特許療法
詳細は健康情報を評価するフローチャート等を参考にしてください。
特許制度とは?
特許制度とは、発明に対する独占的権利の所在を明らかにする制度であって、発明の真贋を保証する制度ではありません。 薬事法により医薬品の真贋を認定するのは厚生労働省の仕事であり、他省庁が同じ事を行うような二重制度はありえません。
本物でなければ特許が取れないか?
結論から言えば、偽物の発明でも特許取得は可能です。 なぜなら、特許とは、その発明の独占権を主張するためのものであって、その発明の真偽を問うものではないからです。
効果を証明せずに特許取得した実例
ミミズを原料にした健康食品の公開特許広報を調べてみた。確かにそこにはマウスを用いた基礎研究とともに人を対象とした臨床研究結果が掲載されていた。
ただし、特許取得の際に重要視されることは新規発見であるかどうかだ。そこがわれわれの考えている臨床試験と異なるところである。 したがって、上記のように臨床的にはきわめて不十分なデータであっても、特許取得という点においては問題ないのであろう。 すなわち、たとえ用途特許を取得した健康食品であっても、必ずしもそのことが臨床効果を保証することにはならないのである。
この例では、臨床的にはきわめて不十分なデータでも特許が取得できています。
特許を取った疑似科学発明
Wikipedia:永久機関には科学法則に明らかに反する実現不可能な発明の特許取得実例が書かれています。
熱力学の法則の確立以後も疑似科学者や詐欺師によって、永久機関が「発明」され続けている。 日本では1993年~2001年6月の間に35件の出願があり、うち5件に審査請求があったが、いずれも特許を認められていない。 一方アメリカでは1932~1979年の間に9件の特許が成立した。近年でも2002年に一件成立している。
特許査定と拒絶査定
特許法では「拒絶をすべき旨の査定」をしなければならない場合を次のように規定しています。
特許法第49条 審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一 その特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第十七条の二第三項又は第四項に規定する要件を満たしていないとき。
二 その特許出願に係る発明が第二十五条、第二十九条、第二十九条の二、第三十二条、第三十八条又は第三十九条第一項から第四項までの規定により特許をすることができないものであるとき。
三 その特許出願に係る発明が条約の規定により特許をすることができないものであるとき。
四 その特許出願が第三十六条第四項第一号若しくは第六項又は第三十七条に規定する要件を満たしていないとき。
五 前条の規定による通知をした場合であつて、その特許出願が明細書についての補正又は意見書の提出によつてもなお第三十六条第四項第二号に規定する要件を満たすこととならないとき。
六 その特許出願が外国語書面出願である場合において、当該特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないとき。
七 その特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき。
各項目をまとめると次のような審査がされます。
- 自然法則を利用した技術思想か
- 産業上利用できるか
- 出願前にその技術思想はなかったか(新規性)
- 「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」が容易に発明をすることができたものでないか(進歩性)
- 他人よりも早く出願したか
- 公序良俗に違反していないか
- 明細書の記載は規程どおりか
これら審査において「拒絶の理由」がない場合は特許を認めなければなりません。 言い替えると、拒絶査定とするためには明確な拒絶理由が必要になります。
特許法第51条 審査官は、特許出願について拒絶の理由を発見しないときは、特許をすべき旨の査定をしなければならない。
参考:特許権を取るための手続(リンク切れ)
実施可能要件等
「明細書の記載」については次のとおり定められています。
特許法第36条第4項 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
二 その発明に関連する文献公知発明(第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。
特許法施行規則第24条の2 特許法第三十六条第四項第一号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。
このうち「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」は「実施可能要件」と呼ばれる。
また同号のうち、「その発明の属する技術の分野における通常の知識 を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」を実施可能要件という。
実施可能要件に基づく詳細な拒絶理由は次のとおり。
3.2.1発明の実施の形態の記載不備に起因する実施可能要件違反
- (1)技術的手段の記載が抽象的又は機能的である場合
以下の(i)及び(ii)の両方に該当する場合は、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。
- (i)発明の実施の形態の記載において、請求項中の発明特定事項に対応する技術的手段が単に抽象的又は機能的に記載してあるだけで、具現すべき材料、装置、工程等が不明瞭である。
- (ii)その具現すべき材料、装置、工程等が出願時の技術常識に基づいても当業者が理解できないため、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができない。
- (2)技術的手段相互の関係が不明確である場合
以下の(i)及び(ii)の両方に該当する場合は、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。
- (i)発明の実施の形態の記載において、発明特定事項に対応する個々の技術的手段の相互関係が不明瞭である。
- (ii)その技術的手段の相互関係が出願時の技術常識に基づいても当業者が理解できないため、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができない。
- (3)製造条件等の数値が記載されていない場合
以下の(i)及び(ii)の両方に該当する場合は、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。
- (i)発明の実施の形態の記載において、製造条件等の数値が記載されていない。
- (ii)その製造条件等の数値が出願時の技術常識に基づいても当業者が理解できないため、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができない。
3.2.2請求項に係る発明に含まれる実施の形態以外の部分が実施可能でないことに起因する実施可能要件違反
- (1)発明の詳細な説明に、請求項に記載された上位概念に含まれる一部の下位概念についての実施の形態のみが実施可能に記載されている場合
以下の(i)及び(ii)の両方に該当する場合は、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。
- (i)請求項に上位概念の発明が記載されており、発明の詳細な説明にその上位概念に含まれる「一部の下位概念」についての実施の形態のみが実施可能に記載されている。
- (ii)その上位概念に含まれる他の下位概念については、その「一部の下位概念」についての実施の形態のみでは、当業者が出願時の技術常識(実験や分析の方法等も含まれる点に留意。)を考慮しても実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない具体的理由がある。
- (2)発明の詳細な説明に、特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合
以下の(i)及び(ii)の両方に該当する場合は、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。
- (i)発明の詳細な説明に特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている。
- (ii)その特定の実施の形態が請求項に係る発明に含まれる特異点である等の理由によって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識(実験や分析の方法等も含まれる点に留意。)を考慮しても、その請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないとする十分な理由がある。
- (3)マーカッシュ形式で記載された請求項の場合については、5.1を参照。また、達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含む請求項の場合については、5.2を参照。
5.1マーカッシュ形式で記載された請求項の場合
請求項がマーカッシュ形式で記載されており、発明の詳細な説明に一部の選択肢についての実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、残りの選択肢については、その一部の選択肢についての実施の形態のみでは当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識(実験や分析の方法等も含まれる点に留意。)を考慮しても実施できる程度に説明がされているとはいえない具体的な理由があるときは、実施可能要件違反となる。 5.2達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含む請求項の場合
請求項が達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでおり、発明の詳細な説明に特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識(実験や分析の方法等も含まれる点に留意。)を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないとする十分な理由があるときには、実施可能要件違反となる。
6.留意事項
次に掲げる場合において、発明の詳細な説明の記載が当業者が請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないときは、拒絶理由に該当し実施可能要件違反となる(実施可能要件違反であるか否かは、3.及び5.に従って判断する。)。
- (i)発明の詳細な説明が日本語として正確に記載されていないため、その記載内容が不明瞭である場合(いわゆる「翻訳不備」を含む。)
日本語として正確に記載されていないものとしては、例えば、主語と述語の関係の不明瞭、修飾語と被修飾語の関係の不明瞭、句読点の誤り、文字の誤り(誤字、脱字及び当て字)、符号の誤り等がある。- (ii)用語が明細書、特許請求の範囲及び図面の全体を通じて統一して使用されていない場合
- (iii)用語が学術用語、学術文献等で慣用されている技術用語ではなく、かつ、発明の詳細な説明でその用語の定義がなされていない場合
- (iv)商標名を使用しなくても表示することのできるものが商標名によって表示されている場合
- (v)発明の詳細な説明の記載に計量法に規定する物象の状態の量が記載されているが、計量法で規定する単位に従って記載されていない場合
- (vi)図面の簡単な説明の記載(図面及び符号の説明)に、発明の詳細な説明との関連において、不備がある場合
以上の説明には「明らかに不可能」という文言が含まれますが、「実施可能要件」は発明が本物であることを求めるものではありません。 これでは真贋の判定としては次のように明らかに不十分です。
- 「明らかに不可能」ではない偽物の発明は拒絶査定とならない
- 本物の発明であっても記載事項に不備があれば拒絶査定となる
特許とは、
発明者には一定期間、一定の条件のもとに特許権という独占的な権利を与えて発明の保護を図る一方、その発明を公開して利用を図ることにより新しい技術を人類共通の財産としていくことを定めて、これにより技術の進歩を促進し、産業の発達に寄与しようというもの
特許・実用新案とは - 特許庁
であるので、技術を公開せずに独占権だけを得ようとする不届きな行為は見逃せません。
だから、「実施可能要件」として、特許対象の技術について必要な部分を公開しているかどうかを確認しているのです。
特許査定を行うにあたって、出願された技術が本物かどうかを見極めることは特許法では求められていません。
以上のように、実施可能要件と実施可能か否かとは別であり、特許査定は実施可能と認められたことを意味しません。
医薬品関係
医薬品関係の特許には次のような種類があります。
- 物質特許(新規の物質)
- 用途特許(新規の用途)
- 製剤特許(新規の製剤技術)
- 製法特許(新規の製造方法)
いずれも、効果や効能に対する特許ではありませんが、用途特許は効果や効能に対する特許と見られがちです。 確かに、効果や効能がないことを前提とした用途はあり得ませんが、その用途に見合う効果や効能が証明されていないことが特許の拒絶理由にならないことは前に述べたとおりです。 つまり、用途特許を取得するために効果や効能を証明する必要はありません。
用途特許を取得する場合にポイントとなるのは、新規性と進歩性でしょう。 既に使われている用途に特許は認められませんし、誰でも思いつくような用途にも特許は認められません。 既知の物質を既知の疾病の治療用に使用する場合、物質と疾病の組み合わせに合理的根拠が無ければ単なる思いつき、つまり、進歩性がないと見なされるでしょう。 だから、特許を取るためには、単なる思いつきで出願したのではないことを示す必要があります。 だから、一定の研究結果等を示す必要があるのです。
つまり、実体審査で資料を要求されたとしても、それは新規性の審査のためであって、真贋の審査のためではありません。
偽物の発明を特許査定する弊害
産業財産関係料金一覧によると、特許登録のためには毎年特許庁に特許料を納めなければなりません。 減免措置を受けない限り、特許料を納めなければ特許権を放棄することになります。 最初の年は2,600円+αで済みますが、10年目以降は81,200円+αにもなり、最後まで特許権を放棄しなかった場合は総額で100万円以上支払うことになります。 このように偽物の発明に特許を認めても、国庫収入が増えて自称発明者が損をするだけです。
尚、偽物の発明に特許を与えては詐欺に悪用されるではないかと言う意見もあるでしょう。 しかし、特許は独占権の認定をする制度であって、発明の真贋を認定する制度ではありません。 詐欺に悪用されるのは制度に対する誤解があるからです。 だから、制度に対する正しい理解を得られるならば、偽物の発明に特許を与えても弊害はありません。
不確かな発明の特許を申請する理由
発明の独占権を主張するためには、その発明が実用化されてからでは手遅れであり、発明の真偽が不確かな段階でも手続きを始める必要があります。
日本の特許制度は先出願主義であり、特許を取得するためには誰よりも先に出願する必要があります。 また、日本を含む多くの国の特許制度で公知公用は新規性がないとして特許の対象外としていることから、公知公用となるまでに出願手続きを済ませる必要があります。 ただし、学会等での発表から6ヶ月以内、他国での最初の出願から1年以内は新規性喪失の例外となります。 いずれにせよ、出願を早めに済ませる必要があるのは確かです。 そして、出願してから3年(平成13年9月30日以前の出願は7年)以内に審査請求をしないと権利を放棄したと見なされます。
このように、特許権を主張したいなら、発明の真偽が不確かな段階でも申請手続きだけはしておく必要があります。
国際特許とは?
パリ条約により特許制度は各国の裁量権に委ねられているため、国際特許という制度はありません。
PCT国際出願は、あくまで国際的な「出願」手続であるため、国際出願の発明が、特許を取得したい国のそれぞれで特許として認められるかどうかは、最終的には各国特許庁の実体的な審査に委ねられています
PCT国際出願制度の概要 - 特許庁
とされているように、国際特許なる制度はありません。
米国特許が多い訳
米国の特許を宣伝している場合は、認定基準の低い国でしか特許が取れないと見るべきでしょう。 なぜなら、米特許商標庁(USPTO)の特許認定基準が低すぎることは以前から指摘されているからです。 なにしろ、「トイレの順番を決める方法」や「ブランコの新しいこぎ方」にまで特許認定しているくらいですから。 米国では、特許に対する異議申し立ても難しく、一度認められた特許は修正や取り消しがめったにないと言われています。
米連邦取引委員会(FTC)は米国の特許審査について、新規性の乏しい発明にも安直に特許が認められている恐れがあると指摘する報告書をまとめた。 特許の乱発は企業の技術開発競争を阻害しかねず、審査をより厳格にすべきだと勧告している。
連邦取引委は競争政策の観点から現行の特許制度を点検してきた。米産業界の一部から、米特許商標庁(USPTO)が安直に特許を認めすぎているとの不満が出ているのに応じた。 同庁は昨年、7歳の児童が出願したブランコの新しいこぎ方に特許を認めるなどして、論議を呼んだことがある。米特許商標庁のJames Rogan長官は、これまで多数のビジネス手法特許を認定してきたのは誤りだったとの見解を明らかにした。 Heritage Foundationが10月15日開いたイベントで述べたもので、今後はもっと注意深く特許の認定にあたるとしている。
特許商標庁に対してはここ数年、特許認定基準の低さをめぐって批判の声が高まっていた。 特に、ソフトウェアやビジネス手法に関するテクノロジー関連特許については訴訟に発展したケースも多い。
まとめ
以上の通り、特許は効果や効能の裏付けとはなりません。 よって、特許を効果や効能の証拠として扱っている場合は、疑ってかかるべきでしょう。
ただし、特許は競争が存在しないことの証拠にはなります。 よって、競合相手が居ないことを説明する意図で特許権を示している場合は疑いを持つ必要はないでしょう。
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