。 だとすれば、比較元(丸山ワクチン)も比較先(クレスチンやピシバニール、医学界、大手製薬会社等)もどちらも信用できるものではない。 具体的には次のような不自然な記述が目立つ。
- 特定の印象に誘導する背景事情や個人の主観的感想や体験談が殆ど
- 肝心なこと、即ち、丸山ワクチン「不認可」の陰謀や丸山ワクチンの効果を示す明確な証拠が一切示されていない
- 厳し過ぎる「新基準」を作っては製薬会社の首を絞めるので、「官民癒着」のシナリオと矛盾する
- 開発者の人柄絶賛と患者の利益をないがしろにする行為(他の研究者等への技術供与の拒否)は明らかに矛盾している
この記事以外の客観的資料も併せて読むと次の事実も見えてくる。
- 「昭和56年7月30日の衆議院社会労働委員会」での発言のうち印象操作にしかならない部分を採り上げながら、決定的証拠となる証言は不都合なので採り上げない
- 証言とは180°真逆の内容を、あたかも証言者から言質を取ったかのように書いている
これは永瀬隼介(当時は祝康成名義)記者も分かった上での完全な捏造であろう。 詳細は該当部分で説明するが、記者は真相を全て知ったうえで、それを紹介することもなく、真実を180度捻じ曲げている。
また、証拠には全くならない一定の印象を与える話をかき集めて、一定の結論を導こうとするやり方は左翼や反政府主義者や陰謀論者が好むやり方である。 これは、プロジェクト・ブルーブック、ロズウェル事件、エリア51、MJ-12といった話をかき集めて、「米国は異星人と密約している」と主張することに似ている。
前書き?
「こんなことが許されていいのか」―医学界で今もそんな声が渦巻くガン治療薬・丸山ワクチンの不認可問題。 一徹な職人気質の医学者によって生み出されたこの薬は、医学界の不条理な権威主義や官民の癒着の中で苦難の道を辿ることになる。 患者を置き去りにした不可解な認可審議は、なぜ許されたのか。 気鋭のライター・祝康成氏が医学界最大の奇談を解き明かす。
後の該当する部分で詳細に検証するが、丸山ワクチンが「苦難の道を辿る」のは「医学界の不条理な権威主義」や「官民の癒着」のせいではない。 単に、申請者が効く証拠を提出できないだけである。 この捏造記事こそ「こんなことが許されていいのか」と問うべきだろう。
体験談の類
「間違いなく効くね。 ただどうして効くのかと、言われてもみんな生きている。 がんは残っているが元気だ、としか言えないんだ」
東大法学部名誉教授の篠原(75)が、膀胱ガンを宣告されたのは、昭和48年、48才の時だった。 切除手術を受け、放射線治療の苦しみとガン再発の恐怖の中ですがったのが丸山ワクチンである。 以来、25年間、ワクチンを打ち続けており、再発がないまま今日に至っている。 篠原は、丸山ワクチン患者家族の会代表でもある。
「どうして効くのか」はどうでも良いことであり、肝心なことは本当に効いているかどうかである。 「切除手術」と「放射線治療」を受けたなら、「再発がないまま今日に至っている」ことが「切除手術」や「放射線治療」の効果である可能性が高い。 それでは、丸山ワクチンが効いた可能性がないとは言えないが、丸山ワクチンの効果であるとも言えない。
「ぼくの先輩は10年間、打ち続けて、もう治ったろう。 と止めた途端、再発して亡くなった。 主治医には内緒でワクチンを使っていて、解剖したその医者が不思議がっていた。 身体中、いたるところに古いガンがあり、どうしてこの人は10年も生きていられたんだろう。 と首を捻っている。 ワクチンを止めてから、ガンが一気に復活したんだな」
がんの進行速度には個人差があるから、「ぼくの先輩」は、丸山ワクチンを「10年間、打ち続けて」いる間も、丸山ワクチンは全く効かずに徐々にがんが進行し、偶然にも「止めた途端」と同時期に「再発」が確認されて「亡くなった」という可能性が考えられる。 がんで亡くなった人を「解剖した」結果として「身体中、いたるところに古いガンがあ」ることは丸山ワクチンを使っていない長期延命患者にも良く見られることである。 それでは、丸山ワクチンが効いた可能性がないとは言えないが、丸山ワクチンの効果であるとも言えない。
丸山ワクチンの擁護者たちは、そうした丸山ワクチンの効果だというコジツケが可能な材料がある症例、すなわち、効いていたとしても不思議ではない症例のみを集めて、効いたと言い張っている。 効いたとしか考えようのない証拠を何1つ示さないから、丸山ワクチンは「認可」されないのである。
丸山ワクチンは、平成4年、90歳で亡くなった丸山千里、日本医科大学名誉教授が作り出したガン治療薬、戦時中、皮膚結核の治療用ワクチンを開発した丸山が戦後、結核患者にはガンが少ない、ことに気付き、丸山ワクチンの研究開発に乗り出したエピソードはあまりにも有名である。
「戦後、結核患者にはガンが少ない」ことは、結核に罹患するとがんに懸かりにくくなることを意味しない。 結核は、1950年前後にストレプトマイシンによる治療法が確立するまで、不治の病であった。 日本でも1952年までは死因の1〜3位を占めており、10位以下になるのは1970年代以降である。 一方で、がんは、加齢ととともに罹患率が上がる。 そのため、結核が不治の病であった当時、結核に罹患した患者の多くはがんの罹患率が目に見えて上昇する年齢に達する前に亡くなっていた。 「丸山が戦後、結核患者にはガンが少ない、ことに気付」いた頃は、結核患者の年齢構成は、一般の年齢構成と比較して、高齢者が少なかった。 だから、単純に比較すれば、結核の罹患とがんの罹患に何の因果関係がなくても、「結核患者にはガンが少ない」結果が得られる。 このように因果関係がない所に相関関係(「結核患者にはガンが少ない」)が生じることを統計学的には「交絡」と言う。 交絡要因がある場合の統計分析には多変量解析を行い、交絡要因の影響を除去する必要がある。
現在、医学的には、結核に罹患するとがんに懸かりにくくなるとする関係は認められていない。 固形癌の疫学 連載第8回 肺がんのリスクファクターによれば、むしろ、結核は肺がんのリスクを高めるとされている。
もちろん、勘違いや間違いから始まっていることは、丸山ワクチンを否定する根拠とはならない。 抗生物質やレーザーイオン化質量分析技術が実験の失敗から生まれたように、勘違いや間違いが大発見・大発明につながる可能性は否定できない。 しかし、丸山ワクチンが効いた証拠を示せない以上は、「認可」されないのは当然である。
昭和39年に投与が始まって以来、これまで丸山ワクチンを使用した患者は35万人にのぼり、現在も年6000人近い新規患者が、投与を始めている。
東京千駄木にある日本医科大学ワクチン療法研究施設を訪ねると、それこそ頬をつねりたくなる「奇跡の体験談」がごろごろ転がっている。 たとえば、横浜在中の男性(70)の話はこんな具合。 「女房が使い始めて26年になります。 末期の結腸ガンで、医者に余命三ヶ月と言われてね。 腹がパンパンに膨らんで手術で切り取った腹の内部はわずかしか空いていなかった。 さずがにこれはダメだと思いましたよ。 しかし、丸山ワクチンを打ち始めたら、みるみる健康になって、いまじゃ風邪もひかない。 丸山先生は命の恩人ですよ。 」
「手術で切り取った」のであれば「腹がパンパンに膨らん」だ状態からの回復は手術のおかげである。 「腹の内部はわずかしか空いていなかった」としても、その後の経過が順調である原因については、詳細が書かれていないので不明としか言い様がない。 「腹がパンパンに膨らんで手術で切り取った」のであれば、その後も、病院での治療は普通に受けていたと推測できる。 それでは、丸山ワクチンが効く証拠とはならない。 「みるみる健康になって」では、何をもって健康とみなすのか診断基準が明確ではないし、その原因も明らかではない。 「風邪もひかない」は、がんとは関係がなかろう。 これでは、丸山ワクチンが効いた可能性がないとは言えないが、丸山ワクチンの効果であるとも言えない。
何度も言うが、この「奇跡の体験談」のような、効いていたとしても不思議ではない症例をいくつ集めても、丸山ワクチンが効く証拠とはならない。 「丸山ワクチンを使用した患者は35万人にのぼ」るにも関わらず、効いた証拠にならない「奇跡の体験談」が何例かあるという程度では全く話にならない。 医学的に妥当な診断基準および効果判定基準を明確にし、診断基準を満たす患者の数が十分に揃っていて、かつ、そのうちの1割が効果判定基準を満たすだけで効果の証拠になる。 そうしたデータが全くないから丸山ワクチンは「認可」されないのである。
篠原はこんな話を披露する。 「最近、末期で丸山ワクチンだけで治癒した有名人というと、平成10年に亡くなった安東民衛(戦後革新勢力の指導者、享年70)だね、最初は食道ガンでね、当初は完全にとったから、大丈夫ということだったけど、暫くしたら肺に転移していることがわかった。 それで抗ガン剤を打つとなったら、安東は、絶対イヤだ、丸山ワクチン一本でいく、と。 すると医者は、まあ、この体では来年の桜は見られませんな、と言ったらしい。 安東は結局2回、桜を見ましたよ。 ”ざまあみろ、おれは桜を見ているよ”と笑っていた」
最後まで痛みはなく、散歩に出かけたり、篠原とビールを飲んだりしていたという。
現代医学では、患者の余命を正確に予言することは不可能であり、確率でしか言及できない。 だから、余命診断が正確であっても、約半数の患者は、無治療でも余命告知より長く生きる。 よって、「2回、桜を見ました」という事実は、何もしなくても実現可能だった可能性が十分にある。 これでは、丸山ワクチンが効いた可能性がないとは言えないが、丸山ワクチンの効果であるとも言えない。
何度も言うが、このような、効いていたとしても不思議ではない症例をいくつ集めても、丸山ワクチンが効く証拠とはならない。
尚、この人が「2回、桜を見ました」で損する人は誰もおらず、誰に対して「ざまあみろ」と言っているのか不明だが、「革新勢力」は陰謀論が大好きなようである。
「抗ガン剤を打つと、毛は抜けるし、寝たままでしょう。 健康な細胞まで殺して命を縮めてしまう。 しかし、丸山ワクチンは副作用もなく、精一杯生きられる。 安東は、本当に感謝して死んだからね」
全てではないが、抗がん剤の延命効果は実証されている(船瀬俊介に殺される~「抗ガン剤で殺される!」批判~ - NATROMの日記参照)。 「抗ガン剤を打つ」と「命を縮めてしまう」とは何を根拠に言っているのだろうか。 もちろん、誤った医療では「命を縮めてしまう」ことがあるが、それは「抗ガン剤を打つ」と「命を縮めてしまう」を意味しない。 擁護するために根拠なき批判で他の治療法を貶さなければならないのでは、益々、丸山ワクチンは信用できない。
陰謀論その1
ところが周知の通り、この丸山ワクチンは、まだ厚生省の認可が下りず使用の際は、煩雑な手続きを強いられることになる。 まず投与を希望する患者とその家族は担当主治医に「承諾書」を書いてもらったうえで日本医科大を訪ね、レクチャーを受けて丸山ワクチンを購入(40日分9000円)主治医の元へ持ち帰り、ここでやっと注射してもらうことが可能になる。 昭和56年12月より、2回目以降の丸山ワクチンの郵送が認められたが、それまでは丸山ワクチンの購入のつど、直接日本医科大に出向いて長蛇の列に並ばねばならないという、不認可薬ゆえの苦労を強いられていた。 それでもワラにもすがる思いの患者は、日本全国はもちろんのこと、海外からも日本医科大へと集まった。
「厚生省の認可が下り」ていないのであれば、「煩雑な手続きを強いられる」のでも、「苦労を強いられ」るのでもなく、「承諾書」等の簡単な手続きだけで「注射してもらうことが可能になる」異例の優遇措置を受けているのである。 客観的事実に沿って記事を書き直せば次のようになるだろう。
- 有償“治験”の手続き
- ところが周知の通り、この丸山ワクチンは、まだ効能・効果を証明するデータが提出できないにも関わらず、治験薬としては極めて異例となる簡単な手続きで事実上の投与が可能となっている。投与を希望する患者とその家族は担当主治医に「承諾書」を書いてもらったうえで日本医科大を訪ね、レクチャーを受けて丸山ワクチンを購入(40日分9000円)主治医の元へ持ち帰るだけで、注射してもらうことが可能になる。昭和56年12月より、2回目以降の丸山ワクチンの郵送も認められ、丸山ワクチンの購入のつど、直接日本医科大に出向いて長蛇の列に並ぶ必要がないよう、手続きの簡略化が認められている。
丸山ワクチンは有償治療薬という摩訶不思議な名称のもと、例外的に投与を認められた、世界で最も有名なガン治療薬なのである。
客観的事実に沿って記事を書き直せば次のようになるだろう。
- 有償“治験”の位置付け
- 丸山ワクチンは有償治療薬という摩訶不思議な名称のもと、効果を証明していないにも関わらず、例外的に投与を認められた、世界的にも極めて優遇された“治験”薬なのである。
確かに、何時まで経っても効果を実証するデータを提出しないものが「有償治療薬」として「例外的に投与を認められた」のは「摩訶不思議」である。 効果が証明されないものをそこまで優遇しなければならない理由は不自然としか言い様がない。
丸山ワクチンの擁護者は、この「摩訶不思議」さを陰謀論の根拠の1つとしている。 しかし、中立的立場で見れば、この「摩訶不思議」さが丸山ワクチン陰謀論にとって完全な逆風であることは言うまでもない。 仮に、「確実な効果が出ていたにも関わらず」「不認可と」できるなら、それは強大な権力である。 強大な権力があるならば、「有償治療薬という摩訶不思議な名称のもと、例外的に投与を認め」ることを阻止できないのはおかしい。 「有償治療薬という摩訶不思議な名称のもと、例外的に投与を認め」ることを阻止できない程度の弱い権力しかないなら、「確実な効果が出ていたにも関わらず」「不認可と」することは不可能である。 つまり、「有償治療薬という摩訶不思議な名称のもと、例外的に投与を認め」られたことと「不認可と」なったことは歴史的事実であるのだから、それは「確実な効果が出ていた」という事実の不存在を示唆する。 それならば、丸山ワクチンを潰そうとする圧力の有無とは全く無関係に、「不認可と」なって当然であろう。 つまり、「有償治療薬という摩訶不思議」さと「確実な効果が出ていた」とする伝聞は完全に相反するのである。
この「有償治療薬という摩訶不思議」さを素直に解釈すれば、丸山ワクチンを承認させようとする圧力の存在を示唆していることは言うまでもない。 効果を証明できないものを承認させるほど力はないが、実質的には「例外的に投与」であっても建前上で「有償治療薬」として「治療」を継続する形を取らせる程度の力はあった、とすれば、この「摩訶不思議」は全く矛盾なく説明できる。 では、丸山ワクチンを承認させようとする圧力は具体的にはどのようなものか。 それは、この後の記事の該当する部分で説明することとする。
「世界で最も有名」なら、日本の医学界や製薬会社の圧力が通用しない欧米で未だに「認可」されていないことをどう説明するつもりだろうか。 尚、効果が証明されていない以上、丸山ワクチンは「ガン治療薬」ではない。
では、丸山ワクチンは何故、認可されなかったのか?その背景を探ってゆくと、医学界の想像を絶する権威主義と、薬品メーカーを巻き込んだ利権争いの構図が見えてくる。
後の該当する部分で詳細に検証するが、丸山ワクチンが「認可されなかった」のは「医学界の想像を絶する権威主義」や「薬品メーカーを巻き込んだ利権争い」のせいではない。 単に、申請者が効く証拠を提出できないだけである。
医学界のドンの反発
22年前、皮膚ガンを宣告され、自らも丸山ワクチンを投与し続けている医事評論家の生天目昭一(73)はこう語る。 「医学界の主流派は東大です。 その東大の植民地でしかない私大の日本医科大の、しかもマイナーな皮膚科の無名の医者丸山千里が、自分の名前を冠したワクチンなんてとんでもない、という意識でしかなかったんですね」
丸山ワクチン陰謀論を検証する観点に限れば、「とんでもない、という意識」の有無を論じることは無意味であり、重要なことはそのような意識が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことに影響したかどうかである。 後の該当する部分で詳細に検証するが、そのような意識が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことへの影響を記事は一切指摘できていない。
昭和51年、丸山は製造認可を申請するが、56年、厚生大臣の諮問機関である中央薬事審議会は「有効性を確認できない」と不認可に、ただし厚生省は「引き続き研究する必要がある」とし、治療薬として全額自己負担なら購入可とする、玉虫色の判断を下す。 ここから丸山ワクチンの先の見えない迷走が始まった。
「引き続き研究する必要がある」のであれば、「治療薬として全額自己負担なら購入可」はおかしい。 後の該当する部分で詳細に検証するが、丸山ワクチンは、腫瘍縮小効果が認められないため、延命効果を証明する必要がある。 その場合は、ランダム化比較試験が必須であり、被験者の半分には丸山ワクチンを投与できない。 被験者は自らの意志で応募するのだから、丸山ワクチンの投与を希望する人である。 さて、貴方がある新薬候補の投与を希望するとしたら、次のどちらを選ぶか。
- 「40日分9000円」を自己負担して確実に新薬候補を投与してもらう
- 自己の意志に関係なく、半分の確率で新薬候補を投与してもらえない
「40日分9000円」を自己負担できない程の超貧乏人を除いてほぼ全ての人は前者を選ぶだろう。 それでは被験者を集めることが極めて困難となる。 「引き続き研究する必要がある」のであれば、このような効果証明を困難とする措置は矛盾している。 いや、そもそも「引き続き研究する必要がある」ことは「治療薬として全額自己負担なら購入可」とする理由にはならない。 これでは「引き続き研究する必要がある」を口実にした、効く証拠のない丸山ワクチンを一般の患者に提供する薬事法の抜け道以外の何物でもない。
「中央薬事審議会なんて、年4回会合を開くだけだから、膨大な書類にハンコを押すだけの機関なんですよ。 昭和36年の薬事法施行により発足して以来、すべての申請に「可」のハンコを押してきた。 実質上の認可は厚生省がやるわけで、厚生省の窓口が受理した申請は全て承認されていたのです。 ところが中央薬事審議会は、わざわざ丸山ワクチンのために「否」のハンコを作ったと言われています」
「丸山ワクチンのために『否』のハンコを作った」が本当のことかどうかは定かでないが、「厚生省の窓口が受理した申請」が高確率で承認されていることは事実である。 医薬品開発の期間と費用 JPMA News Letter No.136(2010/03)によれば、日本製薬工業協会(2018年5月1日現在で製薬企業71社が加盟)が2009年に実施した調査では申請した医薬品候補が承認される確率は100%であった。 2001年に実施した調査でも82%と非常に高い確率である。 しかし、この結果だけをもって、大手製薬会社が関わった医薬品候補はほぼ全て承認されるものと思い込み、「中央薬事審議会なんて」「膨大な書類にハンコを押すだけの機関」と主張するのは、詳細なデータを検証すると明らかな間違いであるとわかる。 治験を実施した医薬品候補が医薬品として承認される確率は2001年調査でも2009年調査でも22%しかない。 つまり、治験にまで漕ぎ着けた医薬品候補の78%が承認されないのである。 申請が100%承認されるのに、治験を実施した医薬品候補の22%しか承認されないとはどういうことか。 それは、治験段階で見込みがなさそうな医薬品候補は企業判断で開発を断念するからである。 治験の各フェーズ(相)毎にその判断が為されるため、2009年調査では、フェーズⅠ(第1相)の結果で27%が切り捨てられ、フェーズⅡ(第2相)の結果で62%(治験を実施したものに対する比率は約45%)が切り捨てられている。 最終フェーズ(相)であるフェーズⅢ(第3相)が完了したものの20%(治験を実施したものに対する比率は約6%)は申請されていない。 つまり、承認基準を満たさない医薬品候補は、申請しても無駄だから、申請しないのである。 承認基準を満たすデータが採れた医薬品候補だけを申請するなら、「厚生省の窓口が受理した申請」が高確率で承認されるのは当然であろう。 明らかに基準を満たさないデータで申請したのは丸山ワクチンだけなのである。
この露骨な丸山ワクチン潰しの陰には、ある男の意向があった、と囁かれている。 医学界のドンと呼ばれた山村雄一・元大阪大学総長(平成2年没、享年71)である。 当時、取材にあたった新聞記者が明かす。 「山村先生は免疫学の第一人者で、牛型結核菌のワクチンでガン治療をやっていた。 ところが、牛型結核菌というのは副作用を取り除く技術がなかなか確立できない。 それで丸山先生に、人型結核菌から副作用を取り除いた技術をそうやって開発したのか、教えろ、とかなり高圧的に迫った」
昭和51年、丸山が製造認可を申請する数カ月前のことだった。 当時の丸山の反応を長男の丸山茂雄(59、ソニーミュージックエンターテインメント副社長)はこう記憶している。 「親父は断ったんです。 そのときは。 そんなばかなことができるわけないじゃないか。 というような反応でした。」
本当に患者のためを思っている人なら、「人型結核菌から副作用を取り除いた技術」を他の研究者に技術供与するだろう。 何故なら、人間は神様ではないのだから、あらゆる物事を一人で成し遂げることはできないからである。 誰かがある技術を開発し、その技術を基にしてさらに進んだ技術を開発する。 そうしたことを繰り返して科学は発展してきた。 それは医学も同じである。 例えば、世界初の抗生物質であるペニシリンを発見したフレミングは自力でペニシリンを精製できなかった。 その後、ペニシリンが治療に使われるようになったのは、フレミングが公開した研究データを元にして別の人が精製に成功したからである。 田中耕一氏がノーベル賞を取れたのは、彼の発表した技術の応用技術が次々に発表されて質量分析の技術が格段に進んだからである。 このように、技術は公開することで更なる飛躍的進歩を遂げる。 だから、患者が優れた医療を受ける道を切り開きたいなら、技術を独占せずに積極的に公開するべきだろう。
丸山ワクチンが本当に効くのだとすれば、その製造技術を公開していればがん治療に革命を起こしていたはずである。 しかし、「丸山先生」は「そんなばかなことができるわけない」として自己の技術の独占を選んだ。 であれば、丸山ワクチンを歴史の闇に葬ったのは他ならぬ「丸山先生」自身であろう。 患者の利益につがなるはずの技術の公開を拒んでいるのでは、患者のために尽くしたかのように言われても全く信用できない。
人情論その1
長野県生まれの丸山は、幼い頃から病弱で、とても30歳までは生きられない。 と言われたほど。
大正11年、のち日本医科大学となる日本医学専門学校の予科に入学し、卒業後は大学に残って研究ひとすじの生活で、権威とはまったく無縁の人生だったという。 「普通は医学部の教授と言ったら、一週間に一度、助教授とか引き連れて大名行列みたいに病院を回るでしょう。 ところが親父は患者さんの元へ毎日、一人でい行くわけですよ。 土曜日曜はもちろん、元旦まで行っていた。 だから、患者さんは感激して退院後、自宅までお礼に来られる。 親父は現金は絶対に受け取らないから、自分の家でとれた米とか野菜を持ってね。 御中元とか御歳暮の時期は、生鮮食料品が山のようになっていました。」
この温厚で生真面目な丸山が、唯一、激情を発露させた時期がある。 昭和25年、日本医大と早稲田大学の合併問題が持ち上がった時だ。 日頃は無口な丸山が、学生を前に、「日本医大がこのまま医科大学であるなら、いつまでたっても東大の支配から抜けだせないだろう」と、演説までブッっている。 周囲も驚いたこの変貌の裏には、妻の父親が早稲田に野球部を創設した安部で、岳父の影響を強く受けた丸山が強烈な早稲田ファン、という事情もあったらしい。 しかし、合併は敢え無くとん挫し、推進派の急先鋒だった丸山は当時の大学に睨まれ、以後、冷遇されることになる。 給料もボーナスも大幅にカットされ、長女が通う都立大学の月謝も滞るという困窮生活も経験している。
「温厚で生真面目な丸山」の人柄の良さを強調しようとしているが、既に説明した通り、彼は患者の利益よりも自己の技術の独占を選んだのである。
陰謀論その2
一方、山村雄一は、丸山とは対極の人生を歩んだ。 昭和16年に大阪大学医学部を卒業すると海軍の軍医となり、激戦地となったガダルカナルにまで赴いている。 戦後、九州大学医学部教授を経て、母校大阪大学に戻るや、トントン拍子に出世し、昭和42年に医学部長、54年には大学総長の地位まで昇り詰めた。 総長時代は、「アメリカのスタンフォード大学のように広大な医学部にせなあかん」と北千里に広大な土地を購入し、医学部、工学部などを一挙に移転させるというビッグプロジェクトを成し遂げている。 学外では、日本免疫学会会長、日本癌学会会長等を歴任し、昭和61年に学士院賞を受賞、63年には文化功労者にも選ばれ、まさに栄光と名声に彩られた学者人生だった。
この挫折知らずのエリート学者に唯一、屈辱を味わわせた人物が、『東大の植民地』日本医大の無名の医者、丸山だったわけだ。 当時、取材に赴いたジャーナリストは、山村が、さも憎々しげに「皮膚科出身の丸山が、人類を危機に陥れるガンという病気に果敢に挑まれているようだが、けしからん」と言い放つのを耳にしている。
また、山村と親交のあった医学者はこう証言する。 「山村先生は尊大でしたね。 威張っていた。 山村先生は丸山ワクチンには反対でした。 それは間違いない。 実際にそういう内容の手紙をもらいましたよ。 なぜ反対だったかは知りませんが、もし丸山先生に先を越されたことへの嫉妬だとしたら下らん奴ですね」
丸山ワクチン陰謀論を検証する観点に限れば、「丸山先生に先を越されたことへの嫉妬」の有無を論じることは無意味であり、重要なことはそのような嫉妬が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことに影響したかどうかである。 後の該当する部分で詳細に検証するが、そのような嫉妬が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことへの影響を記事は一切指摘できていない。
<凄まじいアラ探し>
もっとも、丸山ワクチンにも弱点はあった。 科学的データの不足である。
当時の中央薬事審議会のメンバー、古江尚、帝京大学名誉教授(74)は、丸山ワクチン反対派の頭と言われた人物だが、「なにも闇雲に反対していたわけではない」と言う。 「わたしは悪者にされていましたけれど、データ不足を解決できれば認可しよう、という立場でした。 薬事審議会でわたしが問題にしたのは、製剤以前の問題。 つまり、常に同じものが使われなければならないし、検証しなければならない。 その方法がまだ未解決であったこと」そして、もうひとつが、丸山ワクチンの独特の投与の仕方、濃いA液と薄いB液を交互に打つ、という投与方法だった。 「ABABという投与の仕方が全然検証を経ていないし、データも無い。 ただ単に丸山先生が経験上、これが一番良い、と言うだけだった。 なぜ、ABABなのか、という科学的証拠がなかった」
「常に同じものが使われなければならない」が「製剤以前の問題」であることは言うまでもない。 なぜなら、データを採る時の「丸山ワクチン」と治療に使う時の「丸山ワクチン」が全く別物であったらどうであろうか。 ここでは前者をα、後者をβとしよう。 もちろん、αの効果を実証するデータは、βの効果を実証しない。 だから、申請時にαのデータを提出しておいて、実際の治療ではβを出荷する…ということがあってはならない。 そうならないよう「常に同じものが使われ」ることが保証されなければならない。 その前提が満足できないのでは、当然、「認可」されるわけがない。
尚、「なぜ、ABABなのか、という科学的証拠」は倫理的な問題として要求されるだけであって、効果を証明するための「科学的データの不足」とは無関係である。
比較臨床試験
もっとも、大規模な臨床試験を行った学者はいた。 後藤、東北大学名誉教授(75)である。 確実な効果が出ていたにも関わらず、審議会はことごとく無視したという。
第094回国会 衆議院 社会労働委員会 第20号の答弁によれば、東北大学の臨床試験の結果は詳細に検証されているので「ことごとく無視した」という事実は見られず、その具体的評価では「確実な効果が出ていた」とは言えない(丸山ワクチンの効果参照)。
- 「統計的には有意である」が「膵臓がんとか胆管がんとかいろいろなものが少数まじりまして、そのほかに肺がんも三例ほどまじっておるという集団」では層(がんの大分類、小分類、病期、治療歴等)のバラツキが多過ぎて信頼性に欠ける
- 最も多い症例である胃がんについては、「後藤教授の申請書を拝見しますと、胃がんでは差はないという結論が申請書に書いてございました」
- 胃がん以外の症例は少数過ぎて「あの数で、数だけの問題ではありませんけれども、あの実験のデザインの範囲では効くということは言えない」
以上の理由により「今度の試験の成績では有効性が確認されなかった」。 この試験に少数含まれているという膵臓がん、胆管がん、胆嚢がんは、いずれも平均的予後が非常に悪いとされるが、極まれに長期生存する人もいる。 また、国会答弁で指摘されたような慢性膵炎が膵臓がんと誤診される事例等があると、誤診例が長期生存例として報告される可能性もある。 これらの平均的予後が非常に悪い症例が含まれている場合は、その症例が全体の結果を大きく左右しかねない。 とくに、含まれる症例が少数である場合、長期生存例の振り分けの偏りが生じやすくなり、何の効果のない“治療”法であっても統計的な有意差が生じる可能性がある。 よって、層(がんの大分類、小分類、病期、治療歴等)別に統計を見るべきという判定は科学的に妥当である。
「後藤教授の申請書」においても、最も多い症例の「胃がんでは差はないという結論が申請書に書いてございました」ということであるので、この臨床試験では胃がんにおける効果の証明に失敗している。 他の症例は、数が少なすぎるゆえに、この臨床試験の結果では効果の証明にならない。 がんの治療薬に比較臨床試験を行った実績がない当時としては、良くやった方であるとは言えるのだろうが、薬効の科学的証拠としては全く足りていないのである。
後藤が、怒りもあらわにこう言う。 「初めから、これは潰そうという話しですからね。 このデータは嘘ではないか。 とまで言っているんだな。 先生が臨床した膀胱がんの患者は慢性**の誤診でしょう、と。 こんなふざけた話はないから、調査会に異議申し入れ書を送りましたよ」
第094回国会 衆議院 社会労働委員会 第20号の答弁によれば、組織診断がないがゆえに「もしかすると慢性膵炎ではないかという可能性がある」とされた。 しかし、後日、組織診断結果が提出されたことにより「特別部会の段階でこれをがんとして訂正をいたしました」としている(丸山ワクチンの効果参照)。 以上が真実であれば、診断基準を明確にするために組織診断を確認するのは当然のことであり、「初めから、これは潰そうという話し」でも何でもない。
審議会内部の反応について、古江がこんなショッキングな証言をする。 「後藤先生のデータは立派なものでした。 わたしは、この審議会の委員の中でもこんあいい臨床を出来る者はいないだろう。 この結果をもっと真剣に考えるべきだ。 本当に無効と言っていいのか、と迫ったんですが、無駄だった。 相手が無茶を言うんですよ。 重箱の隅をつつくようなことをね。 たとえば動物実験で、マウスに関する実験はあるが、ウサギについてはない。、とか。 そんな身も蓋もないことを言うなよ、と嘆きたくなるくらい、醜いアラ探しだった。 結局、事前に厚生省との間で拒否ということが決まっていたんですね。 われわれ委員会は、いい面の皮ですよ。 ああ、俺は飾りなんだな。 と痛感しました。 だって、何を言っても通用しないんだから」
「後藤先生のデータ」は既に説明した通り、薬効の科学的証拠としては全く足りていない。
第094回国会 衆議院 社会労働委員会 第20号の答弁によれば、薬の規格や動物実験を厳格に要求したことは、「一九六二年、アメリカのキーフォーバー、ハリスという二人の上院議員のつくりました薬事法の改正」とサリドマイド事件をきっかけに「他の多くの先進国」では薬の効果と安全性の倫理基準が厳しくなり、「一九六二年から二年後に世界医師会のヘルシンキ宣言というものが出まして」「人間を研究材料とするとき、治療研究、薬を与えることももちろんそうですが、それには一定の仕組みを通らなければいけないということがはっきりとうたわれた」ことによる(丸山ワクチン承認基準参照)。 医薬品の効果を実証する治験とは、すなわち、人体実験である。 人体実験は被験者に一定の生命上のリスクを負わせる。 だからこそ、有効性が一定程度期待できることと、看過できない危険性がないことを治験前に確認しておかなければならない。 未知の危険性が生じるかも知れないので、効果の見込みのないものの治験は許容できない。 看過できない危険性があるものも治験は許容できない。 動物と人間は体の構造が違うので、ある動物に効くものが人間に効くとは限らない。 同様に、ある動物に安全なものが人間にも安全とは限らない。 そのために様々な動物での実験をしっかりやっておく必要がある。 そうした当時の世界的潮流を知らず、従来のやり方しか知らない人からすれば、「そんな身も蓋もないことを言うなよ、と嘆きたくなるくらい、醜いアラ探し」に見えたとしても仕方がない。 しかし、妥当性のある倫理的基準が明確にされた以上、その基準をパスしないものは、審査を受け付けるべきではない。 何故なら、倫理的基準を守らなくても効果の証拠さえ示せば「認可」されるのでは、倫理的基準がないがしろにされかねないからである。 これは、現在では当たり前に行われていることであり、「醜いアラ探し」でも何でもないのである。 ただ、「ウサギについてはない」と指摘した人がその意図(倫理的基準をパスしなければデータの審査もしないので、先に倫理的基準に適合しているかを徹底的に調べる)をちゃんと説明しなかったことと、古江氏の思い込み(科学的根拠の不備を作り出すための「醜いアラ探し」)による意思疎通の不足が招いた誤解に過ぎない。 薬害エイズ事件でも、同様の意思疎通不足による誤解が発生している。
尚、後の該当部分で説明するが、「いい面の皮」「俺は飾り」と自称する人が「審議会内部」のメンバーに選ばれることは、陰謀論が成立しない1つの根拠となる。
臨床実験のデータを無視された後藤が言う。 「なせ、そこまでして丸山ワクチンを潰さなくてはならなかったか。 と言えば、がん学者はみんな他の製薬会社はそれぞれコネがあるんですよ。 やっぱり丸山先生はがん学者じゃないわけです。 学者というのは、専門以外の人間を認めたくないんだね。 たかが皮膚科の医者が、というような偏見を持っていたんですよ。
既に説明した通り、「後藤先生のデータ」は薬効の科学的証拠としては全く足りていない。
製薬会社のコネが重要であれば、丸山ワクチンもコネのある製薬会社と組めば良いだけである。
丸山ワクチン陰謀論を検証する観点に限れば、「専門以外の人間を認めたくない」「たかが皮膚科の医者が、というような偏見」の有無を論じることは無意味であり、重要なことはそのような偏見が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことに影響したかどうかである。 そのような偏見が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことへの影響を記事は一切指摘できていない。 「丸山先生はがん学者じゃない」ことが丸山ワクチンに不利に作用したことは指摘されているが、それは、そのような偏見=審査者側の問題とは全く違い、「丸山先生」の倫理面や科学的証明手続きに関する認識不足によるものであって、純粋に申請者側の問題である。 また、そのような認識不足の原因が「丸山先生はがん学者じゃない」ことに起因するものだと説明した場合、話の内容が正確に伝わらないと、「専門以外の人間を認めたくない」「たかが皮膚科の医者が、というような偏見」を語ったように誤解されることもあろう。
クレスチン等疑惑その1
巧妙に仕組まれた罠
ここに医学界主流派の丸山ワクチンへの「本音」を物語る興味深い話がある。 匿名を条件に話してくれたのは、丸山と親しかった新聞記者だ。 「丸山ワクチンの患者の一覧表があるんです。 日本医大の名誉教授のロッカーにカギをかけてしまってあるんですが、分厚いやつでね。 丸山先生は、自分が死んだら、その一覧表をぼくにくれる、と言っていたんだけど、まだ生きておられる時にちらっと見たことがある。 ずいぶん有名人もいたんですよ。 政治家とか芸能人とかね。 その中で一番多いのは東大の医者たちですよ。 猛反対していた学会主流派の東大です。 あれだけ反対していたのに、最後は丸山ワクチンに頼ったんですね。
「猛反対していた学会主流派」の「東大の医者たち」に「最後は丸山ワクチンに頼った」人がいたとして、それは噂を鵜呑みにした「東大の医者たち」がいたことを示すだけに過ぎず、丸山ワクチンが効く証拠とはならない。
丸山先生が東大でワクチンを開発してたら、間違いなく認可されていただろう。 という話は何度も聞いたね」
もし、認可されていたら、製薬メーカーには莫大なカネが転がり込むことになる。 一般的に抗癌剤は「がんには効かないが、株には抜群に効く」と揶揄されるほどで、それが注目を集めている丸山ワクチンなら、歴史的なヒット商品となったのは間違いない。
「東大でワクチンを開発してたら、間違いなく認可されていた」なら、東大に技術供与すれば良いだけである。 それは、丸山ワクチンが圧力により「認可」を阻まれた根拠とならない。
昭和50年から51年にかけて、認可された2つの抗癌剤のケースを見ると、それがどんなにボロい商売かが分かる。 「中外製薬」が開発販売した注射薬の「ピシバニール」と「呉羽化学工業」が開発し「三共」が販売した粉末薬の「クレスチン」である。 「抗癌剤は大別すると2種類あり、直接がん細胞を叩く、化学療法剤と、人間の体内にある免疫力を強化する免疫療法剤に分けられる。 この免疫療法剤の第1号が50年に認可されたピシバニールで、第2号が51年認可のクレスチン、そして、第3号になるはずだった免疫療法剤が丸山ワクチンです」(医事評論家)
ともかく、ピシバニールとクレスチンの売れ方や凄まじく、発売10数年間で1兆円を上回る売り上げを記録、なかでもサルノコシカケの培養菌糸から抽出したクレスチンに至っては副作用が皆無で、しかも内服薬という利便性もあり、57年には年間売り上げが500億円と、全医薬品中の第1位に躍り出た。 しかも、トップの座を62年まで6年間も譲らず、日本の医薬品史上、最大のヒット商品となっている。
ところが、平成元年12月、厚生省はこの2つの抗癌剤について、「効能限定」の答申を出した。 つまり、単独使用による効果が認められないので、化学療法剤との併用に限定するというもの、要するに「効果なし」というわけだ。
がんに効くと、もてはやしておきながら、一転、効果なし、ではガン患者も家族も死んでも死にきれない。 患者の命を無視した国と製薬業界のあり方に、国公立、大手民間など約2330病院が加盟する最有力の病院団体「日本病院会」は激しく抗議。 「これまで両剤に投じられた1兆円にのぼる医療費は無駄使いだったことになり、死亡したガン患者や家族、さらに健康保険財政に大きな損害を与えた」と厚生省と日本製薬団体連合会を非難している。
1兆円もの医療費を、詐欺同然に巻き上げてしまった。 その無茶苦茶なやり方には呆れるほかないが、一連の騒動を細かく検証してゆくと、丸山を嫌い、認可を阻止し続けた一派の動きがあぶり出されてくる。
ガン患者にとって常に誠実な医者であり続けた丸山千里は、巨大な利権が蠢く医薬品業界という伏魔殿の中では、あまりにも無力すぎた。 丸山は、実に巧妙に仕組まれた罠にはまり、犠牲となってゆくのである。
仮に、ピシバニールとクレスチンが「1兆円もの医療費を、詐欺同然に巻き上げてしまった」のだとしても、それは丸山ワクチンが効く証拠とはならない。
人情論その2
長嶋茂雄と丸山千里の、こんなエピソードがある。 語ってくれたのは、生前の丸山と親交のあった研究者である。 「あれはたしか昭和47,48年頃のことでした。 丸山先生の机の上に、長嶋茂雄の直筆のサインボールがドンと2箱、置いてあるんですよ。 なんでも、膠原病に悩んでいた亜希子夫人に丸山ワクチンを差し上げたら、えらく喜ばれて、後日、サインボールを持ってきてくれた、というんですね」
つまり、丸山ワクチンは難病中の難病、膠原病にも効いた、という話になるわけだが、その効能のほどはともかく、サインボールの後日談が丸山の闊達とした人柄を物語る。
「丸山先生は患者さんに、おたく、坊っちゃんいますか、野球は好きですか、長嶋のサインボール、あるけどどうですか”と、どんどん配っちゃうんですよ。 患者さんが“うちは子供、2人いるんですけど”と言うと“ああ、失礼しました。 もう1個、どうぞ”と、もう長嶋サインボールの大盤振る舞いでした」
だが、この無欲で誠実で、患者に愛され続けた丸山は、丸山ワクチンという画期的なガン治療薬を生み出したがゆえに、医学界から疎まれ、非運の人、となる運命にあった。
「丸山の闊達とした人柄」を強調しようとしているが、既に説明した通り、彼は患者の利益よりも自己の技術の独占を選んだのである。
尚、効果が証明されていない以上、丸山ワクチンは「ガン治療薬」ではない。 丸山氏が、「医学界から疎まれ」た部分はあるかもしれないが、それは「画期的なガン治療薬を生み出したがゆえ」ではなく、効果を実証せずに患者を惑わせたからであろう。
承認手続
丸山ワクチンと同じ免疫療法剤でありながら、昭和50年に認可されたピシバニールと翌51年認可のクレスチンが医薬品史上、最大のヒット商品となったのは、前回述べた通り。 しかし昭和51年に認可申請が行われた丸山ワクチンは56年、厚生大臣の諮問機関である中央薬事審議会が不認可としている。 そしてこの裏には、医学界主流派の露骨な“丸山潰し”があった。 取材に当たった新聞記者が語る。
「クレスチンとピシバニールが認可された後、薬事審は急遽、認可基準を上げて、丸山ワクチンを弾いたんですよ」
従来の基準なら、丸山ワクチンは間違いなく認可されていたという。
「もともと、丸山ワクチンにいい感情を持っていない学者たちが、この基準を盾に、不認可にしたのです」
当時の流れを時系列に検証していくと、なんとも不自然な認可の形態が浮かび上がってくる。 例えばクレスチンは、申請から認可まで、わずか1年しかかからず、しかも審議はたったの3回。 ピシバニールも認可まで2年である。 専門家に言わせれば「前例の無い異例のスピード」だという。
一方、丸山ワクチンは、51年の申請から53年にわたって計3回、厚生省薬務局から追加資料の提出を求められ、しかも資料提出の直後、今度は薬事審と厚生省に比較臨床試験までやらされている。 その結果が56年の不認可とは、どう考えても丸山ワクチンを狙い撃ちにした、“苛め”である。 厚生省は「新しい基準に沿ったまで」と涼しい顔だが、実はこの新基準には大きな疑惑が存在する。
この記事の最も不可解な所は、丸山ワクチンが差別されていても不思議ではない背景事情と「追加資料の提出」等の回数や審議期間と「不認可」という事実だけをもって「丸山ワクチンを狙い撃ちにした、“苛め”」という結論を導いていることである。 最も重要なはずの丸山ワクチンの効果やデータについては、真偽の定かでない体験談の類を除けば、「間違いなく効く」「確実な効果が出ていた」「東大でワクチンを開発してたら、間違いなく認可されていただろう」「従来の基準なら、丸山ワクチンは間違いなく認可されていた」という主観的判断しかない。 分かりやすい例え話を挙げてみよう。
- A君は生徒と教師の全員から虐められていた(と噂されているが噂だけで証拠はない)
- A君は数学の試験で赤点を取った
- A君は3回目の追試も不合格だった
- A君は数学の天才を自称していたが、その客観的証拠はなかった
貴方は、この話を聞いて虐めによる不正な成績操作と信じるだろうか。 常識のある人なら、A君の試験の解答内容や数学の能力を客観的に検証しなければ、虐めと成績との関連性は分からないと思うだろう。 A君の試験の解答内容や数学の能力と教師がつけた成績が一致しているなら、少なくとも、虐めは成績には反映されていない。 逆に、A君の試験の解答内容や数学の能力よりも遥かに低い成績がつけられていたら虐めによる不正な成績操作と考えられる。 同様に、丸山ワクチンの効果やデータを客観的に検証しなければ、「56年の不認可」の原因が「丸山ワクチンを狙い撃ちにした、“苛め”」によるかどうかは分からない。 それなのに、この記事には、丸山ワクチンの効果やデータを客観的に検証するための情報が1つも示されていない。
そもそも、「確実な効果が出ていたにも関わらず」「認可基準を上げて」「不認可と」できるなら、それは強大な権力である。 強大な権力があるなら、「計3回」の「追加資料の提出」もその後の「比較臨床試験」も一切認めることなく、申請時データだけで即刻「不認可と」できるはずである。 「計3回」の「追加資料の提出」とその後の「比較臨床試験」を拒めない程度の弱い権力しかないなら、「確実な効果が出ていたにも関わらず」「認可基準を上げて」「不認可と」することは不可能である。 つまり、「計3回」の「追加資料の提出」を認めた上で「不認可と」なったことは歴史的事実であるのだから、それは「確実な効果が出ていたにも関わらず」「認可基準を上げ」た事実の不存在を示唆する。 それならば、丸山ワクチンを潰そうとする圧力の有無とは全く無関係に、「不認可と」なって当然であろう。 つまり、「計3回、厚生省薬務局から追加資料の提出を求められ、しかも資料提出の直後、今度は薬事審と厚生省に比較臨床試験までやらされている」ことと「確実な効果が出ていたにも関わらず」「認可基準を上げ」たとする伝聞は完全に相反するのである。
丸山ワクチンの効果やデータを客観的に検証するための情報は、第087回国会 衆議院 社会労働委員会 第16号、第094回国会 衆議院 社会労働委員会 第20号等の答弁で示されている。 その事実関係は次の通りである(丸山ワクチン承認基準、丸山ワクチンの効果参照)。
- いずれも、同じ日本癌治療学会の癌化学療法効果判定基準=腫瘍縮小効果で判定している
- クレスチンやピシバニールは申請時に腫瘍縮小効果のデータが添付され、そのデータは明確な腫瘍縮小効果を示していた
- 丸山ワクチンは申請時データにも 「計3回」「追加資料」にも腫瘍縮小効果のデータが添付されていなかった
- 特例で、腫瘍縮小効果がなくても「新しい基準」をパスすれば良いこととなった(丸山ワクチン以後も、腫瘍縮小効果がない場合に適用されることとなった)
- 丸山ワクチンの追加提出されたデータでは腫瘍縮小効果が見られなかった
- 丸山ワクチンは「新しい基準」もパスできなかった
- 新たなデータの採り方をアドバイスされたが、更なるデータの提出はなかった
ここまで見ると、丸山ワクチンには何度も次の機会が与えられ、前例のない敗者復活戦まで行われており、他の医薬品よりもはるかに優遇されていたことが明らかである。 にもかかわらず、何度やってもどうしても薬効が証明できなかった。 だから、申請者側が新たなデータ提出を断念し、最終的に未承認となっているのである。
それがどうして、「丸山ワクチンを狙い撃ちにした、“苛め”」になるのか。 後の該当部分で詳しく検証するが、これについては記事の執筆者も当然知っていたはずである。 であれば、記事の執筆者は、当然、次のことも知っていたはずである。
- 「薬事審は急遽、認可基準を上げ」た事実はなく、丸山ワクチン前後で「認可基準」は変わってない
- 丸山ワクチンは腫瘍縮小効果を求める従来基準をパスできないので、「従来の基準なら」「間違いなく認可されていた」はあり得ない
- 「新しい基準」は「丸山ワクチンを弾」くためではなく、従来基準をクリアできない丸山ワクチンの敗者復活戦として設けられた
- 最初から必要なデータが揃っているか否かで審議回数や期間の差が生じており、これは「不自然な認可」とは言えない
客観的事実に沿って記事を書き直せば次のようになるだろう。
- 審査手続
- 一方、丸山ワクチンは、51年の申請時データが承認基準に沿ったデータを提出していないにも関わらず、53年にわたって計3回、厚生省薬務局から追加資料の提出を認められ、しかもその追加提出資料は承認基準をパスしていない。その結果が、今度は薬事審と厚生省に別基準を作ってまで敗者復活戦が認められるとは、どう考えても丸山ワクチンを狙い撃ちにした、破格の優遇措置である。
ようするに、この記事の執筆者は、真実を知りながら「丸山ワクチンを狙い撃ちにした、“苛め”」を捏造したのである。 そもそも、厳し過ぎる「新基準」を作っては製薬会社の首を絞めることになる。 それでは「官民癒着」のシナリオと完全に矛盾する。
仮に、そうした捏造行為を行わず、これらの国会証言を隠さずに紹介したうえで、これら国会証言に反論するにはどうすれば良いか。 もしも、国会証言に正面から反論し、「従来の基準なら、丸山ワクチンは間違いなく認可されていた」「薬事審は急遽、認可基準を上げて、丸山ワクチンを弾いた」と主張するなら、次のいずれかを示さなければならない。
- 「従来の基準」は腫瘍縮小効果ではなかった
- 丸山ワクチンには腫瘍縮小効果があった
治験情報 - 国立がん研究センターによれば、「抗がん剤の治験では、第I相試験と第II相試験の2つの試験、あるいは第III相試験を含めた3つの試験で集められた情報をもとに、厚生労働省で十分な審査を受け、効果と安全性が認められれば「薬」として承認、発売される」とされている。 イレッサ訴訟大阪地方裁判所判決文P.109の第4章第1 1(2)「被告国の主張」イ(ア)aによれば、「平成14年7月当時の知見の下での抗がん剤の有効性,有用性の評価方法」は「腫瘍縮小効果を中心とする各種知見の総合評価によって判断」とされ、第Ⅲ相試験は「標準的治療薬に組み入れる」かどうかの判断にのみ用いられていたと証言されている。 第Ⅲ相試験の結果が求められるようになったのは、イレッサの副作用が問題になって以降であり、2002年(平成14年)までは第Ⅱ相試験の結果だけで承認されていたのである。 2009年版固形がん効果判定ガイドライン(EUROPEAN JOURNAL OF CANCER掲載)によれば、「がん臨床試験においては腫瘍の縮小(客観的腫瘍縮小効果:objective response)と原病の増悪までの期間(無増悪生存期間:progression-free survival)の両方が重要なエンドポイントとして用いられてきた」とされ、第Ⅱ相試験については「客観的な腫瘍縮小効果(CR+PR)がprimary endpointであり」とされ、「奏効率が最適ではない場合、『無増悪生存期間(PFS)』や、ある特定の時点での『無増悪生存割合(proportion progression-free)』が新規薬剤の生物学的効果に関する最初の結果を示すのに適切な代替指標となる可能性がある」とされている。 「1981年に世界保健機関(WHO)は、腫瘍縮小効果がprimary endpointである試験での使用を主たる目的とした腫瘍縮小効果の判定規準を初めて発表した」と書いてあり、1981年(昭和56年)の時点では腫瘍縮小効果を判定基準と用いることが世界の医学的知見として確立していることが読み取れる。 2000年版固形がん効果判定ガイドライン(EUROPEAN JOURNAL OF CANCER掲載)のABSTRACTによれば、「1970年代後期に,国際対癌連合(International Union Against Cancer; UICC)および世界保健機関(World Health Organization; WHO)により,腫瘍縮小効果の評価体系として明確な規準が提唱された」とされ、1994年から「数年にわたる徹底的な議論を経たのち,旧規準に代わる新しいガイドラインができあがった」とされるように、無増悪生存期間は比較的新しい指標である。 抗がん剤および生物製剤の承認のための臨床試験エンドポイント(FDA)P.112のⅡ.B.でも、「1970年代に,FDAは通常,放射線学的検査または理学所見から得られた腫瘍評価によって決定され る客観的奏効率(ORR)に基づいて,抗がん剤を承認してきた」とされており、当時は世界的にも奏効率(腫瘍縮小効果)が主要な指標であったことが伺える。 以上により、「従来の基準」が日本癌治療学会の癌化学療法効果判定基準=腫瘍縮小効果であったとする国会答弁は、当時の国際的な医学知見とも一致しており、その妥当性に疑いの余地はない。
また、丸山ワクチン支持派の多くが丸山ワクチンには腫瘍縮小効果がないことを認めている。 第094回国会 衆議院 社会労働委員会 第20号では、丸山ワクチン擁護者側である梅原参考人も、「延命効果を主とするSSMの効果を制定するには、腫瘍の縮小を目安とする化学療法剤の効果判定基準は不適当であると考えた」として、効果判定基準の不明確かつ「主観的な」「延命効果を主として判定した有効率」、効果の証拠とならない「カルノフスキーの判定基準」、抗がん剤「フトラフールを継続したままSSMの併用」で何が効いたか分からない症例等の独自基準のデータを提示している。
以上を踏まえると、「薬事審は急遽、認可基準を上げ」るまでもなく、丸山ワクチンは「従来の基準」すらパスできなかったことが明らかだろう。 つまり、「従来の基準なら、丸山ワクチンは間違いなく認可されていた」「薬事審は急遽、認可基準を上げて、丸山ワクチンを弾いた」が真実に反することは疑う余地がない。
では、「従来の基準」をパスできなかったものの、申請時データで効果を証明できていたと反論するにはどうすれば良いか。 2009年版固形がん効果判定ガイドライン(EUROPEAN JOURNAL OF CANCER掲載)に記載されたような医学的知見に従うなら、腫瘍縮小効果を証明できない場合は、無増悪生存期間や全生存期間等で効果を証明する必要がある。 そのデータが申請時に添付されているなら、申請時データで効果を証明できていたことになる。 ただし、無増悪生存期間や全生存期間等で効果を証明するには比較臨床試験が必須である。 しかし、記事には「資料提出の直後、今度は薬事審と厚生省に比較臨床試験までやらされている」と書いてある通り、比較臨床試験をやったのは「資料提出の直後」である。 「までやらされている」という記述から、比較臨床試験は過剰であるという意図が読み取れ、申請時には比較臨床試験のデータを添付してなかったと推測できる。 また、日本テレビ「ザ!世界仰天ニュース 国が認めない丸山ワクチンの謎」で明らかになった丸山ワクチンの申請時の提出データには、比較臨床試験は示されておらず、効いた証拠と到底言えない(丸山ワクチンの効果参照)。 以上の通り、申請時には丸山ワクチンの効果を証明するデータを何ら提出できなかったのである。 だとすれば、「51年の申請から53年にわたって計3回、厚生省薬務局から追加資料の提出を求められ」たのは、本当に丸山ワクチンの申請データに致命的な不備があったからであり、「丸山ワクチンを狙い撃ちにした、“苛め”」とは言えない。
最後に、「計3回、厚生省薬務局から追加資料の提出」までは効果を証明できなかったが、「比較臨床試験までやらされ」た結果は効果を証明できていたと反論するにはどうすれば良いか。 「後藤先生のデータ」に関する証言に対して反論するには、次のいずれかを合理的な理由付きで説明する必要があろう。
- 層(がんの大分類、小分類、病期、治療歴等)別に統計を見るべきという判定は科学的に不当であり、症例のバラツキが多くても全体で有意差があれば効果があると科学的に認められる
- 「後藤教授の申請書」には「胃がんでは差はない」とは書いておらず、胃がん症例では統計的な有意差が出ている
- 胃がん以外の症例は少数ではない、あるいは、少数でも統計的には十分な差が出ている
記事中では紹介されていないが、愛知県がんセンターのデータ関する証言に対して反論するには、次のいずれかを合理的な理由付きで説明する必要があろう。
- 封筒法違反などなかった
- 封筒法違反の処理によるバイアスを遥かに超える統計的に十分な差が出ている
- 「腹膜転移のある群」は少数ではない、あるいは、少数でも統計的には十分な差が出ている
これらの反論は国会答弁の中にはないし(丸山ワクチンの効果参照)、ネット上にも見当たらない。
以上まとめると、記事執筆者、国会参加者も含めて誰一人として、丸山ワクチンに「認可」されるべき証拠の提出があったことを示せていないのである。 これで陰謀論を主張するのは言い掛かりに他ならない。
以上の説明に納得せずに、「何度も駄目出しされたら無理だと思うのは当然だ。丸山ワクチンは諦めるように仕組まれたんだ」などと言い出す頭の弱い人もいるかもしれない。 しかし、既に説明した通り、何度も駄目出しされたのは純粋に申請者側の落ち度である。 申請者は「比較臨床試験までやらされ」て初めてまともな研究デザインのデータを出したのである。 「計3回、厚生省薬務局から追加資料の提出」では箸にも棒にもかからない、おおよそ科学とは言えないような論外のデータしか出していないのだから、それが認められないのは当然である。 比較臨床試験でも、研究デザインはまともであっても、丸山ワクチンの効果を証明するデータは採れていない。 だから、「認可」されないのは当然である。 最初から、まともな研究デザインによる効果を証明するデータを提出していれば、一度目で「認可」されているのである。 そうしなかったのは申請者側の選択による結果であり、審査に文句を言うのはお門違いあろう。
少なくとも、「事前に厚生省との間で拒否ということが決まっていた」などという事実がないことは明らかである。 敗者復活戦を新規に設けたという事実こそが、丸山ワクチンの審査に不正がなかったことを示す決定的な証拠である(丸山ワクチン関連国会議事録参照)。
当時、新たに認可基準を設けたのは、中央薬事審議会の抗悪性腫瘍調査会だった。
「この調査会の座長を務めた、桜井欽夫(よしお)・元癌研究会癌化学療法センター所長が疑惑の人物。 桜井氏は、クレスチンの開発にも携わっており、審議会の委員として、認可に賛成している」(新聞記者)
つまり桜井は、自分が開発したクレスチンを自分で認可したわけだ。 同時に、もし認可されれば、クレスチンの手ごわい競合商品になったに違いない丸山ワクチンを門前払いした新基準も作成しているのだから、さすがに国会でも問題になった。 昭和56年7月30日の衆議院社会労働委員会で、「薬審会の委員として自らが関与した薬剤を審査する立場はどのようなものか」と、薬品メーカーとの関係等を厳しく追及された桜井はこう答えている。
「そういうことは信用できぬ、ということであれば、私は不適任だと存じます」
「昭和56年7月30日の衆議院社会労働委員会」は第094回国会 衆議院 社会労働委員会 第20号のことである。 そこでの証言を調べたのなら、当然、議事録にある次の証言もこの記事の執筆者は知っていたはずである。
- 丸山ワクチン擁護者側である梅原参考人が「腫瘍の縮小を目安とする化学療法剤の効果判定基準は不適当であると考え」て自己の研究では意図的に従来の基準に沿ったデータを採らなかったと証言している
- クレスチンの「評価の方法は日本癌治療学会基準」であり丸山ワクチンも同じ基準を使ったと桜井参考人が証言している
- クレスチンの提出データは腫瘍縮小効果が認められたと桜井参考人が証言している
- 丸山ワクチンの提出データは腫瘍縮小効果が認められないと村山国務大臣が証言している
- 従来基準では丸山ワクチンの効果が証明できなかったので、追加で新基準を設けたと山崎説明員および村山国務大臣が証言している(つまり、丸山ワクチンには敗者復活戦が設けられた)
- 今後も、従来基準で効果が認められればそれで承認し、従来基準で効果が認められなければ新基準を適用すると山崎説明員が証言している
- 敗者復活戦のデータで効果を証明できていない理由を砂原参考人と桜井参考人が証言している
つまり、この記事の執筆者は、取材前から「丸山ワクチンを狙い撃ちにした、“苛め”」のシナリオを書くことを決めており、それに都合が良いように意図的に情報を選別しているのである。 最初に決めた“真相”に反するならどんなに核心を突いていても隠蔽し、最初に決めた“真相”に都合の良い印象を与える情報については全く証拠能力が足りなくても採用する。 それでは報道とは呼べない三流のゴシップである。 調査した事実関係を紹介したうえで、それに具体的疑問を呈するなら分かる。 しかし、都合の悪い話を隠して、かつ、真逆の証言を得られたかのように偽装するのは、完全な捏造である。
さて、ここで、「いい面の皮」「俺は飾り」と自称する人が「審議会内部」のメンバーに選ばれていることを思い出して欲しい。 これは、「審議会内部」のメンバーは、初めから決めた特定の結論に都合の良い人たちだけで固めることができてないことを示している。 まず、クレスチン疑惑については、「クレスチンの開発にも携わっ」た人物を「審議会の委員として」送り込んだとしても、審査対象データの評価を不自然に操作することは難しい。 何故なら、「いい面の皮」「俺は飾り」と自称する「審議会内部」のメンバーに不審に思われ、それが不正を示す証言として残ってしまう。 事実、丸山ワクチンの審査においては、「いい面の皮」「俺は飾り」と自称する「審議会内部」のメンバーに内情を暴露されている。 簡単にバレるのでは陰謀とは言えない。 バレないように陰謀を企むなら、審査段階でのデータの評価を操作するのではなく、申請段階でのデータそのものを操作するしかない。 であれば、クレスチンの「認可」に何らかの不正があったとしても、それは、審査段階でのデータの評価に対してではなく申請段階でのデータの内容に対して行われたと考える方が自然である。 これは丸山ワクチンについても同様のことが言える。 そして、申請者ではない「審議会内部」のメンバーには申請内容を操作できない以上、「不認可に」することは「認可」させることよりも遥かに難しい。 その証拠に、既に紹介した国会議事録では丸山ワクチンの審査に関する全ての疑問に対して理論整然とした無理のない回答が為されている。 回答済みの質問の蒸し返しはあるものの、回答内容に対する新たな疑義は全く示されていない。 つまり、「疑惑」とされたことについては全て正当な理由があることが明らかにされ、それに対する反論は一切為されていないのである。 丸山ワクチンの審査に対して合理的回答が不能な不自然な点を何1つ示せないのでは、丸山ワクチン陰謀論には疑惑を提示できるだけの合理的理由が全くない。 それを言い掛かりと言う。 それでは、「この調査会の座長を務めた、桜井欽夫(よしお)・元癌研究会癌化学療法センター所長が疑惑の人」であろうとなかろうと、それは「丸山ワクチンを狙い撃ちにした、“苛め”」を何ら裏付けない。
陰謀論その3
疑惑はまだある。 丸山ワクチンを徹底して忌避したといわれる山村雄一・元大阪大学総長との関係だ。
「当時、文部省の『科学研究費がん特別研究審査会』の主査が桜井さんで、副主査が山村さんだった。 55年当時で予算が18億円。 この分配を2人は取り仕切っていたのです」(医事評論家)
既に説明した通り、「審議会内部」のメンバーであっても、審査対象データの評価を歪めて「不認可に」することは極めて難しい。 「審議会内部」のメンバーですらない「丸山ワクチンを徹底して忌避したといわれる山村雄一・元大阪大学総長」にはどうしようもなかろう。
噴出する疑惑
丸山ワクチンの不認可後、基礎研究に従事した野本亀久雄(64)=がん集学的治療研究財団副理事長=もこう語る。 「私は、丸山ワクチンとは何か、癌にどのような影響を及ぼすものかを2年間、徹底的に研究した。 山村が一番潰したがっていたのは私ですよ。 私が丸山ワクチンは効かない、と言わないから。 どんな妨害があったかは言いたくもない。 医学界のトラブルというのは生易しいものじゃないんだから。 文部省の補助金分配にしても、いまやっていたら逮捕だろうね。 文部省のパイの山分けをやっていれば、それは強いよ。 ただ、私はそんなもの、一銭も貰っていなかったから関係なかったけどね。 それまで山村に恩恵をこうむっていた人が、山村が“ただの水”と言ったらそれになびくのは当然なんだ」
臨床研究ではない「癌にどのような影響を及ぼすものかを2年間、徹底的に研究した」では、丸山ワクチンが効く証拠とはならない。 よって、そのような研究をした人にどんな「妨害」をしようが、丸山ワクチンの「認可」にはほぼ影響し得ない。
丸山ワクチンを擁護するデータを出した研究者が、補助金をばっさり切られた、などという話もあるが、ともかく丸山が、山村、桜井という医学界の大物2人と対立する立場にあったのは間違いない。
第094回国会 衆議院 社会労働委員会 第20号によれば、「五十五年度のもの」の「スクリーニングのサービス班」の予算の「三千九百万円」のうち、「三分の二」が桜井参考人の所へ行って、残りの「三分の一」が「昭和五十一年」の丸山ワクチンの申請データにおいて一部の実験を担った「佐藤博先生の方に行って」いると証言されている。 「丸山ワクチンを擁護するデータを出した」「佐藤博先生」は、「補助金をばっさり切られ」るどころか、「スクリーニングのサービス班」の予算において桜井参考人に次ぐ「三分の一」もの大きな予算配分を受けているのである。 それなのに、どうして、「丸山ワクチンを擁護するデータを出した研究者が、補助金をばっさり切られた」などと言えるのか。
「予算」の「分配」が大きな権力となるならば、「文部省の『科学研究費がん特別研究審査会』」を「取り仕切っていた」「山村、桜井という医学界の大物2人」よりも国全体の予算を取り仕切っていた大蔵省の方が大親分であり圧倒的な権力を持っている。 後の該当部分で説明するが、「大蔵省が“こんなに税金はつぎ込めない”と悲鳴をあげ、厚生省を攻撃した」ことは丸山ワクチンの敗者復活戦を設ける方向に作用している。 つまり、「山村、桜井という医学界の大物2人」よりも圧倒的な権力を持っていた大蔵省は、丸山ワクチンを「認可」させる方向で圧力をかけていたのである。 であれば、本当に「丸山ワクチンを擁護するデータを出した」ことを理由に「研究者が、補助金をばっさり切られた」のであれば、それを大蔵省が容認するわけがなかろう。
薬事審のメンバーの1人もこう証言する。
「桜井と山村は非常に親しかったですね。 彼らにとって、我々はチンピラみたいなものです。 桜井は、初めから丸山ワクチンを不認可に持っていく姿勢だった。 あれでは裏に何かある、と勘ぐられても仕方ありません」
丸山ワクチン陰謀論を検証する観点に限れば、「初めから丸山ワクチンを不認可に持っていく姿勢」の有無を論じることは無意味であり、重要なことはそのような姿勢が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことに影響したかどうかである。 既に説明した通り、そのような姿勢が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことへの影響を記事は一切指摘できていない。
隠された決定的証言
さて、当の桜井欽夫は、今なお囁かれる数々の疑惑に対してどう答えるのか? 東京三鷹市の閑静な住宅街にある自宅で、88歳になる桜井は取材に応じた。 「女房が死んで1人暮らしだから、この広さでも十分」と語る自宅は木造平屋建ての、こぢんまりとした古い家である。
「みんな大豪邸でも構えていると思うらしいんだよね。 もう建ててから50年近くになるよ。 敗戦記念建築って呼んでいるんだ。 三鷹にも、さすがにこんな家はないからね」
歯切れのいい口調で語る桜井は、疑惑のクレスチンにまつわる、こんな話を披露する。
「右翼が騒ぎ出したことがあってね、クレスチンで儲けてけしからん、ということらしい。 “街宣車で行くぞ”という電話があって、警察にも相談したけど、結局来なかった。 この家を見て呆れたらしいね」
薬事審の新基準については「あれは丸山ワクチンが出てきたから作ったもの」と認めつつ、こう語る。
「あのとき、免疫の基準というものはこれでいいのか、という世論が起こってくる。 それでインターナショナルな情報を集めて作ったんです。 厚生省に、丸山ワクチンを認めない基準を作れ、と言われたわけじゃない」
だが、自らが開発に関与したクレスチンの爆発的なヒットも大きく影響した、という。
「クレスチンが馬鹿売れするから、大蔵省が“こんなに税金はつぎ込めない”と悲鳴をあげ、厚生省を攻撃したんだ。 困った厚生省は調査会に任せちゃったわけだな」
早い話が、調査会は大蔵省と厚生省の意を汲んで、丸山ワクチンを不認可にする新基準を設けた、というわけだ。
これは、この記事中で唯一の決定的な証言である。 唯一の決定的な証言であるにも関わらず、何故か、本人の核心部分の証言が隠匿されている。 どういうわけか、「あれは丸山ワクチンが出てきたから作ったもの」、「大蔵省が“こんなに税金はつぎ込めない”と悲鳴をあげ、厚生省を攻撃した」との証言まで得ておきながら、大蔵省が厚生省をどのように攻撃し、それが丸山ワクチンの「認可」に対してどのように作用したか、核心部分では本人の証言を一切紹介していないのだ。 しかも、「丸山ワクチンを認めない基準を作れ、と言われたわけじゃない」と証言者が明言しているのに、それに反する「丸山ワクチンを不認可にする新基準を設けた」という記者個人の印象を語るのは何故か。
既に紹介した国会議事録を見れば明らかな通り、「新基準」は「丸山ワクチンを不認可にする」ためのものではなく、従来基準を満たさない丸山ワクチンの敗者復活戦として設けられている。 それが、大蔵省が「厚生省を攻撃」し「困った厚生省は調査会に任せちゃった」結果として生まれたものであるならば、この大蔵省からの圧力は丸山ワクチンの敗者復活戦を設ける方向に作用したことになる。 だからこそ、何ら悪びれることもなく「歯切れのいい口調」で取材に応じられるのであろう。 だから、この取材に応じた本人も、国会議事録と同じような証言をしたと推測できる。 当然、「新基準」が丸山ワクチンの敗者復活戦であったことも語っているだろう。 しかし、この記者は、自分が作ったシナリオに都合の悪い部分の本人の証言は故意に隠し、足りない部分はシナリオに合うように記者の印象を語ることで、真相を180度捻じ曲げているのである。
よく考えれば、「クレスチンが馬鹿売れ」したからと言って、大蔵省にとっては「丸山ワクチンを不認可にする新基準」を作っても全く意味はない。 何故なら、「クレスチンが馬鹿売れ」する限り、「大蔵省が“こんなに税金はつぎ込めない”と悲鳴をあげ」る状況には変わりがないからだ。 そして、「丸山ワクチンを不認可」にしたところで、「クレスチンが馬鹿売れ」を止められるわけではない。 だから、「丸山ワクチンを不認可にする新基準を設け」ても「大蔵省」「の意を汲」むことには全くならない。
むしろ、逆である。 「同じ免疫療法剤」で「クレスチンの3分の1から4分の1でも売れてくれれば、と考え」る程度であれば、クレスチンと比較して特別に優位な点はないと考えられる。 であれば、普通に考えて、後から出た医薬品が先に出た医薬品よりも高い薬価になることはないはずである。 「クレスチンの手ごわい競合商品になったに違いない」のであれば、クレスチンの売り上げの一部をより安価な競合薬=丸山ワクチンが取って代われば、少しは「大蔵省が“こんなに税金はつぎ込めない”と悲鳴をあげ」る状況の改善が期待できる。 「丸山ワクチンを不認可にする新基準を設け」ても「大蔵省」「の意を汲」むどころか、「大蔵省」「の意」に完全に反することは疑う余地はない。 だから、「大蔵省」「の意を汲」むために、丸山ワクチンを「認可」しやすくする優遇措置として敗者復活戦を設けたのだろう。 しかし、厚生省は、大蔵省の圧力に屈して手続的には大幅に優遇したものの、効果証明の免除まではしなかった。 結果、申請データがあまりに酷すぎて、丸山ワクチンの「認可」には至らなかった。 手続的に大幅に優遇しても「認可」できないほど丸山ワクチンの申請データは酷かったのである。 丸山ワクチンに効果がなかったからなのか、それとも、申請者側の対応が杜撰だったからなのかは明確ではないが、ともかく、効果を証明するデータを提出できなかったのである。 その後、「大蔵省」「の意を汲」むために、丸山ワクチンを異例の有償治験扱いとしたのだろう。 効果を証明できないものは承認できないが、「大蔵省」「の意」を無視することもできず、結果、どっちつかずの落とし所にしたわけである。
そう、記者は真相を全て知らされたうえで、それを紹介することもなく、真実を180度捻じ曲げたのだ。 取材で聞いた話を紹介したうえで、それに具体的疑問を呈するなら分かる。 しかし、都合の悪い話を隠して、かつ、真逆の証言を得られたかのように偽装するのは、完全な捏造である。
クレスチン等疑惑その2
しかし厚生省は平成元年、クレスチンとピシバニールについて「効果なし」の答申を出し結果的に1兆円もの医療費が、医者と医薬品メーカーの懐に消えている。 丸山ワクチンは、まったく効果のない、この小麦粉同然の抗ガン剤のために認可を阻まれた、といっても過言ではない。
仮に、クレスチンとピシバニールが「まったく効果のない、この小麦粉同然の抗ガン剤」だったとしても、そのために丸山ワクチンが「認可を阻まれた」とは全く言えない。 既に何度も説明している通り、丸山ワクチンは効果の証拠を示せなかったから「認可」されなかっただけである。
官民癒着論
猛烈な官民癒着
桜井は山村との関係は「親しくしていた」と認め、こう語る。
「学問のレベルで言えば、山村先生は丸山先生なんて問題にしていなかったと思う。 山村先生は結核菌の第一人者で、結核をやりたい人間はみんな先生のところへ行ったんだから。 大きなグループがあって、研究費も方々から入って、私立大学の一研究者とは違うよ」
丸山を歯牙にもかけなかったはずの山村が、こと丸山ワクチンの認可に限っては、大いに注目し一貫して反対の立場をとっていた。
「山村先生は結核の専門家だから、実験の根本を詳しく知っている。 スタッフも優秀だし多くの論文も書かれていたし玄人なんですよ。 対して、丸山先生の論文は素人みたいなものだったからね」
「一人のお医者さんがいくら一生懸命研究してね、病理検査もしないで、癌に間違いないとか、それが治ったとかいうのをただ記載して出されても、ホントに信用していいのか分からないでしょう」
これは研究の質に関する言及であって「猛烈な官民癒着」でも何でもない。 「実験の根本」を詳しく知らず、「優秀」な「スタッフ」もおらず、「多くの論文も書かれ」た経験もない「一人のお医者さんがいくら一生懸命研究」しているつもりでも、「病理検査もしないで、癌に間違いないとか、それが治ったとかいうのをただ記載して出されても」医学的には信用に値しないという当然の評価を述べているに過ぎない。 つまり、不足している研究の質を上げるための努力を怠った丸山氏の姿勢を指摘しただけである。
医学界の大御所から見れば“一人のお医者さん”に過ぎなかった丸山には、ワクチンの製造元が弱小メーカーの「ゼリア新薬」という、致命的なハンディもあった。 ゼリア新薬の元幹部が証言する。
「当時、癌治療薬の市場は年間800~1000億円と言われていました。 うち、クレスチンが市場の半分に当たる500億円を売り上げています。 うちは、丸山ワクチンがクレスチンの3分の1から4分の1でも売れてくれれば、と考えていました。 そうなれば年間200~300億円の売上げになる。 これは裏を返せば、年間べースで1億円の経費を使っても元がとれる、ということです。 製薬メーカーは、ひとつの商品がヒットすればビルが建ったり、株価が2桁上昇することさえあります。 ですから新薬を認可してもらうためなら、カネに糸目を付けず、人海戦術で接待します」
だが、この弱小メーカーのトップには、経費をばら蒔いて実を獲るだけのしたたかさが無かった。
「うちの社長は丸山先生に似て職人気質のところがありました。 丸山ワクチンの申請にしても、我々が“厚生省の官僚や審議会の先生方に根回しをする必要があります”と、接待の必要性を意見したのですが、社長は“良いものは必ず認められる。 そんなカネは必要ない”と。 おかげで、経費を捻出するために領収書を誤魔化したりして、たいぶ苦労しました。 うちは経費が使えなかった分、他社に比べると厚生官僚や薬事審の委員へのパイプが細い。 つまり、ゼリアは他社に比べると、政治力は格段に落ちるのです」
確かに、ゼリア新薬は1955年に創業した会社であるから、形の上では歴史の浅い新興の中堅会社に過ぎなかった。 しかし、ゼリア新薬の創業者社長の伊部禧作氏は旧山之内製薬(現アステラス製薬)の元常務であり、同社系列の科研薬化工株式会社の元社長でもあり、 また、製薬分野以外にも事業を起こしていたようである(丸山ワクチンの真相参照)。 常識で考えれば、大手製薬会社の重役を務めた経験のある起業家が創業しておいて、「弱小メーカー」「厚生官僚や薬事審の委員へのパイプが細い」はあり得ない。 そもそも、全く前例のない「有償治療薬という摩訶不思議な名称のもと、例外的に投与を認められ」るよう薬事法の抜け道を厚生省に認めさせる手腕は「ゼリアは他社に比べると、政治力は格段に落ちる」という記述と矛盾する。
仮に、「ゼリアは他社に比べると、政治力は格段に落ちる」のであれば、丸山ワクチンも政治力のある製薬会社と組めば良いだけである。
では、本物の接待とはいかなるものなのか? ある中堅メーカーの幹部が、医薬品業界の想像を絶する内幕について、重い口を開いた。
「まずハイヤーで厚生省や病院まで迎えに行って、赤坂の料亭で食事をする。 その後は銀座のクラブを2~3軒ハシゴしてハイヤーで帰すのです。 無論、ただで帰すのではなく、“今日は大変勉強になりました。 これは奥様へのお土産でございます。 それとお車代を”と言って、三越や高島屋で適当に買ってきた甘味類と、その下に現金を忍ばせる。 少ないときで5~10万円、多いときは50万円でした。 しかし大手は常に50~100万円渡していた」
そのほか、ここぞという時のスペシャルコースもある。
「クラブで飲んだ後、女性が5人くらいいるお店に行くわけです。 そこで官僚や医者に“どのコにしますか”と囁くと、相手もニヤけながら“あのコがいいな”と指さすのですよ。 まあ、売春クラブですね。 当時で10万円でした。 無論、ホテル代もかかりますから20万円。 その前のクラブとかひっくるめると50~100万円ですね」
今も続く迷走
ただし、大手の接待はこんなものではない、という。
「大手メーカーと昵懇になった先生が急にクルマを買い替えることはザラで、一戸建の大きな家や別荘を突然建てる人もゴマンといました」
圧巻はパーティである。
「大手がよく使う手は『新薬試験中間発表会』などと称して、帝国ホテルやニューオータニで200~300人を集めてパーティを行うのです。 しかし研究発表も立食パーティも形式だけ。 肝心なのはその後。 全員に帰りハイヤーを用意しますが、その際に車代を渡します。 金額は少ないひとで10万円、多いひとだと数百万円は渡していましたね。 うちも同じようなパーティを開催したことはありますが、ある先生から“やはり大手とは違うな”と厭味を言われたことがありました」
丸山ワクチン陰謀論を検証する観点に限れば、「本物の接待」の有無を論じることは無意味であり、重要なことは「本物の接待」が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことに影響したかどうかである。 「本物の接待」が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことへの影響を記事は一切指摘できていない。
高級官僚の天下りポストも、大手はしっかり用意していた。 「ピシバニールを製造・販売していた中外製薬は昭和54年、厚生省の坂元貞一郎事務次官を副社長に迎えています。 坂元副社長は、薬事審の委員の前で“おれの目の黒いうちは絶対に丸山ワクチンは認可させない”と言っていました」
丸山ワクチン陰謀論を検証する観点に限れば、「おれの目の黒いうちは絶対に丸山ワクチンは認可させない」発言の有無を論じることは無意味であり、重要なことはそのような発言が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことに影響したかどうかである。 既に説明した通り、「審議会内部」のメンバーであっても、審査対象データの評価を歪めて「不認可に」することは極めて難しい。
仮に、クレスチンやピシバニールの発売元が圧力をかけてくるなら、丸山ワクチンも他の大手製薬会社と組めば良いだけである。
一方、ゼリアの社内は、丸山ワクチンがなかなか認可されない現状を「山村先生と丸山先生は同じ研究をしているので、ライバル関係だから仕方がない」と考えていたと言うが、そのうち、こんな噂が飛び交い始めた。 先の元幹部が明かす。
「山村先生が丸山ワクチンに対してあまりに酷いことを言うので、うちにも何か恨みでもあるのでは、とみんなで疑心暗鬼になっていったのです。 当時、社内では“ある社員が山村先生の娘さんと婚約している”という噂がまことしやかに流れました。 そんなコネがあるのなら何とかしよう、とみんなで該当者を探したが見つからない。 そうこうしていると、今度は“その婚約は破談になったので、山村は丸山ワクチンばかりかゼリアも憎いのだ”と話が変わってきたのです。 そこまでくると、我々もバカらしくなって、何もしませんでしたが」
他メーカーの、なりふりかまわぬ実弾攻撃に比べれば、なんとも呑気な話ではある。
丸山ワクチン陰謀論を検証する観点に限れば、「こんな噂」等の真偽を論じることは無意味であり、重要なことは「こんな噂」が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことに影響したかどうかである。 「こんな噂」が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことへの影響を記事は一切指摘できていない。
生真面目で誠実な医師の丸山と、融通の利かない弱小メーカーが組んだところに、丸山ワクチンの不運があった。
既に説明した通り、「生真面目で誠実な医師の丸山」は患者の利益よりも自己の技術の独占を選んだのである。 また、既に説明した通り、ゼリア新薬は「融通の利かない弱小メーカー」でもなかった。
加えて、丸山の周囲にも、“宝の山”の匂いを嗅ぎ付けて、欲の皮の突っ張った人間たちがうごめくようになる。 丸山と付き合いのあった大学教授が、こんな話を披露する。
「丸山ワクチンの製造は、丸山先生の取り巻きの人間たちによって、実に多くの製薬会社に持ち込まれているんです。 第一製薬とか協和発酵、大鵬薬品にも行っている。 大鵬薬品は乗り気になって“共同開発にするから、データを出してください”と伝えたら“1億円出せ”と言われたそうです。 もちろん、丸山先生はお金のことなんか頭にない人でしたから、ご存じないですよ」
丸山ワクチン陰謀論を検証する観点に限れば、「欲の皮の突っ張った人間たち」の有無を論じることは無意味であり、重要なことは「欲の皮の突っ張った人間たち」が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことに影響したかどうかである。 「欲の皮の突っ張った人間たち」が丸山ワクチンが「認可されなかった」ことへの影響を記事は一切指摘できていない。
「大鵬薬品は乗り気」であったなら、大鵬薬品と組む余地はあったことになる。 社会的常識があれば「1億円出せ」が詐欺であろうことは容易に見抜けるので、本気で「共同開発」に「乗り気」であれば「取り巻きの人間たち」を介さずに「丸山先生」に直接確認するだろう。 であれば、「大鵬薬品は乗り気」であることを「丸山先生」は「ご存じない」ということはあり得ない。 そして、「お金のことなんか頭にない人」なら、尚更、大鵬薬品と組めば良い。
人情論その3
ひたすら、ガン患者のために、と孤軍奮闘した丸山は「認可を見るまでは死ぬわけにはいかない」と執念を燃やし続けたが、平成4年3月、90歳で亡くなった。
既に説明した通り、「孤軍奮闘した丸山」は「ガン患者のため」よりも自己の技術の独占を選んだのである。
陰謀論その4
その9ヵ月前の平成3年6月、丸山ワクチンを濃縮した『アンサー20』が認可されている。 しかし抗ガン剤ではなく、放射線治療の白血球減少抑制剤としての認可だった。 「親父はもう寝たきりだったけど、“うーん……”と言ったきりで、うれしそうじゃなかったな。 あくまでも抗ガン剤としての認可を待ち望んでいただけに、不本意だったのでしょう」(長男の丸山茂雄)
アンサー20の認可で医学界の偏見はかなり軽減したとも言われるが、主流派による妨害は相変わらず続いている。
何らかの事情で「医学界の偏見はかなり軽減した」後で「丸山ワクチンを濃縮した『アンサー20』が認可」されたのであれば記事の内容と辻褄は会う。 ただし、その場合は、どのようにして「医学界の偏見はかなり軽減した」のかの明確な説明が足りていない。 しかし、「丸山ワクチンを濃縮した『アンサー20』が認可」された後に、「医学界の偏見はかなり軽減した」という話は矛盾している。 「医学界の偏見」のせいで丸山ワクチンが「認可」されないなら、どうして、「丸山ワクチンを濃縮した『アンサー20』が認可」されたのか。 真相は「医学界の偏見」とは全く関係がないからではないのか。 ようするに、「放射線治療の白血球減少抑制剤」としての効果を実証するデータは示せても、がんに対する効果は示せなかっただけではないのか。 「不本意だった」のだろうが、何だろうが、効果を証明できない「抗ガン剤としての認可」がされないのは当然のことである。
尚、クレスチンとピシバニールは、平成元年(1989年)の「『効能限定』の答申」以降は全く使われなくなっている。 この記事が掲載されたのは2001年であり、クレスチンとピシバニールが使われなくなってから10年以上が経過している。 丸山ワクチン等と同種の治療薬は使われなくなっているので、他の製薬会社にとっては、既に、丸山ワクチンは自社製品との競合薬ではなくなっている。 むしろ、本当に丸山ワクチンに延命効果があるならば、既存の製薬会社にとっては歓迎すべき存在となる。 仮に、丸山ワクチンに効果があるとしても、劇的な効果は期待できないので、丸山ワクチンを使用する場合の標準治療は他の治療との併用となろう。 その場合、丸山ワクチンにより寿命がx%増えるなら、併用する医薬品の需要も使用期間が長くなる分、すなわち、x%増えることになる。 もちろん、丸山ワクチン以外の使用を拒否する患者もいるだろうが、そのような患者は丸山ワクチンが「認可」されなくても丸山ワクチン以外の使用を拒否するから、丸山ワクチンの「認可」による影響はない。 少なくとも、適切にインフォームドコンセントが行われる前提では、丸山ワクチンが他の製薬会社の売り上げを脅かすことは考えられない。 それなのに、「主流派による妨害は相変わらず続いている」というのでは現実をあまりに無視し過ぎていて荒唐無稽だ。 「主流派」は理性的に損益も計算できずに感情論だけで「妨害」を「相変わらず続」ける馬鹿者だとこの記者は言いたいのだろうか。
東京・丸の内で丸山ワクチンのシンポジウムが開催されたのは平成11年12月のことだった。 患者家族の会の事務局長、南木雅子は準備段階でこんな体験をしている。
「主催を承諾してくれた産経新聞社に、癌研究会の理事が直接乗り込んで“丸山に関わるシンポジウムを主催するなら、今後、癌に関する取材協力は一切しない”と言ってきたのです。 産経新聞は、広告やチケットを刷り終えていたにもかかわらず、慌てて主催を降りてしまいました」
「癌研究会」とは、公益財団法人がん研究会のことか? 真っ当な医学団体であれば、インチキな療法を布教する活動に対して、このような形で協力を拒否することは当然のことである。 つまり、この「癌研究会の理事」の行動が陰謀の一環であるのか、あるいは、医学団体として正当な行動であるのかは、丸山ワクチンが真っ当な療法であるかによる。 そして、既に説明した通り、これまでの経緯を見る限り、丸山ワクチンは真っ当な療法とは言えない。 また、丸山ワクチンをまじめに研究し、その成果を伝えたいなら、学術専門誌に論文を寄稿すれば良い。 シンポジウムと題した何も知らない素人を騙すかのような集会で布教するのでは、インチキな療法と同じ手口である。 正当な医療であるなら、まず、専門家からの検証を受け、その検証に耐えた後に素人に紹介すべきである。 だから、「癌研究会の理事」の行動は、陰謀の一環などとは到底言えない、医学団体として極めて正当な行動であると言える。
丸山ワクチン迷走の終着点は、未だ見えていない。
終着点を見出したいなら、まず、効果を証明するデータを採るべきだろう。
補足
クレスチン、ピシバニール、丸山ワクチンの比較
専門医にクレスチン、ピシバニール、丸山ワクチンの評価を聞くと、皆、口を揃えて次のように言うだろう。
- クレスチンやピシバニールには承認すべき薬効がなかった
- それらと類似の丸山ワクチンにも承認すべき薬効がなかった
承認申請データでは、クレスチンやピシバニールに腫瘍縮小効果が見られたことになっている。 しかし、これらを治療に使ったことのある医師なら、クレスチンやピシバニールに腫瘍縮小効果がないことは誰でも知っている事実である。 もしも、クレスチンやピシバニールに腫瘍縮小効果が見られるなら、「単独使用による効果が認められないので、化学療法剤との併用に限定する」という「『効能限定』の答申」には、現場の医師や病院が大反対したはずである。 何故なら、それは、手術以外で最も優れた治療する手段を採り上げるに等しいからである。 がん患者を治療するなと言うに等しい措置に反対しない医師や病院が存在するわけがない。 心ある医師は患者や家族に反対運動を起こすよう嗾すだろう。 当時の「日本の医薬品史上、最大のヒット商品」であれば、がん専門医で使ったことがない者はいないだろう。 であれば、「『効能限定』の答申」がもたらす結果を理解できないがん専門医がいるはずもない。 しかし、この「『効能限定』の答申」への反対運動は全く起きなかった。 それは、「単独使用による効果が認められない」のが事実だったからである。 それ故に、クレスチンやピシバニールに腫瘍縮小効果が見られたという話はおかしい。
しかし、既に説明した通り、提出されたデータ上で腫瘍縮小効果が見られないのに、腫瘍縮小効果が見られたという評価をするのは難しい。 というのも、他の審査メンバーからデータの解釈を捻じ曲げていることが丸わかりだからである。 それでは、不正をしていることが明らかである。 バレないように不正をするなら、やはり、提出前のデータに何らかの細工をするしかない。 つまり、審査段階で不正をするのではなく、申請段階で不正をするのである。 申請データに不備がある場合、それを審査でひっくり返すのは難しい。 多少のことなら強引な理屈をつけて押し切ることも可能だろうが、論外なデータを審査でパスさせることは不可能に近い。 申請段階でほぼ勝負が決まってしまうのである。 完全に捏造したデータなのか、統計的に確率を操作したのか、手口は定かではないが、今日では、誰もが、何らの不正を疑っているのではないだろうか。
もちろん、そのことは丸山ワクチンを承認すべき理由とならない。 だからこそ、丸山ワクチンの話題のはずなのに事さらにクレスチンやピシバニールの疑惑を強調するのでは、丸山ワクチンの審査や効果に関する決定的証拠がないことを誤魔化すための露骨な論点逸らしにしか見えないのである。 クレスチンやピシバニールに関して言えば、この週刊誌記事は、不正の可能性を示唆する情報にはなっているが、決定的証拠までは挙げられていない。 丸山ワクチンに関して言えば、この週刊誌記事は、一定の印象を与える情報に留まり、不正の可能性すら示唆できていない。 この内容でクレスチンやピシバニールに関する疑惑を追求するならまだわかる。 しかし、この内容で丸山ワクチンの審査に不正があったかのように言うのでは、存在しない疑惑を捏造しているだけである。
クレスチンやピシバニールは何故売れたか?
クレスチンやピシバニールが爆発的に売れたのは「副作用が皆無」だからである。 当時の日本では本人へのがん告知はほとんどされていなかった。 今でも本人へのがん告知は忌避される傾向にあるが、当時は、本人への告知はまずされなかった。 そのような状況下で、家族には告知するから事態はややこしくなる。 抗がん剤特有の副作用が出れば本人にがんだとバレてしまう。 しかし、家族から治療を求められては何もしないわけにはいかない。 そこで、「副作用が皆無」が重宝されたのである。
クレスチンやピシバニールが「『効能限定』の答申」された後に重宝されたのはUFTである。 UFTは、クレスチンやピシバニールと同様に、日本特有の抗がん剤である。 UFTは、クレスチンやピシバニールとは違って、一般的な抗がん剤だが、有効成分が非常に薄いとされる。 有効成分が非常に薄いから、副作用も少なく、効果もほとんどない。 だが、副作用が少ないから、クレスチンやピシバニールと同様に重宝されたのである。 尚、長らく効かない抗がん剤の代名詞とされてきたUFTであるが、肺癌の術後療法等で生存率の向上が見られるなどの臨床結果が発表され、今日では、使い方次第では効く抗がん剤とされている(EBMの手法による肺癌診療ガイドライン - 日本肺癌学会等参照)。
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