今村光一
概要
今村光一氏はマクガバン・レポートやOTAレポート等の米国の公的機関の情報を和訳したとする本を多数発刊している。 しかし、その内容は、オリジナルの米国の公的機関の情報とは全く違っている。 今村光一氏は、後に、薬事法違反の健康食品販売で逮捕されている。 ようするに、これらの本は、今村光一氏自らが販売する健康食品のためのバイブル本である。 当時は、日本ではインターネットはまだ普及しておらず、嘘の欧米情報を流布して陰謀論を唱えても、その嘘を見抜くのは容易ではなかった。 しかし、今では、米国の公的機関が発信している情報を容易に入手することができるため、これらの嘘を容易に見抜ける。
マクガバン・レポートの和訳本?
今村光一氏は、マクガバン・レポートの和訳として「アメリカ上院栄養問題特別委員会レポート いまの食生活では早死にする 自分の健康を守るための指針 今村光一【編訳】」を発刊している。 しかし、その内容を読んだ人によると、マクガバン・レポートの和訳とは到底言い難いものになっているようである。
本書はマクガバンレポートの抄訳という体裁をとっているものの、具体的に引用した部分はあまりなく、「委員会でも証言した○○博士が述べているとか」、「M委ではこんな証言があった」、と記しながらその名前が書かれていなかったりします。 また、委員会とは無関係だと思われる別の事例が委員の発言とされる文章のあとに書かれていたりと、どこまでがレポートの紹介なのか、どこからが今村さんの主張なのかがよく分からない構成になっています。 マクガバンレポートの抄訳であるとの認識で本書を手にされた方が居たとしたら、その期待は裏切られてしまうでしょう。
マクガバン・レポートの原典の和訳を読んだ人からも、マクガバン・レポートと内容が全く違うことが指摘されている。
以上のように、マクガバン・レポートについてマクロビ・代替療法の世界で紹介されている内容の多くは嘘か誤解に基づいている。 この他にもマクガバンが政治生命をかけたとか、その後アメリカはマクガバン・レポートに基づいて食事が改善されたとか、事実とそぐわない伝説が無数に存在している。 こうした伝説は、日本ではアメリカの情報が得にくいからこそ普及したのではないだろうか。
アメリカでもマクガバン・レポートを代替療法の側が資料に使うことがあるが、日本の例ほど極端ではない。 アメリカではもっと容易に報告の元資料に当たれるし、マクガバン議員や自国の栄養事情について嘘を書いてもばれやすいからだろう。 だが、日本では今後もこうした「伝説」が様々なバリエーションを生みつつ普及していくと思われる。
OTAレポートの和訳本?
今村光一氏は、「OTAレポート」の和訳として「自然な療法のほうがガンを治す アメリカ議会ガン問題調査委員会[OTA]レポート ガンを治せる時代のガン療法の姿 今村光一【編訳】」を発刊している。 しかし、米国連邦議会技術評価局(Office of Technology Assessment)は年間に何十ものレポートを出しており、「OTAレポート」ではどれのことを指しているのか特定できない。 そうやって、今村光一氏は第三者による内容の検証を妨げている。 書籍の内容に照らすと、Unconventional Cancer Treatments/OTA-H-405(非実証主義がん治療)のことであろうと思われ、その原文は以下のとおりある。
- Unconventional Cancer Treatments/OTA-H-405 - プリンストン大学
- Unconventional Cancer Treatments - CyberCemetery (北テキサス大学図書館)
- Unconventional Cancer Treatments (September 1990) - Office of Technology Assessment Archive (米国科学者連盟)
- Unconventional Cancer Treatments(1990) - Quackwatch
それら内容を和訳すれば、今村光一氏の書籍とは全く違うことを言っていることがわかる。 Front Matter (前付け)のForeword (序文)とEvaluating Unconventional Cancer Treatments (非実証主義がん治療の評価)のConclusions (結論)を読むだけでも、その概要は理解できる。
- 主流医学だけでは患者のニーズを十分に満たせない現状がある
- そこで、John Dingellは、代替医療について米国連邦議会技術評価局(Office of Technology Assessment)に調査させた
- 調査した結果、代替医療の安全性と有効性の客観的評価が全くできていないことが分かった
- 今後、無作為化比較試験等で代替医療の客観的評価を行う必要がある
ようするに、このレポートは、通常医療に治療効果がないことを示してはいないし、代替医療に治療効果があることも示していない。 代替医療に対しては、どちらかと言えば、駄目出しをしている。 このレポートが指し示すことには「溺れているのに藁をつかまないのはナンセンスだ」以上の意味はない。 ようするに、主流医学では患者の需要を完全に満たせていないのだから、駄目元で代替医療も客観的な検証をして可能性を模索すべきだということである。
代替医療の現状
確かに、国立衛生研究所代替医療局(National Institute of Health, Office of Alternative Medicine)が設立され、米国が国を挙げて代替医療の研究に取り組んだのは事実である。 しかし、国立補完代替医療センター(National Center for Complementary and Alternative Medicine)に組織改変され、より本格的な研究体制に移行しても、がんに効果のある代替医療はひとつも見つからなかった。 そして、通常医療の代替的役割が期待できないことが明らかになったため、「代替(alternative)」という言葉のつかない国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health)に改称されている。 結局、藁を調べてみても、所詮は藁に過ぎなかったのである。
権威あるJournal of the National Cancer Instituteに代替医療の効果を評価した論文が掲載されている。
JNCI: Journal of the National Cancer Institute, Volume 110, Issue 1, 10 August 2017, Pages 121–124
標準療法との比較では、精巣がんを除いて、代替医療の方が有意に劣っている。 精巣がんも、代替医療の方が優れていることを示してはいない。 残念ながら、無治療との比較はできていないので、代替医療に何らかの治療効果があるかどうかは不明である。 しかし、通常医療と比較して代替医療の方が確実に劣ることは示されている。 以上のことから、通常医療を代替医療に転換すると、がんの治療成績が大幅に低下することは確実である。
今村光一氏の書籍を鵜呑みにする前に科学的根拠をきちんと調べた方が良い。
- 代替療法(健康食品やサプリメント) - がん情報サービス
- 「健康食品」の素材情報データベース - 「健康食品」の安全性・有効性情報
- がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版) - 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会
- コクラン・レビュー・アブストラクト - 「統合医療」情報発信サイト
- 構造化抄録 - 「統合医療」情報発信サイト
- 厚生労働科学研究成果 - 「統合医療」情報発信サイト
- 補完代替医療 - PDQ®日本語版がん情報要約
これらに記載されていないようなものは、最近出てきたものや全く無名なものであろうから、当然、まともな実績などあろうはずもない。
著書
今村光一氏は、健康本だけでなく、オカルト本も多数出している。 どうやら、健康本よりもオカルト本の方が多いようである。 大量のオカルト本の執筆状況から見て、論理的思考力や科学的思考力に欠けていることは疑いようもない。 原典に書いてあることを歪曲(原典の単語のみを拾って全く違う文章に作り変えているのでほぼ完全な捏造である。歪曲と表現するのは生易しい)し、かつ、原典に書いてないことを大量に追加して、それを要約や抄訳と表現してしまう所は、日本語すら怪しすぎる。
まとめ
今村光一氏は、(日本人には)隠された情報があり、それが陰謀の存在を裏付けていると主張する。 しかし、今村光一氏は、どうやって、(日本人の)誰にもアクセスできないはずの情報を手に入れたのか。 CIAのエージェントならば、ともかく、今村光一氏は一介の健康食品評論家(というか、本業は健康食品業者)に過ぎない。 それなのに、どうして、そのような機密情報を今村光一氏は手に入れることができたのか。 逆に言えば、どうして、一介の健康食品評論家に手に入れられる情報が、他の人には手に入れられないのか。 普通に考えればおかしいと気づくだろう。
タネを明かせば、今村光一氏が陰謀論の根拠にしている情報は、一般公開されているので情報の在りかさえ知っていれば誰でもアクセスできる。 だから、情報の在りかを知っている人は、そこに陰謀論の根拠となることが何も書かれていないことを知っている。 しかし、その情報の在りかを知らない人が圧倒的に多い。 今村光一氏は、多数の人の無知を悪用して、その情報の内容を改変して(日本人には)隠された情報があると大ボラを吹いているのである。 そして、その改変は今村光一氏独自のものである。 さらに、第二の今村光一氏が登場しないので、嘘の欧米情報を流布するには、何十年も前のカビの生えた今村光一氏の著書等から情報を得るしかない。 結果として、世間に溢れる同様の情報は、全て、今村光一氏独自の嘘の劣化コピーばかりになる。 つまり、今村光一氏しか政府の極秘情報にアクセスできないのではなく、今村光一氏が嘘の発信元だから、同様の陰謀論の情報源をたどると全て今村光一氏に行き着くのである。
尚、今村氏の創作の流布に加担する人達は、1991年に出したこの本が原因で2003年に口封じのために今村氏が殺されたと主張する。 しかし、それならば、何故、1996年に類似本「がんの民間療法 効果と限界を検証 米国議会技術評価局(OTA)報告書から」(ISBN: 978-4-8222-9026-9)を出した帯津良一氏は殺されないのか。 2021年6月現在において、帯津三敬塾クリニック公式サイトにも氏が亡くなったとは書かれておらず、2021年9月8日の講演も予定されているので、存命中のようである。
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