東洋医学(非西洋医学)の言い訳
概要
非西洋医学においては、科学的根拠がないことへの言い訳が為されることがある。 しかし、いずれの言い訳も全く成立していない。
個別化治療
例えば、中医学では西洋医学的病名が同じでも「証」が違えば治療法も違うといったことを口実に、臨床試験が出来ないと言う者がいる。
伝統医療がRCTに向かない理由の一つとして、個別化治療である(同病異治・異病同治)ことが挙げられている。 たとえば、風邪にある漢方薬の効果を評価したいとする。 「風邪の患者の集団は均一ではなく、それぞれの証に合わせて異なる漢方薬が選択される。 RCTを行っても治療群に証の合わない患者が多数混じるため有意差を検出しにくい」と言いたいのであろう。
しかし、これは全くもって事実無根である。
- 個別化治療(「同病異治」および「異病同治」)は西洋医学では当たり前である。
- 西洋医学では「同病異治」でも臨床試験を実施している。
西洋医学においても、病名だけで治療法が決まるわけではない。
「普通の医療機関で提供されている標準医療(「西洋医学」による医療)は、個人差を考慮しない、いわば既製服のような医療であるのに対し、代替医療(統合医療/補完医療)は、個々に応じたオーダーメイドの医療である」という誤解をしばしば散見する。 たとえば、こんな感じ。
同じ病名の人に同じ薬を与えるのが通常医療、一人一人に合った違うレメディを与えるのが補完療法。
同じ病名の人には同じ薬を与えればいいのであれば、医師にとってこんなに楽なことはない。 実際には、同じ病名であっても、病態や進行度や患者背景によって、治療法は異なる。 たとえば、「肺癌」という病名であっても、小さいうちに発見された肺癌と、既に転移している肺癌で、治療法が異なることは、医療従事者でなくても容易に推測できるだろう。 進行度が同じでも、余病がなく元気な人なら手術できても、慢性閉塞性肺疾患を患っていれば手術できないこともある。 抗癌剤の選択も、肺癌の組織型によって異なる。さらに、診断や治療法の進歩によって取りうる選択肢はどんどん増えている。
ごちゃごちゃしているが、要するに、患者さんごとに治療法を変えるのは標準医療でも普通だってこと。 さらに言うなら、ここで挙げた、ウイルスのタイプ、量、治療反応性以外も治療法の選択の際に考慮すべき因子はたくさんある。 C型慢性肝炎治療ガイドラインには、「Ribavirin併用療法を行う場合には治療効果に寄与するホスト側の因子である、年齢、性別、肝疾患進行度、 IL-28のSNPおよび、ウイルス側の因子である遺伝子(Core領域70,91の置換,ISDR変異)、Real time PCR法によるウイルス量などを参考にし、治療法を選択することが望ましい」とある。 もうすでに、慢性C型肝炎に対する標準医療は、オーダーメイド治療と言っていいと思うんだけど。
抗がん剤の選択は「組織型」だけで行なわれるわけではなく、患者に応じてきめ細かく治療法を選択する。 風邪にも沢山の治療薬があり、どの薬を処方するからは、医師が患者を診察して決める。
そして、西洋医学では「同病異治」でも臨床試験を実施している。 たとえば、最近話題になったイレッサでも、病名だけを条件にするのではなく、EGFR遺伝子変異があることを条件に加えて臨床試験を行なった。 だから、非西洋医学においても「同病異治」は臨床試験を実施できない理由にならない。 中医学であれば同一の「証」の患者を対象にして臨床試験を実施すれば良いだけである。
だったら(たとえば)麻黄湯が効くと思われる証の患者のみ選んでからRCTを行えばいいと私には思えるのだがどうか。 あるいは、風邪の患者をランダムに「伝統医学」群と通常治療群に分け、「伝統医学」群で思う存分個別化治療を行い、通常治療群と比較するという方法もあるだろう。 ちなみに伝統医学に限らず、通常医療においても、風邪に対して一律に同じ処方するのではなく、症状に合った処方を行う。 代替医療や伝統医学は個別化治療で標準医療はそうでない、という主張は誤解の産物だと私は考える。 (■標準医療は画一的で、代替医療は個別的という誤解を参照)。
「統合医療は個別化治療だからRCTに向かない」とは言えない。 実際に、漢方でも鍼でもホメオパシーでもRCTはなされている。 個別化治療をRCT免除の言い訳にする主張には警戒が必要だ。効果がないか小さいがゆえにRCTで効果を検出できないだけなのに、個別化治療を免罪符としてごまかしているのかもしれない。
以上のとおり、個別化治療(「同病異治」および「異病同治」)であることは臨床試験が出来ない理由とならない。
自覚症状
効果判定法として自覚症状のみであっても臨床試験は可能である。 そのために二重盲検法というやり方がある。
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