がんの死亡率年次推移(治療の進歩)
日本のがんの死亡率と治療成績
OECDが公表しているWHOデータベースを情報源としたG7のがんの死亡率推移は次のとおりである。
This indicator presents data on deaths from cancer. There are more than 100 different types of cancers. For a large number of cancer types, the risk of developing the disease rises with age. Mortality rates are based on numbers of deaths registered in a country in a year divided by the size of the corresponding population. The rates have been directly age-standardised to the 2010 OECD population to remove variations arising from differences in age structures across countries and over time. The original source of the data is the WHO Mortality Database. This indicator is presented as a total and by gender. Cancer mortality is measured per 100 000 inhabitants (total), per 100 000 men and per 100 000 women.
この指標は、がんによる死亡に関するデータを表しています。 100種類以上のがんがあります。 多くの種類のがんでは、年齢とともに病気が発症するリスクが高くなります。 死亡率は、1年間に1人の国で登録された死亡数を、対応する人口の大きさで割ったものに基づいています。 国毎および経時的な年齢構成の差から生じる変動を取り除くために、レートは2010年のOECD人口に対して年齢調整されています。 データの情報源はWHO死亡率データベースです。 この指標は性別の合計によって示されています。 がんの死亡率は、人口10万人あたり(合計)、男性10万人あたり、および女性10万人あたりで測定されている。
以下は国立がん研究センターが公表しているデータである。
がんに関する統計データのダウンロード - 国立がん研究センターがん情報サービス
尚、両者のデータ値には若干の食い違いがあるが、これは補正する基準が違うからである。 OECDが公表している2010年のOECDの年齢構成を基準に補正しているのに対して、国立がん研究センターが公表しているデータ1985年の日本人の年齢構成を基準に補正している。
日本のがんの年齢調整死亡率は、1995年以降、順調に下がり続けており、日本のがんの治療成績の向上が読み取れる。 そして、年齢調整死亡率では他の疾病の克服による相対的な死亡率の増加を完全に取り除くことはできないので、実際にはグラフ以上に治療成績が向上していると予想される。
解説
2000年までのがんの粗死亡率の国際比較データを以下に示す。
がんの予防(日本老年医学会雑誌2006年43巻1号 62-64) - J-STAGE
がん粗死亡率では、1990頃からイギリスは明確な減少、米国は緩やかな減少、フランスは現状維持であるのに対して、日本は明確に上昇を続けている。 一方で、年齢調整死亡率では、日本は世界的にも死亡率が低く、かつ、明確な減少傾向が見て取れる。 しかし、粗死亡率では明確な逆転現象があるのに、年齢調整死亡率ではそうした傾向が見られないのは、よく考えれば妙な話である。 どこの国も1990頃までは粗死亡率が上昇しているのに対して、年齢調整死亡率ではほぼ横ばいになっている。 そして、1990頃以降、粗死亡率では、米国は緩やかな減少、フランスは現状維持であるのに、年齢調整死亡率では明確な減少がみられる。 どうしてこのような傾向が生じるのか。 実は、特定の疾病の粗死亡率は、他の疾病の治療成績の影響を受けてしまうのである。
- 寿命が伸びることによる年齢構成の変化の影響
- 他の疾病を併発した人の他の疾病での死亡率の影響
前者の影響は年齢調整により取り除くことが可能で、年齢調整死亡率で1995年以降は年々減少している。 そして、日本だけ年齢調整による死亡率の低下が突出していることは、他の国に比べて日本の高齢化が著しいことを示している。 これは、日本のがん以外の疾病の克服が世界的にも突出して進んでいるからだと予測できる。
日本の全死亡原因における粗死亡率の年次推移は次の通りとなっている。
男女別の疾患別粗死亡率は次の通りである。
変化率を比較しやすいよう、平成2年(1990年)を基準にして全死亡原因と悪性新生物(がん)の粗死亡率のグラフを重ね合わせてみる。
グラフを見ると、平成2年から平成27年までは、男性では全死亡原因に比べて悪性新生物の粗死亡率の増加率がかなり大きく、女性ではわずかながら悪性新生物の粗死亡率の増加率が大きい。 全体的には悪性新生物(がん)の比率が増えていることが見て取れる。 ようするに、他の疾病を克服した結果、相対的に悪性新生物(がん)の死亡率が上がっているのである。 悪性新生物(がん)の治療成績を評価するためには、その影響を取り除く必要がある。
- 寿命が伸びることによる年齢構成の変化の影響
- 他の疾病を併発した人の他の疾病での死亡率の影響
前者の影響は、がんの年齢階級別死亡率を見ると分かる。
がんに関する統計データのダウンロード - 国立がん研究センターがん情報サービス
がんの死亡率は年齢が上がるほど飛躍的に高くなる傾向がある。 そのため、寿命が伸びて、年齢構成が変化すると、その影響で粗死亡率も変化する。 尚、低年齢層ではがんの死亡率が年々下がっているのに対して、高年齢層では一度上がってから下がっている。 それにより、例えば、1960年は、75-79歳が死亡率のピークになり、それ以上の年齢層では逆に高齢になるほど死亡率が下がる。 これは、高齢になるほど発症確率が上がるがんの基本的性質とは一致しない。 一方で、1990年以降は、高齢になるほど死亡率が順次上がっているため、がんの基本的性質と一致している。
がんに関する統計データのダウンロード - 国立がん研究センターがん情報サービス
この疑問を解消するには、高年齢層ほど他の疾病での死亡率の底打ち時期が遅いと考える他ない。 つまり、低年齢層では、1960年の時点で他の疾病での死亡率が既に底打ちしているため、がんの治療成績の向上によって死亡率が年々下がる。 一方で、高年齢層では、最初は他の疾病での死亡率の低下の影響を受けて相対的にがんの死亡率が上がり、その後、他の疾病での死亡率が底打ちするとがんの治療成績の向上の影響の方が大きくなるのである。 その結果、年齢構成の変化の影響だけを補正しても、他の疾病の克服による相対的な死亡率の増加を完全に取り除くことはできない。
日本のがんの罹患率と治療成績
尚、3県のみのデータであるので今ひとつであるが、年齢調整罹患率は次のようになっている。
がんに関する統計データのダウンロード - 国立がん研究センターがん情報サービス
年齢調整されたデータであるのに、何故か、罹患率は年々上がっている。 この原因として次のようなものが考えられる。
- 発見の早期化(発見が早期化しても真の罹患率は変化しないが、罹患率の測定値は上がる)
- 治癒率の低下(治癒率が上がると、罹患者が減って非罹患者が増えるから、罹患率は下がる)
- 延命期間の増加(延命期間が増加すると、罹患したままでの生存期間が増えるから、罹患者が増える)
発見の早期化は、新しい診断法の導入等につれて段階的に上がると考えられるので、じわじわと上がる原因とは考えにくい。 また、治療技術の後退がなければ治癒率の低下も考えにくい。 年齢調整死亡が下がっていることも、治癒率の低下とは矛盾する。 よって、年齢調整罹患率の増加は延命期間の増加によるものと推定される。
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