独自基準の丸山ワクチン研究

これは丸山ワクチンの真相の一部である。

独自研究 

「丸山らがまとめてきたデータ」 

1966年7月。丸山は、「結核菌体抽出物質による悪性腫瘍の治療について」というガン免疫療法の臨床報告をした。

日本テレビ「ザ!世界仰天ニュース 国が認めない丸山ワクチンの謎」

「『結核菌体抽出物質による悪性腫瘍の治療について』というガン免疫療法の臨床報告」は日本医科大学のローカルな日本医科大学雑誌に掲載されたものである。

効果判定の基準:他覚的所見の改善として,(1)腫瘤の縮小および消失,(2)腹水(胸水)の減退,(3)延命効果,(4)その他,の4項目. 自覚症状の改善として,(1)食欲の増進,(2)疹痛の緩解,(3)その他,の3項目を設けたが, とくに他覚的所見に重点をおき効果ありと判定するには,他覚的所見の改善をみたものが少なくとも1項目あることを必須条件とし, 他覚的所見改善+自覚症状改善が3項目以上のものを著効,2項目以下を有効とした. なお,他覚的所見に改善を認めない場合は,たとえ自覚症状が改善されていても一応無効としてとり扱った.

延命効果の判定:肺癌については,金田22)の判定基準(平均生存期間)にしたがった. また胃癌,食道癌,腸癌,肝癌,胆道癌,膵癌などの消化器癌については,山形21)の発症後の平均生存期間を基準にして効果を判定した.

結核菌体抽出物質による悪性腫瘍の治療について - 日本医科大学雑誌1971年38巻5号p.267-276

効果 症例
「著効」76
「有効」165
「無効」182

結核菌体抽出物質による悪性腫瘍の治療について - 日本医科大学雑誌1971年38巻5号p.267-276

「他覚的所見の改善」の効果判定基準が非常に曖昧である。

  • 「腫瘤の縮小」の具体的判定方法が不明
  • 「腹水(胸水)の減退」の具体的判定方法が不明
  • 「平均生存期間を基準」にした「延命効果」は意味不明
  • 「その他」は何をどう判定するのか全く示されていない

「平均生存期間を基準」にすれば、何の治療効果がなくても約半数は「(3)延命効果」があることになる。 すなわち、何の治療効果がなくても約半数は「他覚的所見の改善をみたものが少なくとも1項目ある」を満足してしまう。 「他覚的所見の改善をみたものが少なくとも1項目ある」で、かつ、「他覚的所見改善+自覚症状改善が」「2項目以下を有効」とするならば、「(3)延命効果」が認められるだけで有効判定となる。 よって、何の治療効果がなくても約半数は「有効」例となってしまう。 「その他」の不明確さや、「腫瘤の縮小」や「腹水(胸水)の減退」の判定方法の不明確さによっても、「有効」例は上積みされる余地がある。

医師や患者に治療していることを知らせずに試験することは不可能であるため、思い込みで「自覚症状の改善」があったと申告される事例が多数あることが予想される。 よって、「他覚的所見の改善をみたものが少なくとも1項目ある」で、かつ、「他覚的所見改善+自覚症状改善が3項目以上のものを著効」とすれば、何の治療効果がなくても一定程度の「著効」例が見込めてしまう。

以上踏まえると、「著効」+「有効」は約57%であるから、これは、何の治療効果がなくても十分に達成できる数値だろう。 「著効」の約18%も同様である。

よって、「丸山らがまとめてきたデータ」がこの類のデータであるなら、丸山ワクチンの効果を証明したとは到底言えない。

梅原誠一国立熱海病院第一外科医長の独自研究(第094回国会 衆議院 社会労働委員会 第20号) 

○梅原参考人 初めに、参考資料を提出いたしました。よろしゅうございますか。――配っていただきます。

身分のことについて一言申し上げます。七月一日付で第一外科医長に配置がえを受けましたが、六月三十日までは第二外科医長でありましたから、まさしく私は梅原誠一でございます。

話しなれないものですから、用意しました原稿を読ませていただきたいと思います。

私のSSM使用症例は、社会保険中央総合病院における二百西十一例と国立熱海病院における百七十五例であり、総計四百十六例に達しております。

私が厚生省中央薬事審議会に報告書を提出しましたのは昭和五十一年のことであり、まだSSMの、丸山ワクチンのことですがそう呼びます、 構成成分すら明らかにされていない時代でありました炉、すでにこのような報告書に対照例のないこと、効果判定基準をがんこなまでに昭和四十二年外科学会発表当時に用いた独自のものとしたことの二点で、 審議会から見れば無価値に近いものであろうことは私自身が予測しておりました。 しかしこの時点では、他施設による臨床治験例は少ないことから、第一次申請の旗上げ的な役割りと考えて、社会保険中央総合病院の症例のうち完全な手術のできなかった症例、 非治癒切除例と申します手術の全くできなかった症例、たとえば試験開腹に終わった症例及び再発例の百七十四例をまとめて報告書を作成いたしました。

効果判定基準として学会提唱の基準を用いなかった理由は、延命効果を主とするSSMの効果を制定するには、腫瘍の縮小を目安とする化学療法剤の効果判定基準は不適当であると考えたからであり、また、常に手術との併用にこそこのSSMの効果を期待し得ると主張しております私が、手術例について報告しなかった理由は、これこそ厳密な対照治験で物を言うべきことであり……


効果判定基準として学会提唱の基準を用いなかった理由は、延命効果を主とするSSMの効果を判定するには、腫瘍の縮小を目安とする化学療法剤の効果判定基準は不適当であると考えたかちであり、 また、常に手術との併用にこそこのSSMの効果を期待し得ると主張しております私が、手術例について報告しなかった理由は、これこそ厳密な対照治験で物を言うべきことであり、 一般病院に勤務する私には、症例数の点でも、救いを求めて来院される患者さんたちの要望から考えても不可能なことであり、後に専門施設に依頼すべきものであると考えたかちであります。

さて、私の第一次申請用報告書について申し上げますと、その極値は、刻々と死に近づく闘病生活の途上で患者さんたちが残していってくださったデータの写真集にあるものと思います。 写真は事実の記録であり、絵のように作成されるものではありません。

私の報告した症例の大部分は、一時好転を示した症例でも、死亡いたしましたが、延命効果を主として判定した有効率は、化学療法剤マイトマイシン併用例を含む全症例で四四%約半数を占めるSSM単独療法で三五%であります。マイトマイシンの投与法は、原則として二十ミリグラムをただ一回だけ静脈注射をするものであり、これは現在の化学療法から見ればかなり微量なものと考えます。

私の言うやや有効例は主観的なものであるとされることが多いと思いますので、これを無効例に入れてもこの成績があるのでありますが、 この主張の根拠として私の写真集が役立つと思われますので、わずかな部数でありますが、この委員会に提出いたしました。 委員長に御承認いただければ配付していただきたいと思います。 私以外の参考人として出席されている諸先生にもお渡し願えれば幸いであります。

私は、すでに述べました理由で、現時点における審査の対象はしっかりした基礎実験の成績であり、また厳密な対照例をとった臨床治験成績であるものと考え、 私の報告書はとうの昔に廃棄されているものと思っておりましたが、今回この委員会に出頭するに当たり、本会に提出する目的で私の報告書の残部を取り寄せて、驚きました。

第一に、今回の審査対象にこの報告書も含まれていたことであり、第二には、貴重な私の症例の写真が、粗悪な印刷により私の手元に残しておいた写真貼付による第一次報告書のものとは似ても似つかぬしろものになっていたことであります。

この報告書により桜井先生に効果判定をお願いしたのだとすれば、無効判定を下されたことに異論を唱えるわけにはいきません。 症例報告の文章は幾らでも作文できるものであり、写真が不鮮明であり文章しか当てにならない場合は、否定されてもいたし方がないからであります。

本日の報告書には、私の病院の複写機によるコピーと、急遽私のスライドからプリントした写真を貼付してあるわけでありますが、よりはっきり治療効果を読み取っていただけるものと思います。

私は、昭和五十四年十月、第三十四回国立病院療養所医学会総会におけるがん免疫療法の臨床というシンポジウムで、国立熱海病院の症例七十六例について報告いたしましたが、 この報告では、やはり腫瘤縮小を目安としてはいても、比較的SSMの効果判定に応用し得るカルノフスキーの判定基準を用いて判定を試み、四〇%の有効例を得ております。 しかし、ここでも学会報告では余り耳にしない薬効第II群、すなわち腫瘍の発育がとまりあるいは遅くなり、患者は生存するというグループが二八%を占め、SSMの延命効果を主とする薬効の特徴を示しました。

委員長、別にここへコピーをとって配付していただきたいものをお渡ししてありますが、よろしかったら配付してください。

私は、昭和五十三年以来、事情が許す限り術前投与の後に手術標本を検討することに努め、また、やむを得ない併発症のために再手術を行った症例の転移巣などの検討を行って、 SSMの効果を探索してまいりましたが、著効を認めた標本の顕微鏡写真を第一次報告書の最後に貼付してありますので、ごらんいただきたいと存じます。 これは国立病院療養所医学会総会に提示したものでありますが、卵巣がん再発により腸通過障害を来し、よその病院で化学療法剤フトラフール六〇〇ミリグラムを六カ月投与された後、私の症例となった七十八歳の患者さんであります。 免疫力を障害しないとされているフトラフールを継続したままSSMの併用を開始、さらに八カ月後に皮下脂肪組織内の転移巣を切除したものであります。

最後の写真をごらんください。がん細胞は化学療法剤の影響を受けたようには見えません。がん細胞付近にリンパ球と思われる細胞が攻め込んでおり、しかも戦いの跡は瘢痕化しております。

現在、各施設による基礎実験でSSMの作用機序は各段階で解明されておりますが、この写真は、それらの各段階を介しての最後の像を示しているものと思われますし、 また私の第一次報告書の著効例が示した臨床データの写真の変化を理解するのに大いに役立つものと考えます。

現在までのところ、がんの自然退縮例の頻度は八万ないし十万例に一例とされております。私が報告した百七十四例の中の著効例、十一例だけをとってみても、 腫瘍効果を示した症例はもちろん、きわめて異常な状態に陥りながら延命した症例の頻度は高く、しかもこのうちの三例は現在まで十年以上生存中であります。

不幸にして私は自験例を持ちませんが、すでに市販されている他の免疫療法剤による治療症例と比較していただいても、決して遜色はないものと確信しております。

多くの偉大な研究の発端は、単なる事実である事例は数多くありますが、私は治験第一例の効果に驚いて、臨床経験わずか六年余の若輩であった私の願いを許してくださった社会保険中央総合病院の外科で治験を始め、 現在に及んでおります。しかし、私自身はその効果を解明するための実験は全く行わずに症例を重ねるだけでありました。

SSMの基礎実験では、周知のごとくすでに多くの成果が発表されるに至り、また臨床的には、東海地区SSM研究班の治験のように、 学会の約束に従った上での研究で外科的な立場からその有効性が確認された現在、私は世間にうそをつかずに済んだと安堵しているところであります。

委員長、東海地区のデータを、先ほど桜井先生が症例が少ないとおっしゃいましたが、これもコピーをとって配付していただきたいと思いますが、よろしゅうございますか。

多くの医師がSSM使用依頼の申し出をその意に反して受ける場合は、現代医学の限界を、当面する患者さんに関して告知する場合ではないかと想像されます。 これはたとえば手術したってこのぐらいだよというようなお話をしてしまうと、手術するならSSMの方がよかろうと希望するのではないかと想像されます。

私は当初マスコミに発表された、昭和四十一、二年のころでございましたが、発表された当時を除いて、患者家族にSSM使用を希望されたことはほとんどありませんし、 また可能と考えてお勧めする手術を拒否された経験もありません。私自身が治療方針を立て、SSM併用の許可を得て治療に当たり、トラブルもありません。 手術不能例にはもちろん使用しておりますが、患者さんの苦痛をやわらげることに役立っているからこそ、それが実績となって、次の症例の家族がまた治験を承諾してくれるものと考えております。 日本医大の研究施設に集まる症例もまた同様であろうと思われます。昭和五十一年に丸山先生が出された御本、単行本ですね、あれには私自身が強い困惑を感じました。 あれを読んだ結果と思われますが、手術をきらって不幸な運命をたどった症例を私自身も二、三例は知っております。しかし過去十六年にわたって日本医大に集まる患者さんたちが、すべて無知なるがゆえに列をなすものとは考えられません。 やはり実績によりその数を増すものと思われます。 このことは過去に話題になってやがて消え去った公認、非公認を問わない多くの薬剤のことを考えれば、明らかなことであります。 効いているからこそあそこに集まるんだと思います。

私は一刻も早くこのSSMがごく自然に臨床医の手に入るようになり、その上で各臨床医が自分の治療手段に組み込むか否かを自由に選択できる状態が実現することを強く希望いたします。 そうした段階になってこそ、さらにより正しいSSMの評価がなし得るものと信じております。

第094回国会 衆議院 社会労働委員会 第20号

梅原参考人の主張は、インチキ“治療”法で良く見られるようなお手盛りの独自基準での効果判定であり、丸山ワクチンの有効性を示しているとは言い難い。 このような独自基準での効果判定を用いれば、どんなインチキ“治療”法でも効くことになってしまう。

  • 「私が厚生省中央薬事審議会に」「提出しました」「昭和五十一年」の報告書
    • 「審議会から見れば無価値に近いものであろうことは私自身が予測しておりました」
      • 「報告書に対照例のない」(対照例がなければ延命効果を測ることは不可能)
      • 「効果判定基準を昭和四十二年外科学会発表当時に用いた独自のもの」(「効果判定基準として学会提唱の基準を用いなかった」)
    • 何をもって「延命効果」と見做したのか、何を「有効率」とするのか意味不明
      • 「腫瘍の縮小を目安とする化学療法剤の効果判定基準は不適当であると考えた」
      • 「延命効果を主として判定した有効率」(本当に延命効果を測っているなら「有効率」という数字は出てこないはず)
      • 「私の言うやや有効例は主観的なものであるとされることが多い」と自認している(客観性のある延命効果を計っているならあり得ない)
      • 「主張の根拠として私の写真集が役立つ」、「写真」から「治療効果を読み取っていただけるものと思います」
        • 写真から「腫瘍の縮小」効果を読み取ることは可能だが、「腫瘍の縮小を目安とする化学療法剤の効果判定基準」は「用いなかった」と本人が主張している
        • 写真から延命効果を読み取ることは原理的に不可能
    • 「化学療法剤マイトマイシン併用例を含む」ので、仮に何らかの効果があったとしてもマイトマイシンの効果との区別がつかない
  • 「シンポジウムで、国立熱海病院の症例七十六例について報告」
    • 「カルノフスキーの判定基準を用いて判定を試み、四〇%の有効例を得ております」
      • 「カルノフスキーの判定基準」がKarnofsky PSのことなら、これは患者の活動能力を主観的に判定したものであって延命効果とは全く別物
      • Karnofsky PSは国際的基準では患者の層別分類に用いるものであって効果判定基準ではない
        • 一般的な抗がん剤は全身状態が悪い患者に使うと逆効果になることから、抗がん剤を投与すべきかどうかの指標としてKarnofsky PSを利用する
      • 主観的な判定であり、かつ、化学療法剤も併用していることから、患者の状態の改善が「四〇%」は特別な数値ではない
    • 「学会報告では余り耳にしない」とする独自基準「薬効第II群」=「腫瘍の発育がとまりあるいは遅くなり、患者は生存するというグループ」が「二八%を占め、SSMの延命効果を主とする薬効の特徴を示しました」
      • 「腫瘍の発育が」「遅くなり」が何を基準に測ったのか不明確(比較対象を設けて統計的に測定することは可能だが、比較対象なしに測ることは不可能)
      • がんに罹患しても一定期間は「患者は生存する」のだから、それが「二八%を占め」たことをもって「延命効果を主とする薬効の特徴を示しました」とは到底言えない
  • 「著効を認めた標本の顕微鏡写真」
    • 「化学療法剤」「フトラフールを継続したままSSMの併用を開始、さらに八カ月後に皮下脂肪組織内の転移巣を切除した」事例
      • 「がん細胞は化学療法剤の影響を受けたようには見えません」は主観であり根拠に欠く
  • 「私が報告した百七十四例」
    • 「がんの自然退縮例の頻度は八万ないし十万例に一例」
    • 「著効例、十一例」「腫瘍効果を示した症例」(併用療法を含むのであれば、むしろ、奏効率6.3%はかなり低い)
    • 「きわめて異常な状態に陥りながら延命した症例の頻度は高く」(比較対象なしに「延命した」かどうか測ることは不可能)
    • 「このうちの三例は現在まで十年以上生存中」(10年生存率が1.7%であることは特別な数値ではない)
  • 「過去十六年にわたって日本医大に集まる患者さんたちが、すべて無知なるがゆえに列をなすものとは考えられません」「効いているからこそあそこに集まるんだと思います」は全く何の根拠もない主観論

梅原参考人は、「粗悪な印刷」「により桜井先生に効果判定をお願いしたのだとすれば、無効判定を下されたことに異論を唱えるわけにはいきません」と全く見当違いのことを言っている。 梅原参考人の出したデータは、丸山ワクチンの効果を全く証明しておらず、それと「写真が不鮮明」であるかどうかは全く関係がない。 仮に、「写真が不鮮明」であることが効果も不鮮明にしているのであれば、鮮明な写真の再提出が求められるであろう。 鮮明な写真の再提出が求められなかったのは、写真を鮮明しても何ら効果の証拠にならないからである。

この科学的説明が全く理解できないのであれば、敗者復活戦が設けられた事実に着目すればよかろう。 敗者復活戦まで新規に設けたという事実こそが、丸山ワクチンの審査に不正がなかったことを示す決定的な証拠である(丸山ワクチン関連国会議事録参照)。

新村秀一成蹊大学経済学部教授による“データマイニング” 

医学関係学術団体の専門誌に掲載された新村氏による丸山ワクチンの論文は一般社団法人日本医療情報学会(JAMI)の雑誌に掲載された SSM(人型結核菌体抽質物質、丸山ワクチン)の癌治療における帰無仮説モデルによる評価 のみである。 1987年当時は医学における比較臨床試験の実績があまりなく、この手の後ろ向き解析の価値が高く評価されていたのかもしれない。 しかし、その内容をアップデートした2000年の 丸山ワクチン投与15万症例の分析 は、学術団体の雑誌には掲載されていない。 これは「データマイニングシンポジウム論文集」に掲載されたものらしい。 その「データマイニングシンポジウム」であるが、2000年10月31日に国立オリンピック記念青少年総合センターで開催されたようであるが、主催団体等は不明である。 著名な学術団体が行なったシンポジウムであれば大抵は公表されているはずであるが、何故か、「データマイニングシンポジウム」を行ったことをどこの学術団体も公表していない。 中部大学人文学部心理学科松井孝雄教授のメーリングリストで、委員長が新村氏自身であることのみがわかる。 自身が委員長を務めたシンポジウムで自身の研究を発表しているなら、これは非常に手前味噌臭い。 この論文の内容は後で詳細に検証する。

丸山ワクチン15万症例のデータマイニング はオペレーションズ・リサーチ学会や日本行動計量学会の雑誌に掲載されている。 オペレーションズ・リサーチは、計画の意思決定に統計手法を利用するものであり、主に、 企業経営や行政における具体的な問題への手法の活用を図る 日本オペレーションズ・リサーチ学会概要 ことに利用されている。 日本行動計量学会は 人間の行動に関する計量的方法の開発と,そのさまざまな分野への適用について研究すること,計量的方法の普及ならびに研究者相互の連絡・協力を促進すること,研究成果を社会に還元すること 日本行動計量学会概要 を目的とした団体である。 いずれの団体も医学関係学術団体ではない。 医学的成果であるなら、何故、医学関係学術団体の雑誌に投稿しないのか意図がわからない。 尚、この論文で「外来最終日までの生存」を「生存日数」としていることの問題点は後で説明するが、結論は「決定木での分類で,長期生存例を良く分類できることが分かった」ということだけであり、丸山ワクチンの効果の有無については言及していない。

丸山ワクチン15万症例の決定木による分析 は日本計算機統計学会の雑誌に掲載されている。 日本計算機統計学会は計算機統計学の進歩・発展を図る 日本計算機統計学会の概要 団体であって医学関係学術団体ではない。 医学的成果であるなら、何故、医学関係学術団体の雑誌に投稿しないのか意図がわからない。 この論文も「外来最終日までの日数」を「死亡までの日数」としているが、その問題点は後で説明する。 当然、「比較的症例数の多い診断グループにおいて投与から外来最終までの生存日数が,早期のSSM投与やSSM開始時期と関係することが分かった」などとする結論が導けないこと言うまでもない。 ただし、査読が入っているせいか、「分類されたグループの順位の逆転や,医学常識に合わないことが起きているかの検討をこれから詳細に実施する予定」「今回の分析を通して,データマイニングの問題点も指摘したい」と多少は控えめな論調になっている。

新村氏の分析は、データの定性的な信頼性判定がゴッソリ抜け落ちているため、分析結果は全く信頼性に欠ける。 しかし、それ以外の定量的分析部分については統計学としては十分に参考になる手法であろう。 以上を踏まえると、医学における比較臨床試験が多数行われるようになった今日では、新村氏の分析結果の信頼性があまりに低過ぎて、医学関係学術団体からは相手にされなくなったのではないかと推察される。 一方で、医学以外の分野では、費用対効果等の関係から厳密な手法に基づいたデータを採れないことが多く、新村氏の分析手法のうち定量的解析手法は採用せざるを得ないのではないだろうか。 医学関係団体と非医学関係団体の温度差は、そのような実情の差から説明できる。

「丸山ワクチンは副作用のない水のようなものであると認めましょう。 そして、手術後1年以内に投与開始した患者さんを、3ヶ月単位で4群に分け、それらの生存時間の平均値に差があるか否かを調べましょう。 もし水であれば差がなく、早く投与した患者群の生存期間が長ければ、水であるという帰無仮説を棄却できます」ということで研究を始めました。

第3回 SASのミニコン版代理店とシステムインテグレータとしての事業展開 -

「手術後1年以内に投与開始した患者さんを、3ヶ月単位で4群に分け、それらの生存時間の平均値に差があるか否かを調べましょう」は、何故「3ヶ月単位で4群に分け」なければならないのか全く意味不明である。 丸山ワクチンの効果を証明したいなら無増悪生存期間のデータを取れば済む。 丸山ワクチンはがんを縮小しないが増殖を抑えると主張されているのだから、無増悪生存期間のデータを取れない理由はないし、倫理的問題も克服できる。 それなのに、何故、「4群に分け」るなどというややこしいことをしなければならないのか。 ここでは、「4群に分け」ることが無作為に行われたかどうかも、「そして術後3カ月以内に投与した群の生存時間が9か月以降1年以内に投与した患者群の平均余命より平均が長い」に統計的な有意差があったのかも記載されていない。

そして術後3カ月以内に投与した群の生存時間が9か月以降1年以内に投与した患者群の平均余命より平均が長いことが分かりました。

第3回 SASのミニコン版代理店とシステムインテグレータとしての事業展開 -

新村氏はこのように主張するが、 丸山ワクチン投与15万症例の分析 を詳細に検証すると、対象としたデータからは「平均余命」を論じることが不可能だという結論にしかなり得ない。

SSMの効果に関しては,これまで東北大学の後藤ら(1983)による二重盲検法による研究が代表的である. しかし,予後の厳しい膵癌の長期生存例があることに対して,診断ミスであるというような日本の医療水準そのものを疑うような後解釈や判断が行われ,正式に認定されなかった.

丸山ワクチン投与15万症例の分析 P.9

第094回国会 衆議院 社会労働委員会 第20号を読めば「日本の医療水準そのものを疑うような後解釈や判断」が行われていないことは明らかである。 「予後の厳しい膵癌の長期生存例」が審査において問題とされたのは、組織診断結果が提出されていなかったからである。 「予後の厳しい膵癌」の「長期生存例」は、治療の劇的な効果である可能性だけでなく統計誤差や「診断ミス」の可能性も十分に考えられる。 そして、組織診断を適切に行なっていないなら「診断ミス」の可能性がかなり高いことは言うまでもない。 統計誤差は適切な統計処理により取り除かれると期待されるので、治療効果によるものであると考えるためには、「診断ミス」の可能性が極めて低いことを証明しなければならない。 だから、「診断ミスである」疑いを払拭できなければ効果の証明とならないのは当然である。 それは「日本の医療水準そのものを疑うような後解釈」ではない。 そして、組織診断結果が提出された後は「特別部会の段階でこれをがんとして訂正をいたしました」と証言されているように、「長期生存例」は「予後の厳しい膵癌」であると認定されている。 ただし、これは1例に過ぎないので統計誤差の可能性も十分に考えられる。

「東北大学の後藤ら(1983)による二重盲検法による研究」が効果の証拠として認定されなかったのは、「長期生存例」が「予後の厳しい膵癌」であると認定されなかったからではない。 丸山ワクチン関連国会議事録にて、「東北大学の後藤ら(1983)による二重盲検法による研究」が効果の証拠として認定されなかった理由が明確に説明されている(丸山ワクチンの効果参照)。

  • 「大部分」を占める胃がんについては、「後藤教授の申請書を拝見しますと、胃がんでは差はないという結論が申請書に書いてございました」
  • 胃がん以外の症例は少数過ぎて「あの数で、数だけの問題ではありませんけれども、あの実験のデザインの範囲では効くということは言えない」
  • 全体で見ると「統計的には有意である」が以上2点から層(がんの大分類、小分類、病期、治療歴等)のバラツキにより生じた見かけ上の有意差の可能性が高い

「胃がんでは差はない」のであれば、胃がんには効果がないということである。 胃がんには効果がないなら、全体での有意差は胃がん以外の症例によって生じていることになる。 そして、胃がんが「大部分」を占めるのであれば、胃がん以外の症例は少数である。 少数症例によって生じた差は、誤差による差なのか、真の差なのか区別がつかない。 全体で有意差が生じているので少数症例の差が非常に大きいように思えるが、その少数症例の平均的予後が「大部分」の症例と違う場合は、その少数症例のランダム誤差でも十分に全体での有意差を生じさせ得る。 ようするに、「あの実験のデザイン」では、個々の層には有意差がなくても、全体での見かけ上の有意差が生じ得るのである。 他の医薬品においても、比較臨床試験を行う場合は、単一の層のみの試験を無作為化ルールで行う。

だから、層(がんの大分類、小分類、病期、治療歴等)別に統計を見ることが科学的に妥当なのである。 「後藤教授の申請書」においても、最も多い症例の「胃がんでは差はないという結論が申請書に書いてございました」ということであるので、この臨床試験では胃がんにおける効果の証明に失敗している。 他の症例は少数過ぎて「あの数で、数だけの問題ではありませんけれども、あの実験のデザインの範囲では効くということは言えない」。 がんの治療薬に比較臨床試験を行った実績がない当時としては、良くやった方であるとは言えるのだろうが、薬効の科学的証拠としては全く足りていない。

以上が理解できないなら統計の専門家として失格であろう。

日本医科大学付属病院ワクチン療法研究施設(略して,丸山ワクチン研究施設)では,1964年からSSM(人型結核菌体抽出物質,略称丸山ワクチン)によるがん治療をはじめ,1979年からSSMの治験患者をコンピュータに登録している. 新村・飯田・丸山(1987)では,1985年7月までに登録された118,301症例を用いた成果を発表している.

今回の研究では,2000年9月までに登録された152,989症例のデータを分析し,SSM投与の効果を投与後の生存日数で判定した結果を報告する.

丸山ワクチン投与15万症例の分析 P.1

ようするに、新規に臨床試験を行わずに、既にあるデータを解析しようをするから、「4群に分け」るなどという訳のわからない解析をする必要が生じたのである。 であれば、当然、「4群に分け」ることは無作為に行われていない。

このように、既にあるデータを後ろ向きに解析する場合は、対象となるデータが解析に耐えるものであるかを検証する必要がある。 後で詳しく解析するが、「投与後の生存日数」は実際の生存日数とかけ離れた値となっていて、統計的には全く意味のない解析となっている。

丸山ワクチン投与は,一般的には患者または家族が希望し,主治医がこれを承認し,丸山ワクチン研究施設へ「治験許諾書」を提出することから始まる. 初回に丸山ワクチン研究施設を訪問しガイダンスを受けて,40日分(1クールと呼ぶ)の丸山ワクチンを受け取る. そして,主治医の記入した「SSM治験登録書」と「SSM臨床成績経過書」が,次回以降のSSMの受け渡し時に送られてくる.

丸山ワクチン投与15万症例の分析 P.7,8

「初回に丸山ワクチン研究施設を訪問」して「ガイダンスを受けて,40日分(1クールと呼ぶ)の丸山ワクチンを受け取る」のは「一般的には患者または家族」である。 そして、「次回以降のSSMの受け渡し」を行い「主治医の記入した『SSM治験登録書』と『SSM臨床成績経過書』」を引き渡すのも「一般的には患者または家族」である。 つまり、個々の被験者のデータを確実に登録するための責任者が不在であり、個々の被験者のデータが丸山ワクチン研究施設に届けられるかどうかは何ら責任を課せられていない「患者または家族」次第となっている。 これでは、まともなデータ収集など期待できない。

医学データで、これほど多数の症例を集めたデータベースは稀である. しかし,医薬品に関しては,その薬効を示すには,「二重盲検法」などの厳密なプロトコルにのっとって集められたデータ以外,解析に絶えない「くず」のデータとする風潮がある.


すなわち,15万人以上の癌患者の貴重なデータから,何も学ばないとしたら,統計学が時代の支持を失っていくだけだろう.


医薬品の認可や,介護保険のように多くの人の幸不幸にかかわる場合は,扱うデータや解析にも万全の注意を払う必要がある. 他方,今回のような15万人以上の癌患者の貴重なデータから,そこの含まれる情報を十二分に抽出し,今後の役に立てることも重要である.

丸山ワクチン投与15万症例の分析 P.8

「『二重盲検法』などの厳密なプロトコルにのっとって集められたデータ以外,解析に絶えない『くず』のデータとする風潮」とは、一体、どこにあるのか。 有名な坪野吉孝氏の「健康情報の信頼性を評価するためのフローチャート」でも、医学データはその信頼性に応じた評価が為されている。 厳密さに欠いてもある程度の精度が担保されていれば、「解析に絶えない『くず』のデータ」とは扱われず、参考情報として活用される。

後で詳細に説明するが、「2000年9月までに登録された152,989症例のデータ」は、「解析に絶えない『くず』のデータ」である。 その理由は「『二重盲検法』などの厳密なプロトコルにのっとって集められたデータ」ではないからではなく、基本的に統計データとしての体を成していないからである。 それでは、「15万人以上の癌患者」の情報であっても、全く「貴重」とは言い難い。 そこから学べることは、最低限のルールを守らないと参考情報としての意味すら担保できないということだけである。 それ以外は、「何も学」びようがない。 「扱うデータや解析にも万全の注意を払う必要がある」からこそ、データの質をきちんと検証しなければならない。 「今後の役に立てること」が可能な情報が何も含まれない「今回のような15万人以上の癌患者」のデータから見せかけの偽の「情報を十二分に抽出」してはいけないのである。

このような風潮が,世間一般から統計家や統計理論が拒否され,データマイニングが新しい方法論として企業に注目される遠因ではなかろうか.


(問題提起)これは,データマイニングが,一般の統計手法に比べて注目されている一因である. 「統計学者に相談無く集められたデータは,解析に使えない.」などとする一部の統計家の極端な意見が,潜在的な統計ユーザーを失ってきた. これが今日,多くの企業ユーザーが統計をうるさく感じ,統計を避けつつ,データマイニングに注目する一因である.

丸山ワクチン投与15万症例の分析 P.8

「このような風潮が,世間一般から統計家や統計理論が拒否され,データマイニングが新しい方法論として企業に注目される遠因」「これが今日,多くの企業ユーザーが統計をうるさく感じ,統計を避けつつ,データマイニングに注目する一因」は何を言いたいのか全く意味不明である。 前向き研究もデータマイニングも、データの取り方が違うだけであって、統計解析手法の一種である。 統計解析手法の一種である以上、「統計をうるさく感じ,統計を避け」てはデータマイニングを行うことは不可能である。

データマイニングは、前向き研究とは違って、厳密な証明を要しない場合であって、かつ、何らかの参考情報を手軽に抽出する時に使われる手段である。 ビジネス分野では、データの正確さも重要ではあるものの、そのために多大なコストや時間をかけられない事情がある。 だから、データの正確さとコストや時間とのバランスを考慮して、それなりの正確さと手軽さを両立できるデータマイニングが注目されるのである。 データマイニングは、「統計家や統計理論」を活用するものであって、「統計家や統計理論」と対立するものではない。

そして、データマイニングだからと言って、どんなに粗悪なデータであっても許されることにはならない。 もちろん、解析対象が「統計学者に相談無く集められたデータ」である以上、ある程度の精度低下はやむを得ない。 しかし、結論を180°変化させかねないような欠陥は到底許容できない。 データマイニングにおいては、そうした結論を180°変化させかねないような欠陥がないか、解析対象のデータを検証することが非常に重要となる。

例として、アナタのその分析、「仮説」はありますか? (1/2) - ITmediaAI研究の難問「フレーム問題」を考える (2/3) - ITmediaで紹介されているAbraham Waldの「爆撃機を強化する装甲が必要な場所の優先順位」は非常に参考になる。 「無事に帰還した爆撃機の破損状況」の「その多くは翼も胴体も蜂の巣のように穴が開いていましたが、コックピットと尾翼にはその傾向がありません」という傾向からは、一見すると、「多くの穴が開いていた機体部分に装甲を施す」ことが有効であるかのように見える。 しかし、Abraham Waldは、このデータに「帰還しなかった爆撃機のデータ」が含まれていないことに気がついた。 つまり、「コックピットと尾翼に穴が開い」たデータが極端に少ないのは、そこが撃たれにくいからではなく、「そこを撃たれたら帰還できないから」なのである。 おそらく、「帰還した爆撃機のデータ」と「帰還しなかった爆撃機のデータ」を全て収集すれば、「コックピットと尾翼に穴が開い」たデータの占める割合が多く、とくに「帰還しなかった爆撃機のデータ」の圧倒的多数は「コックピットと尾翼に穴が開い」たのである。 だから、爆撃機の帰還率を高めたければ、コックピットと尾翼を強化することが重要となる。 しかし、収集したデータには「帰還しなかった爆撃機のデータ」が含まれないため、「コックピットと尾翼に穴が開い」たデータが極端に少なく、「コックピットと尾翼」は撃たれにくいという誤った分析結果を導きかねない。 その結果、収集したデータにおける「爆撃機を強化する装甲が必要な場所の優先順位」が現実とは真逆の結果を示しているように見えるのである。 データマイニングにおいては、このような結論を180°変化させかねない偏りがないかを慎重に検討する必要がある。

新村氏は、そうした検証の必要性を全く理解していない。 だから、「解析に絶えない『くず』」と評価された理由を正しく理解できないのである。 真っ当な統計家は、「統計学者に相談無く集められたデータ」であろうとも、「『二重盲検法』などの厳密なプロトコルにのっとって集められたデータ」でなかろうとも、結論を180°変化させかねない偏りがなければ、「解析に絶えない『くず』」とは評価せず、参考程度には使えるデータと評価する。 真っ当な統計家は、結論を180°変化させかねない偏りが取り除けていない場合に、「解析に絶えない『くず』」と評価する。 しかし、新村氏は評価の理由を全く理解していないから、「解析に絶えない『くず』」と評価されると、評価理由が「統計学者に相談無く集められたデータ」である、あるいは、「『二重盲検法』などの厳密なプロトコルにのっとって集められたデータ」でないせいだと勘違いする。

表に見る限り,残念ながら診断確定年は94,984症例が欠損値であり,全体の62%にも達している.


最後の最終外来年は,52,552が欠損値である.

丸山ワクチン投与15万症例の分析 P.9

このような「欠損値」が多数発生する原因は、個々の被験者のデータを確実に登録するための責任者が不在であり、個々の被験者のデータが丸山ワクチン研究施設に届けられるかどうかは何ら責任を課せられていない「患者または家族」次第となっているからである。 「全体の62%にも達」するような「欠損値」が生じているのでは、そこに多大な偏りが生じる余地があり、データとしての信頼性は極めて低い。

これは,主治医の協力が得られないため転院したり,病理検査が行われなかったためである。


これに対して,手術年の欠損値は,その大部分が手術を行っていない治験者数と考えてもよいだろう


これは,末期のためのSSM投与が1クール(40日)未満で死亡した患者が多いためである.

丸山ワクチン投与15万症例の分析 P.9

「主治医の協力が得られない」は、個々の被験者のデータを確実に登録するための責任者が不在であり、個々の被験者のデータが丸山ワクチン研究施設に届けられるかどうかは何ら責任を課せられていない「患者または家族」次第となっているからである。 「患者または家族」には何ら責任を課せられていないから、協力を拒む「主治医」に無理に「協力」を求める義務もなければ、態度不明の「主治医」に「協力」してくれるかどうか打診する義務もない。 もっと言えば、「患者または家族」には、「病理検査」を求める義務もない。 義務が課せられていれば丸山ワクチン以外の別の口実をこじつけるなどの知恵を回すのだろうが、義務が課せられていなければそのような必要もない。 どこまでしっかりしたデータを採るかは「患者または家族」の気分次第なのである。 こうしたやり方に対して、データを確実に登録するための責任者を置くやり方であれば、その責任者は最低限のデータを揃えるための努力をするだろう。 その責任者が医師であれば「病理検査が行われなかった」という選択肢は在り得ない。 このように、ちゃんと責任者を置いていれば膨大な「欠損値」が生じる余地はない。 ようするに、「患者または家族」に依存する有償“治験”のやり方の問題であって、協力しない主治医のせいではない。

「手術年の欠損値は,その大部分が手術を行っていない治験者数と考えてもよい」と何ら根拠を示さない想像を用いている点もいただけない。 診断確定年が「主治医の協力が得られないため転院したり,病理検査が行われなかったため」に必要なデータを収集できていないのであれば、手術年も何らかの理由で必要なデータを収集できていないことは十分に考えられる。 それを安易に「手術年の欠損値は,その大部分が手術を行っていない治験者数と考えてもよいだろう」とすることは論外である。

新村氏は、何を根拠に「1クール(40日)未満で死亡した患者が多いため」と主張しているのか。 「1クール(40日)未満」しか使わなかった人には、「1クール(40日)未満で死亡した患者」も当然いるだろうが、丸山ワクチンにあまり期待していなかった等の理由で「1クール(40日)未満」で自主的に辞めた人もいるだろう。 「死亡日の情報はほとんどフィードバックされない」以上、「1クール(40日)未満」しか使わなかった人がどちらであるのかは、データからは判断できないはずである。 全く根拠のない想像であれば論外である。

「最終外来年」の「欠損値」が多い原因は「1クール(40日)未満で死亡した患者が多いため」という仮説は、死亡日が登録されていないため厳密な検証はできないが、大雑把な検証は次の方法で実施できる。 2013年の公式サイトには「ワクチン使用者のうち3割は1クール(約40日)内で終了しているというデータもある」(2018年8月24日時点では「ワクチン使用者のうち30%以上は1クール(40日)内で終了しているというデータもあります」)と記載されており、この殆どが「1クール(40日)未満で死亡した患者」であり、かつ、生存率グラフが指数関数に従う仮定を置けば、丸山ワクチンを投与しない場合の1年生存率は0.79=4.04%、3年生存率は0.727=0.01%、5年生存率は0.745=0.00%となる。 全国がん(成人病)センター協議会加盟施設における5年生存率と比較すると、これらの値は各種がんのステージⅣの5年生存率より遥かに低い。 「1クール(40日)未満」で約1割が死亡すると仮定して、ようやく、5年生存率は0.87%となり、これでも実際のデータよりも遥かに低い値である。 以上を踏まえると、「1クール(40日)未満で死亡した患者」は「1クール(40日)未満」しか使わなかった人のうちの3分の1もいないことがわかる。 新村氏は、このような大雑把な検証すらしないまま、「1クール(40日)未満で死亡した患者が多い」と決めつけている。

残念ながら死亡日の情報はほとんどフィードバックされないので,外来最終日を用いることになる. 少なくともこの日までは生存していたと考えられるので,過小評価にはなっても過大評価になることはない.

丸山ワクチン投与15万症例の分析 P.11

「過小評価にはなっても過大評価になることはない」が何を言いたいか全く意味不明である。

今回の分析モデルで重要なことは、過小評価や過大評価の度合いである。 過小評価であるか過大評価であるかは、すなわち、実値と計測値の差の方向は解析結果の精度には大きな差を産まない。 それに対して、過小評価や過大評価の度合いの大きさは、そのまま解析精度に直結する。 その「過小評価」の度合いが「4群」で同程度でなければ、それが結論を大きく歪めかねない。 その「過小評価」の度合いが「4群」で大きく違っていれば、統計として全く信頼できないものとなってしまう。

例えば、データ上の生存期間が実際の生存期間の99%であったとする。 その場合は、実際の生存期間に対して1%の差が生じている。 この差が倍になるとデータ上の生存期間は実際の生存期間の98%となり、変化前のデータ上の生存期間に比べて約1%程度の減となる。 では、変化前のデータ上の生存期間が実際の生存期間の70%であればどうか。 この場合、差が倍になるデータ上の生存期間は実際の生存期間の40%となり、変化前のデータ上の生存期間に比べて40%以上の減となる。 つまり、過小評価の程度によって、過小評価の揺らぎが結果に影響する程度も変化する。 これは過大評価であっても同様である。

過小評価や過大評価の程度が大きい場合、ランダム誤差による過小評価や過大評価の揺らぎの結果への影響は無視できなくなる。 さらに、交絡要因によって過小評価や過大評価の程度が変わる場合は、結果に致命的な影響を与えてしまう。 先ほども検証したとおり、丸山ワクチンの公式サイトのデータから「1クール(40日)未満で死亡した患者」は「1クール(40日)未満」しか使わなかった人のうちの3分の1もいないことが既に分かっている。 つまり、今回の分析における過小評価や過大評価の程度が非常に大きいため、それが見せかけの生存期間の差となって現れやすい。

丸山ワクチンを自主的に早く辞めた人は、投与開始が早い群には全く含まれず、投与開始が遅い群だけに含まれる。 外来最終日を死亡日として扱っているので、丸山ワクチンを自主的に辞めた人は死んでいないにも関わらず死んだ扱いにされるが、このうち早く辞めた人の影響は投与開始が遅い群にだけ現れる。 おそらく、これが最も大きな交絡要因となろう。 また、もしも、投与開始が遅い人ほど辞めるのも早い(信じている人ほど投与開始は早いし辞めるのも遅い)傾向があれば、これは重大な交絡要因となる。 また、予後や併用療法等の関係による交絡要因も考えられる。 さらに、次のような人が除外されることが解析結果にどのような影響を及ぼすかも予測が難しい。

  • 術後3ヶ月以内に投与し始めたが1年以内に亡くなった人
  • 術後9ヶ月以上1年以内に投与する予定だったが1年以内に亡くなった人

単純に考えれば、前者は丸山ワクチンに有利に働き、後者は丸山ワクチンに不利に働く。 しかし、両者が綺麗に相殺されるかどうかは予測が難しい。 これも重大な交絡要因となり得る。

「死亡日の情報はほとんどフィードバックされない」以上、これら交絡要因の影響を定量的に解析することは不可能である。 わかることは、「解析に絶えない『くず』のデータ」であることだけである。

図1は,今回のデータを用いて,帰無仮説モデルを層別箱ひげ図で説明したものである.

丸山ワクチン投与15万症例の分析 P.9-10

どうみても層別のデータは示されていないのだが、そこは軽く流そう。

「帰無仮説モデル」を採用する場合は、その帰無仮説が正しい確率(p値)を計算し、そのp値と検定基準を比較する必要がある。 そして、p値が検定基準を下回っている場合のみ、帰無仮説を棄却し、対立仮説が正しいものとする。 通常は、p値、もしくは、比較結果を表示する。 しかし、この論文中にはどこにもp値が出てこない。 新村氏は「帰無仮説モデル」を全く理解していないようである。 なお、この場合は、p値を計算していたとしても、ランダム誤差以外の誤差要因が大きすぎるため、対立仮説を証明することはできない。 何故なら、p値は特定の確率分布に基づくランダム誤差のみを考慮して計算しているため、ランダム誤差以外の誤差要因が無視できない場合は対立仮説が正しいとは言い切れないからである。

何故、臨床試験で一般的に用いられ、かつ、検証にも向いている生存率曲線ではなく、あまり用いられない箱ひげ図を用いたのか意味不明である。 箱ひげ図では、生存率曲線の不自然さを検証することができない。 また、元がカラーと思われる図を白黒にしているため、非常に見辛い。

結果を見ると、術後6ヶ月以内に投与を開始した人と術後6ヶ月以降に投与を開始した人の差が極端に大きい。 丸山ワクチンの効果に示す通り、東北大学の比較臨床試験でも、「服部隆延先生の論文」でも、子宮頸がんの臨床試験でも、丸山ワクチンを使った人と使わなかった人にこんなに大きな差は出ていない。 新村氏の解析は丸山ワクチンを使用した人同士の比較であるから、丸山ワクチンを使った人と使わなかった人の比較よりも極端に大きな差が出ることは極めて不自然である。 よって、この差の大部分は統計データの不備によって生じた見せかけの差であろうと推測できる。 とくに、外来最終日を見なし死亡日とすることによる交絡要因が大きいと考えられる。 見せかけの差を取り除いた差がどの程度あるかは、死亡日等の検証に必要な情報が完全に欠けているため、言及することができない。 見せかけの差を取り除いた結果、差が逆転する可能性も十分にある。 よって、この新村氏の論文の解析結果が示すことは、この論文に用いた仮定に基づいて「2000年9月までに登録された152,989症例」を解析しても統計的に意味のある結果を導くことはできないということだけである。

もしも、ほとんどの被験者の死亡日が登録されていれば、このような解析手法でも、ある程度参考になる結果は導けたのかも知れない。 しかし、死亡日が登録されておらず、かつ、外来最終日を見なし死亡日とすることによる交絡要因が大きい以上は、このような解析手法は全く意味を為さない。

しかし,早く投与した群の方が,3年生存率が統計的に高かった.

丸山ワクチン投与15万症例の分析 P.9-10

既に説明しているとおり、この論文の対象データから「早く投与した群の方が,3年生存率が統計的に高かった」という結論を導くことは不可能である。 こんなデタラメな解析を行っているようでは、新村氏の統計の専門家の資質は疑わしい。 新村氏は、定量的解析の限界(定量的手法で解析できない要因をデータ取得後に排除することの困難さ=データ取得手続きの重要性、定量的手法で解析できない要因が混入した統計データを定量的手法にのみ頼って完全に解析することが不可能であるという基本的性質、そして、定量的手法で解析できない要因が混入した統計データの定量的手法以外による評価方法等)を全く理解していない定量的解析至上主義者であろう。 新村氏は、定量的解析分野に限れば優秀なのかも知れないが、統計分析の全般的能力では素人以下である。 「統計学者に相談無く集められたデータ」を解析対象とするからこそ、当然、「統計学者に相談無く集められた」ことによって生じた定量的に解析不能な要因がどの程度結果に影響を及ぼすか定性的に評価しなければならないのである。 なのに、新村氏は、どんなデタラメなデータであろうとも適切な定量的解析を行えば信頼できる結果が導けると信じているのではないだろうか。 だから、平然と「『統計学者に相談無く集められたデータは,解析に使えない.』などとする一部の統計家の極端な意見が,潜在的な統計ユーザーを失ってきた」と主張できるのである。 しかし、データに現れていない未知のパラメータに対して適切な定量的解析を行うことは原理的に不可能である。 多変量解析等の手法は、交絡要因等の影響が定量値として解析データに含まれていることが前提なので、定量値の取得できていない交絡要因等は除外できない。 本事例で言えば、丸山ワクチンの使用中止時期と中止理由(死亡含む)の関係のデータを取得できていないため、そうした交絡要因を定量的解析で除外することはできない。

そもそも、有償“治験”のデータ取得のデタラメさを考えれば、解析するまでもなく、そのデータから科学的意味のある結論を導くことができないことは初めから分かっている。 統計における最低限のお約束すら守っていないデータをいくら必死に解析しようとも、効果を証明することが不可能なだけでなく、有望な可能性を示すことすら不可能である。 科学的意味のある結論を導きたいのであれば、統計における最低限のお約束くらいは守ってデータを取らなければならない。 統計の専門家としてやるべきことは、統計における最低限のお約束すら守っていないデータに無理矢理な解析を行うことではなく、統計における最低限のお約束を守ってデータを取るようにアドバイスすることであろう。 「解析に絶えない『くず』のデータ」を「解析に絶えない『くず』のデータ」と扱うことを批判するなど論外である。


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