免疫万能説

がんと免疫の関係 

がんは免疫力が弱ったから発症するのであって、免疫力を高めれば治ると言う人がいます。 これは事実でしょうか。 結論から言えば、大部分が誤りです。 免疫療法の奏効状況、AIDS患者のがん発症傾向、生物学的確率論等から考察すると、がん細胞の免疫抵抗性にはかなりのバラツキがあり、MRSAのように淘汰によって生き延びたがん細胞だけが腫瘍組織として成長すると考えられます。 よって、発症段階に至ったがんは比較的免疫抵抗性が高いと考えられ、そのことから免疫療法の治療成績が芳しくないことも説明がつきます。 例えば、カポジ肉腫などは免疫抵抗性が低い代表例で、免疫機能が相当弱っている状態でしか発症しません。 また、同じ種類のがんであっても、免疫療法が効いたり効かなかったりと、免疫抵抗性に顕著な差が見られます。 以上の通り、免疫力を高めれば免疫抵抗性の低いがんを予防することは可能でしょうが、免疫抵抗性の高いがんを予防することは困難でしょう。 言い替えると、免疫抵抗性の高い悪質ながんは免疫力を高めても予防できないということです。 もっと別の言い方をすると、がんは免疫力が弱ったから発症するのではなく、免疫抵抗性の高いがんが確率的に発生するために発症すると言えます。

有害な免疫反応 

「免疫療法は人間の免疫作用を利用しているから副作用がない」と言われることも間違いです。 単に、劇的な主作用を起こすほど免疫反応を高めていないから、それに見合った副作用もないだけなのです。

たとえば、かぜの諸症状は免疫反応によるものであることが分かっています。 この免疫反応が過剰になるサイトカイン・ストーム(免疫伝達物質の過剰産生)は命にも関わるとされています。

たとえば、ウィルス性肝炎の原因ウィルスを退治するためには、免疫がウィルスを攻撃することが必要とされています。 しかし、ウィルスへの攻撃が激しすぎると肝炎を引き起こし、これまた、程度のよっては命に関わります。

このように、人間の健康は、免疫反応の微妙なバランスの下で成り立っています。 免疫を過剰に高めることは命に関わる危険なことであって、免疫は何も考えずにひたすら高めれば良いというものではありません。 劇的な効果と安全性を両立することは、免疫をもってしても容易なことではないのです。

自然治癒力の限界 

免疫力も自然治癒力の一種であり、免疫万能説も自然治癒力万能説と同様に荒唐無稽な説に過ぎません。 免疫機能にはまだまだ未知のことが多く、人知を越えた凄い力を秘めてはいることは確かだけど、だからと言って、万能ということにはなりません。 現実論からも、進化論からも、ある生物の持つ機能が万能であるはずがないのです。 免疫抵抗性の高いがんは免疫を妨害する様々な機能を備えています。 それに対抗できないから、がんが発症するのです。 仮に、免疫をがん治療に利用するとしても、何らかの技術的方法で免疫抵抗性の壁を突破することが必要になります。 人間の持つ免疫力だけでがんに対抗しようとするのは、現実を無視した妄想的発想に過ぎません。