OTAレポート

今村氏の創作 

健康食品サイトなどで、「通常医療は無意味なばかりか有害」「代替医療に治療効果がある」とのレポートを米国OTAが公表したというデマ情報が出回っています。 これは、薬事法違反で逮捕歴がある健康食品輸入販売会社社長(当時)の今村光一氏が、「自然な療法のほうがガンを治す アメリカ議会ガン問題調査委員会[OTA]レポート ガンを治せる時代のガン療法の姿 今村光一【編訳】」なる書籍において、自身の販売する商品の宣伝用に流布した創作であり、後で詳しく紹介する通り、本物のOTAレポートにはそんなことは一切書かれていません。

通常医療 代替医療
OTAレポート原典治療効果はあるが、万能ではない安全性や有効性が客観的に評価されていない
今村氏の創作本「治療効果がないばかりか、かえって有害」「安全で有効だと証明された」

今村氏の創作は、本物のOTAレポート原典にはない、今村氏の完全オリジナルです。 今村氏の死後、船瀬俊介氏、宗像久男氏、宇多川久美子氏らも同様の主張をしていますが、彼らの主張の出典は、全て、本物のOTAレポート原典ではなく、今村氏の創作本です。

原典 

米国連邦議会技術評価局(Office of Technology Assessment)は 年間30〜40件、23年間に755冊の報告書を刊行した レファレンス No.675(2007年4月) - 国立国会図書館p.107 とされています。 また、 調査テーマは多岐にわたるが、保健・医療関係(がん、エイズ、薬物中毒、医療過誤等)が多い レファレンス No.675(2007年4月) - 国立国会図書館p.107 ため、単に「OTAレポート」ではどのレポートか区別がつきません。 ここで言う「OTAレポート」とは、その内容およびデマ情報の出所となった書籍の目次項目から、1990年のUnconventional Cancer Treatments/OTA-H-405(異端のがん治療(いわゆる代替療法))と推定されます。

unconventional
conventionalは「従来型の」「型にはまった」という意味を指す。当然、ここで言う型とは医学や科学の型であるから、conventionalであることが医学として本来の姿である。否定形のunconventionalを直訳的に「非従来型」「型破りな」と訳すと最先端医療との誤解を与えかねない。実際には、unconventionalは、医学や科学の型から外れたものであり、時代遅れの疑似科学的なものを指すと解釈できる。医学や科学の型にはまることは、実験等で実証する手続きを踏むことを指す。よって、ここでは、かなりの意訳ではあるが、その指し示す意味を正確に表すため、unconventionalに「異端の」という訳を充てた。「非実証主義」でも「邪道の」でも良いかもしれない。

その原文は以下のとおりです。

レポートの見出しを抽出すると次の通りです。

  • Front Matter (前付け)
  • Table of Contents (目次)
  • Chapters (章)
    • 1: Summary and Options (まとめとオプション)
    • 2: Behavioral and Psychological Approaches (行動心理学的アプローチ)
    • 3: Dietary Treatments (食事療法)
    • 4: Herbal Treatments (薬草療法)
    • 5: Pharmacologic and Biologic Treatments (薬理学的および生物学的療法)
    • 6: Immuno-Augmentative Therapy (免疫増強療法)
    • 7: Patients Who Use Unconventional (異端の治療(いわゆる代替療法)を使用している患者)
    • 8: Organized Efforts Related to Unconventional Cancer Treatments: Information, Advocacy, and Opposition (異端のがん治療(いわゆる代替療法)に関連する組織的な取り組み:情報、擁護、そして反対)
    • 9: Financial Access to Unconventional Cancer Treatments (異端のがん治療(いわゆる代替療法)への財政的アクセス)
    • 10: Laws and Regulations Affecting Unconventional Cancer Treatments (異端のがん治療(いわゆる代替療法)に影響を与える法律と規制)
    • 11: Laws and Regulations Governing Practitioners Who Offer Unconventional Cancer Treatments (異端のがん治療(いわゆる代替療法)を提供する施術者を規制する法律と規制)
    • 12: Evaluating Unconventional Cancer Treatments (異端のがん治療(いわゆる代替療法)の評価)
  • Appendixes (付録)
    • A: Method of the Study (研究の方法)
    • B: Glossary of Terms and Abbreviations (用語集および略語集)
    • C: Acknowledgements (謝辞)
    • References (参考文献)
    • Index (索引)

OTAレポート(1990年のUnconventional Cancer Treatments/OTA-H-405)の要約 

原文と和訳はOTAレポート和訳を参照してください。

全体概要 

Front Matter (前付け)のForeword (序文)には次のことが書かれています。

  • While mainstream medicine can improve the prospects for long-term survival for about half of the approximately one million Americans diagnosed with cancer each year (主流医学は、毎年がんと診断された約100万人のアメリカ人の約半分の長期生存率を改善できる)
  • Unconventional cancer treatments have received only cursory examination in the research literature, making an objective assessment of their efficacy and safety exceedingly difficult (異端のがん治療(いわゆる代替療法)は研究文献では大雑把な検討しか受けておらず、その有効性および安全性の客観的評価を極めて困難にしている)

代替医療の評価 

個々の代替医療の紹介部分では、決して、肯定的には紹介されていません。 例えば、Behavioral and Psychological Approaches (行動心理学的アプローチ)については、「主に症例報告と非対称研究に基づいている(based largely on case reports and uncontrolled studies.)」であり「がんの経過を改善するための行動心理学的アプローチの有効性はまだ不明(the efficacy of psychological and behavioral approaches in improving the course of cancer is still uncertain.)」とされています。 Immuno-Augmentative Therapy (免疫増強療法)についても、「OTAが1987年にこの研究を開始した時点においても、その3年後においても、IATが本報告書で取り上げた他の多くの治療法よりも多かれ少なかれ「有望」であることを示唆する証拠は存在していなかった(no evidence existed when OTA began this study in 1987, nor does it exist three years later, to suggest that IAT is more or less “promising” than many of the other treatments discussed in this report.)」とされています。 Dietary Treatments (食事療法)に至っては、有効性の証拠がないばかりか、危険性すら指摘されています。

代替医療全体の評価については、Evaluating Unconventional Cancer Treatments (異端のがん治療(いわゆる代替療法)の評価)にまとめられています。 このChapterの文章は、通常医療の評価方法および代替医療をどのように評価すべきかの説明が大部分を占め、代替医療の評価に関する部分はわずかです。 Conclusions (結論)を除く、代替医療の評価に関する記述には次のことが書かれています。

  • by and large, the treatments have not been evaluated using methods appropriate for actually determining whether they are effective (大抵の場合、実際に効果があるかどうかを判断するのに適切な方法を用いて治療法を評価していない)
  • regardless of the nature of the treatment or of its intended effects, in the final analysis, except for those treatments whose effects are dramatic, gathering empirical data from clinical trials in cancer patients using valid, rigorous methods is the only means for determining whether a treatment is likely to be of value to cancer patients in general or to a class of patient (劇的な効果を示す治療法を除き、治療法の性質や意図された効果にかかわらず、最終的な分析では、有効かつ厳密な方法でがん患者を対象とした臨床試験から実証データを収集することが、その治療法ががん患者全般または特定の患者にとって価値のある可能性が高いかどうかを判断する唯一の手段である)
  • For none of the treatments reviewed in this report did the evidence support a finding of obvious, dramatic benefit that would obviate the need for formal evaluation to determine effectiveness, despite claims to that effect for a number of treatments (本報告書で検討したどの治療法も、多くの治療法でその効果を主張しているにもかかわらず、正規の評価の必要性をなくすほどの明白で劇的な有効性の発見を裏付ける証拠はない)
  • Many practitioners and their supporters believe that the information that exists already, the fragmentary evidence presented in this report, is sufficient, and do not pursue evaluating their treatments in a way that would produce valid evidence (多くの施術者やその支持者は、すでに存在する情報、つまり本報告書で提示された断片的な証拠で十分だと考えており、有効な証拠が得られるような方法で治療法を評価しようとはしない)
  • Lack of development and evaluation through mainstream science, however, is axiomatic of unconventional treatments (主流科学的な開発と評価の欠如は、異端のがん治療(いわゆる代替療法)の一般慣習である)
  • This type of study cannot, except possibly in exceptional cases, provide definite proof of efficacy in terms of life extension, nor any estimate of rate of response to the treatment (この種の試験=best case reviewでは、例外的な場合を除いて、延命効果を明確に証明することはできませんし、治療に対する奏効率を推定することもできない)
  • the possibility of falsified information being used, omission of information, either intentional or unintentional; other mainstream or unconventional treatment that may have been used by the patient without the unconventional practitioner’s knowledge; the possibility of mistaking the natural variability of cancer for true regression; and the possibility of “spontaneous regression”(意図的かどうかに関わらず、改竄または情報の省略、施術者の知らないうちに患者によって他の治療法が使用された可能性、がんの自然な進行を退縮と誤認する可能性、および自然退縮の可能性)が懸念されている

具体例としてImmuno-Augmentative Therapy (免疫増強療法)の根拠の不備が指摘されています。 該当部分の記述によれば、Clementらは「IATは従来の治療よりも2~3倍長い生存期間をもたらす」と主張しています。 しかし、報告によればIATを受けた患者の生存期間は7〜80ヵ月であり、Clementらが引用した文献の一般的な患者の生存期間は1〜60ヵ月であり、「2~3倍」もの差はありません。 また、IATの被験者には次のような特徴があり、何もしなくても引用文献より予後が良い患者が選択されています。

  • 全員が白人で、かつ、一般的ながん患者よりも若く社会経済的地位が高い傾向にあった
  • 大多数(82%)がIATの前に通常医療のがん治療を受けており、86%が通常医療の所定のコースを終了していた
  • 診断後平均17ヵ月でIATを開始した(がんで死亡するリスクが最も高い期間を生き延びた患者のみがIATを開始した)
  • 最初にIATを受ける前には、76%が通常医療の外来診療を受けていた

よって、両者の生存期間の差は元々の患者集団の差に過ぎない可能性があり、Immuno-Augmentative Therapy (免疫増強療法)が効いた証拠になっていません。 そのことを指摘したCassilethらの研究を、何と、IAT患者会(IATPA)は「IATが有効である」「劇的な新しい証拠」だと喧伝しています。 尚、本報告書では「現時点では、特定の治療を受けた患者の記録のみを使用し、それらを何らかの「標準的な」生存率(またはその他の反応)情報と比較しようとしても、その治療における意味のある生存率(またはその他の反応)を計算することは不可能です。(At the present time, it is not possible to compute rates of survival (or other response) that can be related meaningfully to particular treatments, using only the records of patients who have had those treatments, and attempting to compare them with some “standard” survival (or other response) information.)」としていますが、これは、丸山ワクチンの効果に記載した「服部隆延先生の論文」「山形の加納医師の臨床結果」にも当てはまります。

これらを踏まえたConclusions (結論)には次のことが書かれています。

  • The same types of study that are used to determine the safety and effectiveness of mainstream treatments— including ultimately randomized clinical trials— would be required to determine the value of uncon- ventional treatments (主流の治療法の安全性と有効性を決定するために使用されるのと同じ種類の研究(無作為化比較試験を含む)が、異端のがん治療(いわゆる代替療法)の価値を決定するために必要とされる)
  • A potentially useful tool for beginning to evaluate unconventional treatments is the “best case review, which could be a first step toward prospec- tive clinical trials. (異端のがん治療(いわゆる代替療法)の評価を開始するための潜在的に有用なツールは、「best case review」であり、これは、将来の臨床試験への第一歩となる可能性がある)

通常療法の評価等 

Summary and OptionsのCURRENT MAINSTREAM TREATMENTS FOR CANCER (がんに対する現在の主流治療)を要約すると次のことが書かれています。

  • 手術、放射線療法、化学療法(薬物療法)、ホルモン療法、および免疫療法の概要と限界と展望
  • 治療法への議論、報道、情報交換が増えたこと
  • 患者の意思決定と生活の質の重要性

通常療法に一定の治療効果を認めており、「治療効果がないばかりか、かえって有害」とは書かれていません。

  • 治療効果を示す記述
    • 「手術は、固形がんに対して最も古く、かつ、最も効果的な主流の治療法であり、すべてまたはほとんどのがん組織を除去できる限局性がんの多くの場合に治癒可能である。 (Surgery is the oldest and still most effective mainstream treatment for solid tumors, and is curative in many cases of localized cancer in which all or nearly all cancerous tissue can be removed.)」
  • 特定の状況や疾病に限定した評価(がん治療全体の評価ではない)
    • 薬剤耐性が生じた場合のみに限定した「既存の化学療法による制御にはほとんど望みがない(there is little hope for control with existing chemotherapy)」
  • 治療効果について直接的な言及がないネガティブな記述
    • 生存期間、生存率への言及がない(抗がん剤によって生存期間、生存率が悪化するとは一言も書いていない)「高容量使用、全身投与、と多くの抗がん剤の毒性が、しばしば重篤な副作用の原因となる。(The use of high doses, the systemic administration, and the toxic properties of many anticancer drugs account for the often severe side effects of cancer treatment.)」
    • 抗がん剤と増殖速度の関係への言及がない(抗がん剤によって増殖が早まるとは一言も書いていない)「耐性細胞のクローンが増殖すると(If clones of resistant cells proliferate)」「耐性クローンの出現と薬剤耐性がんの再成長(The emergence of resistant clones and regrowth of drug-resistant cancers)」
  • 研究中の有望な治療法に関する記述(このうちいくつかは実用化され承認されている)
    • 「化学療法の成功率を高める取り組み(Efforts to improve the success of chemotherapy)」である「モノクローナル抗体(monoclinal antibodies)」や「光学療法(Photodynamic therapy (PDT))」

Summary and OptionsのCONTROVERSIES IN MAINSTREAM CANCER TREATMENT (主流がん治療の論争)を要約すると、従来型がん治療に次のような議論や批判があることが書かれています。 尚、レポート作成時は年齢調整死亡率が年々上がっていたようですが、現在は日米とも年々減少しています。

  • 治療方法の進歩が遅く、年齢調整死亡率が年々上がっていること
  • 予防の重要性
  • それら事実がUnconventional Cancer Treatments (異端のがん治療(いわゆる代替療法))の支持者に利用されていること
  • 化学療法では手術と比較した生存率の優位性が未実証の療法(結腸がんおよび直腸がんの補助療法など)も広範に使用されていること、および、その批判
    • ただし、生存率の優位性を示した新療法が普及する以前の議論
  • 予備的データに基づいてリンパ節転移の兆候がない初期乳がんの補助化学療法が有効だと発表したことに対する批判

従来型がん治療が患者のニーズに十分に答えていないことを指摘しているだけであって、「治療効果がないばかりか、かえって有害」とは書かれていません。

  • 治療効果を示す記述
    • 主流医学は「多くのがん、特に子供や若年成人に影響するがんの治療において、議論の余地のない成功を見てきた。 (have seen undisputed success in treating a number of cancers-particularly those affecting children and young adults)」
  • 特定の状況や疾病に限定した評価(がん治療全体の評価ではない)
    • 「結腸がんと直腸がんの補助療法 (adjuvant treatment of cancers of the colon and rectum)」に限定した評価
  • 他の治療と比較した相対評価(その治療の絶対評価ではない)
    • 「これらの治療法は、一次治療法である手術の利点を超える生存上の利点が殆どないか、想定よりも少ない可能性がある。 (these treatments might offer little survival advantage, or at least less than had been assumed, beyond the benefits of surgery, which is the primary treatment.)」
  • 治療の進歩を否定している記述(治療効果は否定していない)
    • 「ほとんどの固形腫瘍(特に肺がんと結腸がん)の生存率の向上はわずかである。 (the gains in survival for most solid tumors (lung and colon cancer, in particular) are small or nil.)」
    • 「ほとんどのがんの治療に大きな進歩がないことを指摘した。 (have noted a lack of significant progress in treating most cancers.)」
    • 「会計検査院は、いずれの場合においても、以前の治療成績と比べて僅かな改善に止まるか、全く改善していないことを指摘した。 (In each case, GAO found a more modest improvement than did NCI, or no gain at all.)」

書籍と和訳の食い違い 

既に示した通り、和訳内容は健康食品サイトなどで言われている話とかなり食い違います。

まず、序文等に書いてあるように、このレポートは主流医学を否定していません。 主流医学はがん患者の半数には有効だと明記されています。 その一方で、残りの半数にとっては、主流医学を補完または代替する手段が必要だと書かれています。 がん治療における主流医学の役割は十分ではないことを指摘しているだけであって、主流医学の治療効果を否定しているわけではありません。

その一方で、序文や結論には、Unconventional Cancer Treatments(異端のがん治療(いわゆる代替療法))、すなわち、所謂代替療法は有効性や安全性の客観的評価が適切になされていないことが指摘されています。 そして、無作為化比較試験を含む主流医学と同等の研究で有効性や安全性の客観的評価をすべきだとも書かれています。 アンチネオプラストン療法の提唱者やゲルソン療法の推進者は今後の客観的評価の実施に前向きな姿勢を見せているものの、IAT(免疫増強療法)の提唱者は客観的な評価に消極的だったとも書かれています。 そうした客観的検証を経ればいくつかのUnconventional Cancer Treatments(異端のがん治療(いわゆる代替療法))が主流の診療に採用される可能性があるとしていますが、一方で、客観的検証に耐えないものは消えていくことも予想されています。

疑似科学を流布する人たちの特徴として、持論に都合の良い情報には想像を付け加える一方で、次論に都合の悪い情報は綺麗さっぱり排除します。

  • 治療効果を示す記述
    • 「主流医学は、毎年がんと診断された約半数の長期生存率を改善することができる (While mainstream medicine can improve the prospects for long-term survival for about half)」
    • 「手術は、固形がんに対して最も古く、かつ、最も効果的な主流の治療法であり、すべてまたはほとんどのがん組織を除去できる限局性がんの多くの場合に治癒可能である。 (Surgery is the oldest and still most effective mainstream treatment for solid tumors, and is curative in many cases of localized cancer in which all or nearly all cancerous tissue can be removed.)」
    • 主流医学は「多くのがん、特に子供や若年成人に影響するがんの治療において、議論の余地のない成功を見てきた。 (have seen undisputed success in treating a number of cancers-particularly those affecting children and young adults)」
  • 特定の状況や疾病に限定した評価(がん治療全体の評価ではない)
    • 薬剤耐性が生じた場合のみに限定した「既存の化学療法による制御にはほとんど望みがない(there is little hope for control with existing chemotherapy)」
    • 「結腸がんと直腸がんの補助療法 (adjuvant treatment of cancers of the colon and rectum)」に限定した評価
  • 他の治療と比較した相対評価(その治療の絶対評価ではない)
    • 「これらの治療法は、一次治療法である手術の利点を超える生存上の利点が殆どないか、想定よりも少ない可能性がある。 (these treatments might offer little survival advantage, or at least less than had been assumed, beyond the benefits of surgery, which is the primary treatment.)」
  • 治療効果について直接的な言及がないネガティブな記述
    • 生存期間、生存率への言及がない(抗がん剤によって生存期間、生存率が悪化するとは一言も書いていない)「高容量使用、全身投与、と多くの抗がん剤の毒性が、しばしば重篤な副作用の原因となる。(The use of high doses, the systemic administration, and the toxic properties of many anticancer drugs account for the often severe side effects of cancer treatment.)」
    • 抗がん剤と増殖速度の関係への言及がない(抗がん剤によって増殖が早まるとは一言も書いていない)「耐性細胞のクローンが増殖すると(If clones of resistant cells proliferate)」「耐性クローンの出現と薬剤耐性がんの再成長(The emergence of resistant clones and regrowth of drug-resistant cancers)」
  • 治療の進歩を否定している記述(治療効果は否定していない)
    • 「ほとんどの固形腫瘍(特に肺がんと結腸がん)の生存率の向上はわずかである。 (the gains in survival for most solid tumors (lung and colon cancer, in particular) are small or nil.)」
    • 「ほとんどのがんの治療に大きな進歩がないことを指摘した。 (have noted a lack of significant progress in treating most cancers.)」
    • 「会計検査院は、いずれの場合においても、以前の治療成績と比べて僅かな改善に止まるか、全く改善していないことを指摘した。 (In each case, GAO found a more modest improvement than did NCI, or no gain at all.)」
  • 研究中の有望な治療法に関する記述(このうちいくつかは実用化され承認されている)
    • 「化学療法の成功率を高める取り組み(Efforts to improve the success of chemotherapy)」である「モノクローナル抗体(monoclinal antibodies)」や「光学療法(Photodynamic therapy (PDT))」

これらは、通常医療が万能ではなく、かつ、進歩が遅いことを示していますが、通常医療の効果は否定していないし、効果を超える害があるとまでは言っていません。 しかし、今村光一氏は、これを「治療効果がないばかりか、かえって有害」という話に作り変えました。

同様に、「異端のがん治療(いわゆる代替療法)は研究文献では大雑把な検討しか受けておらず、その有効性および安全性の客観的評価を極めて困難にしている。 (Unconventional cancer treatments have received only cursory examination in the research literature, making an objective assessment of their efficacy and safety exceedingly difficult.)」のような記述を排除し、提唱者や支持者自身の自己評価や体験談等の科学的根拠にならないことを殊更に取り上げることで、代替医療が安全で有効だと証明されたことにしてしまっているのでしょう。 和訳と称しながらも、原文そのままの和訳を一切掲載せず、著者の歪んだ個人的感想を掲載するから、原典とは全く違う内容になるわけです。

この報告書に書いてあることをまとめると次のようになります。

  1. 主流医学だけでは患者のニーズを十分に満たせない現状がある
  2. そこで、米国下院エネルギー・商業衆議院委員会委員長のJohn Dingell下院議員は、代替医療について米国連邦議会技術評価局(Office of Technology Assessment)に調査させた
  3. 調査した結果、代替医療の安全性と有効性の客観的評価が全くできていないことが分かった
  4. 今後、無作為化比較試験等で代替医療の客観的評価を行う必要がある

ようするに、このレポートは、通常医療に治療効果がないことを示してはいないし、代替医療に治療効果があることも示していません。 代替医療に対しては、どちらかと言えば、駄目出しをしているのです。 このレポートが指し示すことには「溺れて藁をつかむ人が多数いるのだから、その藁に掴まる場合の損得をしっかりと調べるべきだ」以上の意味はありません。 ようするに、主流医学では患者の需要を完全に満たせておらず、代替医療にすがる人もいるのだから、代替医療も客観的な検証をすべきであり、現状ではその検証が全くと言って良いほどできていないことが報告されているのです。 このレポートは、代替医療の価値を認めたわけでは全くなく、ただ、野放しにすべきではないから調べる必要があると指摘しているだけです。

そして、このレポートが元になって、国立衛生研究所代替医療局(National Institute of Health, Office of Alternative Medicine)が設立され、米国が国を挙げて代替医療の研究に取り組んだのは事実です。 しかし、国立補完代替医療センター(National Center for Complementary and Alternative Medicine)に組織改変され、より本格的な研究体制に移行しても、がんに効果のある代替医療はひとつも見つかりませんでした。 そして、通常医療の代替的役割が期待できないことが明らかになったため、「代替(alternative)」という言葉のつかない国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health)に改称されています。 結局、藁を調べてみても、所詮は藁に過ぎなかったということです。 権威あるJournal of the National Cancer Instituteに代替医療の効果を評価した論文が掲載されています。

全患者 乳がん 精巣がん 肺がん 大腸がん

JNCI: Journal of the National Cancer Institute, Volume 110, Issue 1, 10 August 2017, Pages 121–124

標準療法との比較では、精巣がんを除いて、代替医療の方が有意に劣っています。 精巣がんも、代替医療の方が優れていることを示してはいません。 残念ながら、無治療との比較はできていないので、代替医療に何らかの治療効果があるかどうかは不明です。 しかし、通常医療と比較して代替医療の方が確実に劣ることは示されています。 以上のことから、通常医療を代替医療に転換すると、がんの治療成績が大幅に低下することは確実です。 今村光一氏の書籍を鵜呑みにする前に科学的根拠をきちんと調べた方が良いでしょう。

これらに記載されていないようなものは、最近出てきたものや全く無名なものであろうから、当然、まともな実績などあろうはずもありません。

OTAレポートの実態 

米国連邦議会技術評価局(Office of Technology Assessment)は米国議会の付属機関であり、その報告書は政治方針を決定するための資料です。

OTAは、議会活動のために必要となる科学技術課題の評価分析を行い、複数の政策オプションを提供するという、「議会テクノロジー・アセスメント」の原型を確立し、その後、欧州各国に誕生した議会TA機関の先駆となった。

レファレンス No.675(2007年4月) - 国立国会図書館p.5

OTAレポートは、議会スタッフからはあまり高く評価されていません。

OTA報告書の評価

レファレンス No.675(2007年4月) - 国立国会図書館p.108

OTAレポートは1995年に廃止されていますが、その理由のひとつとして「評価内容が客観性に欠ける」ことも挙げられています。

共和党によるOTA廃止論の主張は次のようなものであった。 ①OTAの機能は、他の議会機関、GAOやCRSの業務と重複している、 ②OTAの作業は時間がかかりすぎ、議会の立法サイクルにあっていない、 ③OTAの報告書は大部すぎる ④評価内容が客観性に欠ける、 ⑤OTAは議会にとっては「ぜいたく」であり、維持する余裕はない、 などである。

レファレンス No.675(2007年4月) - 国立国会図書館p.109

以上を踏まえて、OTAレポートを読む前に次のことに注意する必要があります。

  • 必ずしも、科学的データに基づいて医学的に適切な評価が行われているとは限らない
  • このレポートの後も米国は通常医療の研究に多大な予算をつぎ込んでおり、米国議会は通常医療の研究を支持している
  • 米国では代替医療の研究助成が行なわれたが、結局、がんの治療効果のある代替医療は見つからなかった。
  • 30年近く前の報告であって、その間にがん治療も大きく進歩した。

背景 

誤った情報が流布される原因はマクガバン・レポートと同じでしょう。 Unconventional Cancer Treatments/OTA-H-405(異端のがん治療(いわゆる代替療法))をOTAレポートと呼ぶのは、インチキ“治療”法だけに見られる特徴です。 先に説明した通り、米国連邦議会技術評価局(Office of Technology Assessment)は多数のレポートを刊行しているため、その中の1つを「OTAレポート」と呼んでは他のレポートと区別がつきません。 デマの出所となった今村光一氏は、第三者による内容の検証を妨げる必要があったので、どのレポートかを特定できないように故意に「OTAレポート」と呼んだと思われます。 一方で、今村光一氏の情報を検証せずに鵜呑みにしている人は、どのレポートか特定する情報を把握していないため「OTAレポート」としか呼びようがありません。 つまり、デマに加担している人たちは、レポートについて自分で調べていないか、あるいは調べてデマだと理解したうえで、「OTAレポート」などという呼んでいるのです。 OTAレポートの何たるかが分かっていて、かつ、嘘をつく意思のない人は、そのうちの1つだけを指して「OTAレポート」と呼ぶはずがありません。

以上のように、マクガバン・レポートについてマクロビ・代替療法の世界で紹介されている内容の多くは嘘か誤解に基づいている。 この他にもマクガバンが政治生命をかけたとか、その後アメリカはマクガバン・レポートに基づいて食事が改善されたとか、事実とそぐわない伝説が無数に存在している。 こうした伝説は、日本ではアメリカの情報が得にくいからこそ普及したのではないだろうか。

アメリカでもマクガバン・レポートを代替療法の側が資料に使うことがあるが、日本の例ほど極端ではない。 アメリカではもっと容易に報告の元資料に当たれるし、マクガバン議員や自国の栄養事情について嘘を書いてもばれやすいからだろう。 だが、日本では今後もこうした「伝説」が様々なバリエーションを生みつつ普及していくと思われる。

マクガバン・レポートの真実 - 火薬と鋼


もともとはまともな内容のマクガバン報告が、トンデモな内容と連鎖してしまった原因は、おそらく、日本に紹介される過程において、不正確な和訳がなされてしまったものと思われる。

マクガバン報告から考えた日本の食生活 - NATROMの日記

1つ間違いがあるので指摘しておきます。 誤った情報源は 今村光一氏の書籍でしょうが、これは「不正確な和訳」ではなく故意の創作です。

本書はマクガバンレポートの抄訳という体裁をとっているものの、具体的に引用した部分はあまりなく、「委員会でも証言した○○博士が述べているとか」、「M委ではこんな証言があった」、と記しながらその名前が書かれていなかったりします。 また、委員会とは無関係だと思われる別の事例が委員の発言とされる文章のあとに書かれていたりと、どこまでがレポートの紹介なのか、どこからが今村さんの主張なのかがよく分からない構成になっています。 マクガバンレポートの抄訳であるとの認識で本書を手にされた方が居たとしたら、その期待は裏切られてしまうでしょう。

マクガバンレポートと今村光一さん そしてその後 - とらねこ日誌

今村光一氏は健康食品輸入販売会社の社長であり、薬事法違反での逮捕歴があります。 彼は、自らが販売する商品の宣伝のために、故意に間違った情報を流布したのです。 嘘には少しだけ真実を混ぜると信ぴょう性が増すと言われますが、今村光一氏の手口では報告書や議会証言の存在のみが真実であり、その主要内容は今村光一氏自身が作り出したフィクションに過ぎません。

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