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[医療制度]
民営はそんなに優れているのか?
医療を完全自由化すれば良い事尽くめのように言う人が居る。しかし、その話は、国民=患者にとっての効率と民間企業にとっての効率を混同している。両者は似て非なる物である。
国民=患者にとって必要な効率化とは、一人の患者を救うためのコストを減らすこと。それに対して、民間企業にとって必要な効率化とは、投資に対する利益の比率を上げること。国民=患者にとっては、どんなに経費を減らせても、人命が救えなくなるのでは意味がない。一方で、民間企業にとっては、全ての患者を見殺しにしようとも、儲かりさえすればいいのである。両者は同じどころか、場合によっては、全く逆の方向を向くことになる。
何でもかんでも、官営より民営の方が優れていると言い張る人も居る。しかし、本当に、官営より民営の方が優れているなら、小さな政府と言わず、無政府にすれば良い。全てにおいて民が優れているなら、官なんて必要ないはずである。常識的に考えれば、官営も民営も、どちらも一長一短である。
長所 | 短所 | |
---|---|---|
官 | 金をケチるために生命を危険に晒す必要がない | 採算性を考えないため金の無駄遣いが多い |
民 | 採算を重視するため金の無駄遣いが少ない | 金のために生命を犠牲にしかねない |
確かに、医療についても可能な限り合理化は必要だろう。生命を軽視すべきではないが、かと言って、そのために際限なく金を使って良いとも言えない。生命と金銭的効率は両立を目指すべきなのであって、どちらかのためにどちらかを犠牲にするという考えは適切ではない。だから、国民にとって必要な方式は、純然たる官でも純然たる民でもなく、次のいずれかだろう。
- 民の良い所を取り入れた官
- 官の良い所を取り入れた民
盲目的に極論を支持するのではなく、命と金の優先順位を考えて、どのような制度が相応しいかを論じるべきだろう。
命を粗末にして儲かるか?
「患者の命を危険に晒せば利益は減るのではないか?」という疑問には、2006年3月29日付の毎日新聞の記事「救急医療:重症患者9000人が転送 実態10万人以上か」と、同日付の同新聞の「救えた命:救急医療を問う 泣く男児「重症でない」」を見てもらいたい。この記事には、「転送」や「転院搬送」による処置の遅れが患者の死亡率を上昇させること、経営効率のために「転送」や「転院搬送」が生じるシステムが温存されていることが指摘されている。
救急病院は初期、2次、3次に分かれ、救急隊が患者の重症度に応じて搬送先を選ぶが、誤りなく判断するのは難しいうえ、体制が不十分な病院もあるからだ。転送で治療開始が遅れると死亡率が高まる可能性があり、救急医療のあり方が問われそうだ。
さらに、図解で、初期で対処できない場合は2次や3次に、2次で対処できない場合は3次に、それぞれ、「転送」や「転院搬送」されて、治療開始が遅れると指摘されている。
日本救急医学会が昨年10月、さいたま市で開いた救急医療のワークショップでは、救急医から「地域社会のニーズを考えれば、初期から3次まで対応できる医療機関が理想的だ」などの指摘が相次いだ。
患者にとっては理想的なシステムだが、ある救急医は「2次病院が納得しないだろう」と言う。
関東地方の大学病院の脳神経外科医によると、この大学病院周辺の2次救急病院がくも膜下出血の患者を受け入れるのは平日の日中だけだ。医師は「患者1人で月に300万〜400万円の収入となる。救急患者受け入れは2次病院が効率的にもうける手段だ。しかし、休日や夜間の受け入れは体制整備に費用がかかるので、平日の日中だけにしている」と語る。
この件は、規制によって生じている問題ではない。国営であれば、人命救助という目的を果たせないのに、採算を追求しても意味がない。そして、重要度が高く必要性が説明できるならば、必要な予算は確保できる。無理に節約する必要は何処にもない。国家予算から切り離された独立採算の組織だからこそ、採算を考えなければ経営が成り立たないのである。よって、この問題が、採算を優先する民間企業的な感覚によって生じている問題であることは明らかである。
また、規制があろうとなかろうと、経営効率を考える必要があることには変わりがない。むしろ、規制が撤廃されて自由競争に晒されれば、合理化をより一層進める必要が生じてくる。そうなれば、益々、平日の日中だけの2次救急病院は増えるだろうと予想される。
最終更新時間:2006年03月19日 23時41分37秒
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