マクガバン・レポート

健康食品サイトなどで次のような話がよく見られますが、これは事実でしょうか。

米国上院議会がまとめたレポート(マクガバン・レポート)が通常医療の効果を否定した。
マクガバン・レポートが代替医療の治療効果を認めた。

ここで言うマクガバン・レポートは、Dietary goals for the United States(米国の食事目標)です。

このレポートはタイトルが示す通りDietary goals(食事目標)を示しただけに過ぎません。

マクロビや代替療法では、この報告を「食事が元で病気になる/食事で病気を防ぐ」という自説の根拠としている。 しかし、そこまで強い主張はこの報告にはない。
報告では、食物と特定疾患の間の相関の解明が十分なされていないことが説明され、今後の調査研究や考察を要する問題があることが記述されている(特にコレステロールの問題に関してはかなり意見の対立があることが示されている。)。 それでもある程度合意が形成された意見は、科学的根拠があるものとして周知されるべきというのがこの報告の立場なのだ。
こうした曖昧さ、不完全さを示す部分は、マクロビや代替療法の世界では紹介されない。 まるで報告が食事=病気の原因であることを決定づけたかのようにしか扱っていないのだ。 我田引水というべきだろう。
例えば今村光一『いまの食生活では早死にする アメリカ上院栄養問題特別委員会レポート 改訂新版』(経済界、1994)では委員会の審議結果を「食事・栄養と病気の関連が初めて明らかになった」とし、 「現代の医学は薬や手術といったことにだけ偏りすぎた。栄養に盲目的な片目の医学であった。栄養に盲目的でない医学につくり変える必要がある」としている。
こうした現代医学の否定と、この報告で初めて栄養と健康の関係が明らかになったかのような解説は、マクロビや代替療法での報告の紹介にも見られる。 だが、そうした現代医学否定の文言はマクガバンレポートのどこにもない。 当時の医学の調査研究(委員会の審議以前のものを中心とする)を反映したこの報告の内容は、「初めて明らかになった」とは言い難い。
国立栄養研究所基礎栄養部長(当時)の宮崎基嘉は、報告第2版邦訳の解説「米国の食事目標に学ぶもの」で米国栄養士会の意見書を紹介している。
この食事目標は正しい方向を示しているという意見を持っているが、まだそれは確定的なものだと見なしてはいけない。最良の食事は必須栄養素を含む食事をバランスよく含み、総摂取量も適量で、個人の必要度に応じて変化を加えた食事である。また食事と病気の関係についての多くの疑問が未だ明らかにされておらず、食事以外の危険因子も多いことを知らさなければならない。良い食事は病気にかかりやすい危険性を減少はするけれども、予防のためにはその他の因子にも注意しなければならない。
これは報告に関わった研究者の意見にも通じる見解だ。 一見当たり前の意見のようだが、繰り返す価値のある意見である。 食事が健康の全ての原因/対処のように考えてしまう人は、マクロビや代替療法にはまる人でなくともいるのだから。
マクガバン・レポートの真実-火薬と鋼(http://d.hatena.ne.jp/machida77/20090808/p1)


以上のように、マクガバン・レポートについてマクロビ・代替療法の世界で紹介されている内容の多くは嘘か誤解に基づいている。 この他にもマクガバンが政治生命をかけたとか、その後アメリカはマクガバン・レポートに基づいて食事が改善されたとか、事実とそぐわない伝説が無数に存在している。 こうした伝説は、日本ではアメリカの情報が得にくいからこそ普及したのではないだろうか。
アメリカでもマクガバン・レポートを代替療法の側が資料に使うことがあるが、日本の例ほど極端ではない。 アメリカではもっと容易に報告の元資料に当たれるし、マクガバン議員や自国の栄養事情について嘘を書いてもばれやすいからだろう。 だが、日本では今後もこうした「伝説」が様々なバリエーションを生みつつ普及していくと思われる。
マクガバン・レポートの真実-火薬と鋼(http://d.hatena.ne.jp/machida77/20090808/p1)


もともとはまともな内容のマクガバン報告が、トンデモな内容と連鎖してしまった原因は、おそらく、日本に紹介される過程において、不正確な和訳がなされてしまったものと思われる。
マクガバン報告から考えた日本の食生活-NATROMの日記(http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20090727)

1つ間違いがあるので指摘しておきます。 誤った情報源は今村光一氏の書籍でしょうが、これは「不正確な和訳」ではなく故意の誤訳です。 今村光一氏は健康食品輸入販売会社の社長であり、薬事法違反での逮捕歴があります。 彼は、自らが販売する商品の宣伝のために、故意に間違った情報を流布したのです。